[5] 『来訪者』の有り様(1)
一体なにを言っているんだろう、というような表情を浮かべたアリス。そのわきをフヒトが小突くと、ようやく少年は声を発した。
「なあ、『来訪者』って、なんなんだ?」
アリスは、無邪気に問いかえす。
そういえば説明していなかったな、と後悔しながら、フヒトはリヴをうかがい見た。三位が正式につどう場で、本来、フヒトに発言権はない。
「来訪者とはすなわち、学都に迷いこんだ異物の総称」
ひじ掛けに上半身をもたれながら、エマが応じる。
「ゆえに、お主も『来訪者』と呼ばれる。なかなかに希少な存在での、妾も実際に目にするのははじめてじゃ」
「むだに長く生きているくせにな」
「黙れ、妾の五分の一も生きておらぬひよっこが」
エマの紅玉が、鋭い輝きをまとってヒジリへと向けられる。それを受けて、ヒジリもゆるりと口角を持ちあげる。
一触即発の空気を断ちきるように、リヴが重く息を吐きだした。
「……フヒト」
[調停者]の意をくんだフヒトは、慌てて身のうちにある知識をかき集める。以前の来訪者たちに関しては、たびだび【参照】をおこなったことがある。
リヴから事実上の発言の許可を得て、フヒトは語りはじめた。
――来訪者と呼ばれるモノの、一般的な在り方。その末路を。
「さきの来訪者があらわれたのは、およそ八十年前になります。それよりも最近に『異物』が混入した、という記録もありますが、いずれも数時間と置かずその姿形を失っており、『来訪者』とは称しがたいモノです」
「は……!?」
抑揚なく告げるフヒトに、動揺したアリスが勢いよく席を立つ。
「どういうことだよ、それ! 姿を失う? そんな、俺、なんで……」
「ああ。まだ、言ってなかったね」
混乱のさなかにあるアリスを、凪いだ浅緑の双眸がとらえる。
「アリス」
漆黒の瞳が、ゆらゆらと揺れながらフヒトを見下ろしている。人工的な金をまとう猫っ毛もまた、心なしか震えているようだった。
「きみは、ここにいるはずがないんだよ」
言いおえた瞬間、アリスの瞳が、大きく、大きく見開かれる。今にもこぼれ落ちてしまいそうな、一対の黒真珠。
活発な少年らしい薔薇色のほほから、すぅ――と色が引いていくのを、フヒトは無表情に見つめていた。




