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言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第三話*観測者と特異職
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[2] 『闇呼び』の誕生(2)

「情報が修復されて、再構成されたんだ。種別としての『言名コトナ』がおなじ存在はあるけど、『真音シンオン』まで一致したモノはないからね。在り方を奪われた[長庚]が、もう一度カタチを得たってこと。人格はくみかわってるけど」



 いらだちまぎれに早口で言いつのったフヒトは、ちらりと、アリスをうかがいみた。


 アリスは、黒い瞳をきらきらと輝かせて、言う。



「つまり、生まれかわったんだな!」

「もう、それでもいいよ」

「違うなら違うって言えよ……」



 がっくりと肩を落としたアリスが、そのまま床に座りこむ。最後に磨いたのがいつだったか、まるで記憶にない木面に。


 ためらいもせずに直接腰をおろしたアリスを見下ろすフヒトの瞳に、あきれが色濃くうかんだ。



「僕らは情報体だって忘れてるでしょ」

「でもさあ、『生まれる』んだろ?」



 だったらおなじじゃないか、とつぶやくアリスに、間をあけずフヒトは答えた。



「カタチを得ることをそう呼ぶだけ。同時に生まれれば双子。過去に同一の『真音』をもったモノがあれば、それが親」



 当代の[勇聖]ゆうせいであるヒジリが末裔と形容されるのは、そのためだ。


 『真音』がおなじであることは、厳密な意味で同一の『言名』を継ぐことを意味する。幾代か受けつがれれば、それは一つの系譜とみることができる。



「なんだよそれ、めちゃくちゃじゃねーか」

「そう?」



 アリスは、納得がいかない様子で腕をくんでいる。しかし、フヒトにとっては、どれもあたりまえの感覚だ。


 親はいない。双子もめずらしい。ある瞬間から学都に存在し、その在り方は最初から定まっている。いつか霧散するそのときまで。


 フヒトに限らず、学都に存在するヒトは、みなそういうものだった。――あの、『例外』だけを除いて。



(ユ=イヲンは……、あれ?)



 フヒトは不意に、[破戒者]はかいしゃの生いたちをなにも知らないことに気づいた。


 [調停者]ちょうていしゃリ=ヴェーダと同時期に生まれ、しかし双子ではない。それ以上の情報が、まるでない。



「よくわかんねーけどさ、ユウズツってやつの生まれかわり? のせいで、夜んなって、そのうちホムラビってやつが昼にするってことだろ?」



 アリスが、ぱちぱちと眼をまたたかせて言う。


 だから生まれかわりじゃないんだけど、と言いたい気持ちをおさえて、フヒトは腰をあげた。



「よる……ね。そういえば、来訪者の出身地には活動できない時間帯とやらがあるんだっけ。でもね、アリス。学都ディーチェに『夜』はない。ここにあるのは『影』。それだけだよ」



 フヒトが言いおわるころには、カーテンの隙間からかすかな光が差しこみはじめていた。


 [長庚]が飽いたのか、[焔灯]が【権限】を用いたのか。薄明かりはまもなく、学都全域をあまねく照らす輝きと変わるだろう。



 アリスのわきを通りすぎようとしたフヒトの衣のすそが、ぐい、と引かれる。


 大方予想していたフヒトは、バランスを崩すこともなく立ちどまり、少年を見下ろした。



「どこいくんだよ? フヒト」

「[長庚]に会いにいくよ。『名持ち』の代替わりには[史記]が立ちあうんだ」



 もっとも、今回はユ=イヲンが介入した変則的な例であるので、代替わりと言うより復帰に近いのかもしれないけれど。



「俺は?」

「もちろんくるんだよ、アリス。僕はきみの監査役なんだから」



 実際にはさらに保護者役を兼ねてもいるが、フヒトにとってはたまったものではないので、割愛する。


 返答を待たず、さっさと歩きだしたフヒトを追って、アリスがあわてて立ちあがる。


 ばたばたと駆けよってくる足音を聞きながら、他の特異と面通ししなければならないことを思い、フヒトは不安をつのらせるのだった。

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