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言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第三話*観測者と特異職
26/115

[1] 『闇呼び』の誕生(1)

 『学園』の北部、校舎の陰となった奥まった立地の監査棟。その一室で、フヒトはじっと窓の外をみつめていた。



「『闇呼び』が戻った……」



 広がる、灯りのない空。先代が消えてから、長らく空位だった[長庚]ゆうずつが生まれたことを知る。学都ディーチェに、ひさしぶりの暗闇が訪れていた。


 [焔灯]ほむらびとのバランスはどうなるのだろうか、と思いめぐらせながら、フヒトは窓枠に頭をあずける。



(もう、つかれた)



 なにも変わらないくりかえしの日々。機械的に過ごす日常に、飽き飽きしていなかったかといえば、嘘になる。


 それでも、フヒトは変化を望んでいたわけではない。


 特異職の一、今代唯一の[史記]しきとして、そうあるべきと定められたままに生きた。記録者たることこそが、フヒトを構成する柱だった。



 ――しかし、今は。



 フヒトが、本日何度めかわからない吐息をこぼしたとき、ばたばたとせわしない足音が廊下に反響する。


 壁一枚はさんでなお衰えない想像しさに頭をかかえながら、フヒトは窓辺から離れ、後方へ視線を流す。


 その先で、古びた木製の扉が、痛々しい音をたてて押しひらかれた。



「フヒト! 外! どうなってんだよあれ! いきなり暗く――」

「うるさい」



 駆けこんだ勢いを殺さず、まっすぐ飛んできた金色の猫っ毛をわしづかんだフヒトは、はた迷惑な小動物をすぐわきの長椅子めがけて乱雑にほうった。



「いった! なにすんだよ、フヒト」

「『痛い』と思うから痛いんだよ。わかってる?」



 淡々とした口調で言いはなつフヒトに、そういう問題じゃ……とごねるアリスは不満気だ。ぶすくれた少年をさらりと無視したフヒトは、無言で窓に向きなおると、手早くカーテンを引いた。



「あ!」



 思わず、といったように声をあげたアリスを、フヒトはいたって冷静に見下ろす。



「別に、めずらしいことじゃないよ。本来の在り方に戻っただけ。じきに明るくなる」

「なんだよそれ」

「[焔灯]がいるからね」

「はあ?」



 ぽかん、と口を開けたアリスに、詳しい説明をする気力が萎えたフヒトは、別の一脚を引きよせて腰を下ろす。



「特異職の一つ。[焔灯]は、熱と灯りの管理者。『闇呼び』の[長庚]が戻った・・・から影がきた。だけど、まだ不安定だからつづかない。……もともと、[焔灯]の権限のが優先されるし」



 つらつらと言葉を並べたてながら、先代の[長庚]が消えた、いや、【破戒コワ】されたのは、どれほど前のことだったかと、フヒトは首をひねる。


 【参照】してしまえば早い。


 けれど、そこまでの労力をかける気にもならず――ましてやこの場にいる『読み手』はアリスだけだ――早々にあきらめたフヒトは、まぶたをおろして背もたれに身体を投げた。



(イカれ猫の考えなんて、わかるものか)



 [長庚]はユ=イヲンの逆鱗にふれて消された。例のごとく、うまく【参照】できない記録であるため、詳細はさだかでない。しかし、事実だ。


 だんまりを決めこんだフヒトにいらだったアリスは、長椅子から身をおこすと、フヒトの目の前で、バチン、と両手を鳴らした。



「……なに」



 数秒おいて、しぶしぶ目をひらいたフヒトが、アリスを見上げる。



「戻ったってなんだよ。そんな説明でわかるわけないだろ」

「わからなくていい」

「俺はよくない!」



 すかさず叫んだアリスに、ひくり、とほほを引きつらせたフヒトは、盛大に息を吐きだして気持ちを落ちつかせる。


 現実逃避から抜けだそうともアリスはやはりアリスで、開きなおったその行動力に振りまわされ、フヒトは辟易しはじめていた。

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