表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第二話*観測者と三位
15/115

[3] 勇者の末裔

 すでに、アリスは眼を白黒させている。かまわずフヒトが言いつのろうとした、瞬間。


 ギィ、と古臭い音をたてて、扉が開いた。



「そんくらいにしてやれよ、フィーちゃん?」



 不意に割りこんできた軽薄な声に、エマの表情が一瞬でかき消える。その迫力に、フヒトは思わず閉口した。



(……とうとう、きた)



 ぎぎぎ、と音がしそうなほどぎこちない動作で、ふり向いたフヒト。その視界に、長身の美丈夫が飛びこんでくる。


 藍白あいじろの短髪を、好き勝手な方向に遊ばせた青年だ。その瞳は、エマよりも一層濃い、深緋こきひ



「す、っげえ……アルビノカラー……!」

「アリス、あれは色素異常じゃなくて」

「――目障りじゃ、失せよ」



 案の定、見当はずれな感嘆をしたアリスを、フォローしようとした矢先。背後から放たれた絶対零度の台詞に、フヒトは身をすくませた。


 わざわざ確認せずともわかる。いっそ恐ろしくて確認したくもないと、フヒトは思う。


 ――エマは、その可憐な容姿に不つり合いな、凄絶な笑みを浮かべているに違いなかった。



「はっ、あいかわらず可愛げのない魔王だな」

「貴様と同次元にとらえるでない。不愉快だ」



 侮蔑のみをたたえた、冷え冷えとした口調でヒジリを一蹴した[叡魔]は、さらに嘲笑をそえて言葉を重ねる。



[勇聖](ゆうせい)の名が聞いてあきれる。貴様があれの末だとは、まったく嘆かわしい」

「よく言う。停戦協定さえなけりゃ滅ぼされていた身で」



 あまりの応酬に、フヒトは、ほほを引きつらせる。張りつめた空気は、いっそ痛いほどだ。


 そのなかで、学都ディーチェにおける為政者の片割れ――光の眷属を統べる王、[勇聖]は、ニィ、と口の端をつり上げて、獰猛な笑みを浮かべてみせた。



「ふ、フヒト」

「……静かにしてて」



 本能的に恐怖を感じたらしいアリスをなだめながら、フヒトは、ひそかにため息をついた。



(これだから、関わりたくないんだ)



 単体でもアクの強い二人の王は、とんでもなく相性が悪い。不仲と呼べるレベルを、逸脱しているほどに。


 当代の[勇聖]ヒジリは、『聖魔戦争』を引きわけた英雄の末裔であるからして、生きのこりたる[叡魔]とは、もとより因縁深い間柄にある。


 しかし、その事実を差しひいてもなお、エマがヒジリを嫌悪していることは、火を見るより明らかであった。――その逆もまた、しかり。



[干戈](カンカ)



 戸口に立つヒジリが、うなるように低く告げる。と、同時に、そのわきをすり抜けるようにして人影が室内に踊りいる。


 あまりの速さに眼で追うことさえできないフヒトの視界の片隅を、鋭利な金属の光沢がかすめていった。



(え……?)



「止まれ! [干戈]」



 呆然と固まるフヒトの耳に、待ちわびた声が、届く。


 ヒジリを押しのけるようにして戸口に立った[調停者]は、室内の惨状に苦く表情をゆがめていた。



「リヴ様……!」



 永遠に続きそうな拷問の時間を終わらせる、唯一の希望。これでようやく場に収集がつく、とフヒトは安堵の息を吐きだす。


 しかしながら、リヴの視線をたどった先の光景に、フヒトは気が遠くなる思いを味わった。



「感謝しよう、リ=ヴェーダ。どこぞの愚か者は飼い犬のしつけもなっておらぬようじゃの」



 侮蔑の色をありありと映した、紅赤べにあかの瞳。


 変わらず嘲笑を浮かべるエマまで、あと一歩といったところで、短刀を構えたままピタリと固まっている少女こそが、[干戈]だ。


 そしてエマの傍らには、いつのまにか距離を詰めた[守牙]が、当然のように控えている。



「俺の基本方針は放し飼いでね――リ=ヴェーダ、そろそろ放してくれないか」



 ひょうひょうと応じたヒジリは、リヴから鋭いまなざしを受けて肩をすくめる。


 よりにもよって、襟首を掴まれるようにして捕獲された体勢のまま。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ