表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第二話*観測者と三位
17/115

[5] 『来訪者』の有り様(1)

 一体なにを言っているんだろう、というような表情を浮かべたアリス。そのわきをフヒトが小突くと、ようやく少年は声を発した。



「なあ、『来訪者』って、なんなんだ?」



 アリスは、無邪気に問いかえす。


 そういえば説明していなかったな、と後悔しながら、フヒトはリヴをうかがい見た。三位が正式につどう場で、本来、フヒトに発言権はない。



「来訪者とはすなわち、学都ディーチェに迷いこんだ異物・・の総称」



 ひじ掛けに上半身をもたれながら、エマが応じる。



「ゆえに、お主も『来訪者』と呼ばれる。なかなかに希少な存在での、妾も実際に目にするのははじめてじゃ」

「むだに長く生きているくせにな」

「黙れ、妾の五分の一も生きておらぬひよっこが」



 エマの紅玉が、鋭い輝きをまとってヒジリへと向けられる。それを受けて、ヒジリもゆるりと口角を持ちあげる。


 一触即発の空気を断ちきるように、リヴが重く息を吐きだした。



「……フヒト」



 [調停者]の意をくんだフヒトは、慌てて身のうちにある知識をかき集める。以前の来訪者たちに関しては、たびだび【参照】をおこなったことがある。


 リヴから事実上の発言の許可を得て、フヒトは語りはじめた。


 ――来訪者と呼ばれるモノの、一般的な在り方。その末路を。



「さきの来訪者があらわれたのは、およそ八十年前になります。それよりも最近に『異物』が混入した、という記録もありますが、いずれも数時間と置かずその姿形を失っており、『来訪者』とは称しがたいモノです」

「は……!?」



 抑揚なく告げるフヒトに、動揺したアリスが勢いよく席を立つ。



「どういうことだよ、それ! 姿を失う? そんな、俺、なんで……」

「ああ。まだ、言ってなかったね」



 混乱のさなかにあるアリスを、凪いだ浅緑あさみどりの双眸がとらえる。



「アリス」



 漆黒の瞳が、ゆらゆらと揺れながらフヒトを見下ろしている。人工的な金をまとう猫っ毛もまた、心なしか震えているようだった。



「きみは、ここにいるはずがないんだよ」



 言いおえた瞬間、アリスの瞳が、大きく、大きく見開かれる。今にもこぼれ落ちてしまいそうな、一対の黒真珠。


 活発な少年らしい薔薇色のほほから、すぅ――と色が引いていくのを、フヒトは無表情に見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ