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第三章 過去の君が

 第三章 過去の君が


 ふむ。やはりそういう反応をしてくると思ったのだよ。この事を告げられたら、そんな呆けた顔をすると思ったのだよ。

 え?当たり前だって?ふむ。それは当たり前のことだ。

 まあいい。……まだあるのか。神は元々人からできるものなのかって?そんなもの私は知らん。まあ、私は特殊な方だとは思うぞ。

 それだけか。では、話を戻そう。

 私とその人が出会ったのはもう何百年以上も前のことだ。名は正太郎と言う。まあ、名前から分かるとおり男だ。

 私と正太郎が出会った場所は、翔と出会ったあの桜並木の場所だ。


 何百年以上も前。

 あの桜並木は美しく、咲き誇り続けていた。

 私は人として生きていたとき捨て子だった。綺麗な着物を着せられ、私は捨てられた。私が気付いたときにはいつの間にか父も母の姿も見当たらなかった。

 捨てられたのは本の五歳のとき。そのため、両親の顔なんて覚えても居なかった。

 私の家族は別に貧しい暮らしをしていたわけではない。だが、私が捨てられた理由は分かっていた。

 私の首元には桜の形をしたあざのような物がある。それはくっきりとうつり、綺麗なぐらいだった。

 だが、その桜の形をしたあざは私の住んでいるところでは、呪いでしかなかったのだ。そのあざがある人物は、神からの呪いを受けているのだといわれ続けていたのだ。

 運が悪いことに私が生まれた年には、大洪水が起きた。そして、その翌年には米の不作が続き、その二年後には大規模な地震が起きた。更に翌年に火山の噴火が起きた。

 偶然なのか必然なのか、そんな事が起こった為、私は住んでいる村から追い出され、親にも捨てられた。

 そのため、両親や知り合いも居ないなか、どうしようもなかった私は食糧も確保でできず私は痩せ、不清潔で限界が来ていたときに正太郎に出会ったのだ。

 それはふらふらとどこかも分からないところを歩いていたときだった。

「おいっ。大丈夫か?しっかりしろ」

 私はいつの間にか倒れていて、誰かは分からないが体を揺すられていた。かろうじて目を薄っすらと開けたが、誰なのかも分からずすぐに私は目を閉じてしまった。

 そのまま私は意識をなくしてしまったのである。


 目が覚めたときには私は布団の中に入っていた。

 服がさっぱりとしていて、見てみると寝巻きへと変わっていた。

 起き上がって辺りを見渡すと、そこは寝床のようだった。畳が敷かれ、静かな場所だった。寝床は広く、小さい机があった。

 その机の上に覆いかぶさるようにして一人の男が寝ていた。静かに寝息を立てている。

 障子からの光はまだ少なく、早朝と思われた。

 私が起きた気配がしたのか、男が眠そうな顔で私のほうを見た。

「ああ。起きたのか。大丈夫だったか?」

 男は根をこすりながら私のほうへやってきた。男の身長は中ぐらいで青の寝巻きを着ている。

髪は寝起きのためかぼさぼさとはねていた。

「そんな緊張しなくてもいいって。何もしないよ」

 男は能天気そうにヘラヘラと笑う。

「すまんが、私はそれだけ寝ていたのだ?」

「えっと……一日半ぐらいかな」

「そうか……世話になったな」

 私はこの男に助けられ、ここでも災いが起きると悪いと思い颯爽と出て行こうとした。

「ちょ、ちょっと待って。折角だからゆっくりしていってよ」

 男は出て行こうとする私の肩をつかんだ。

「助けてもらったことには礼を言う。だが、それならなおさらここにいてはいけないのだ」

「なぜ?」

「私は――――」

「呪いの子供だから……か?」

 私は先ほどまでへらへら笑っていた男が、こんなにも冷たい表情をするとまでは思っていなかった。私は息を呑んだ。

「譲ちゃんが寝てる間に調べさせてもらったよ。それで、あの村から追い出されたと」

「…………」

「だがな、俺はそうは考えない。呪いなんて俺は信じちゃいないし、そんなもんたまたまだ。それに、いま譲ちゃんがここから出て行ったとき、譲ちゃんは生きていけるか?」

 私は男の言っていることはもっともだと思い黙り込んだ。

「それに、もし仮に呪いがあってここに厄介が起ころうとも、私はかまわないね。それに、譲ちゃんの身も心配だ。ゆっくりしていきたまえ」

 私はそう言われても迷惑は掛けたくなかったため、障子を開けようとしたそのとき、

『ぎゅるるるるるる~っ』

 何の音かと思わせるほどの大きな音が鳴った。

 これには驚いたようで、男は目を見開いている。

「…………それに、盛大にお腹もなったようだしな。飯、食べてけよ。まあ、最低でも飯は食べて行かせるつもりだったからな」

 こいつは、本当に私に何か食べさせるまで出て行かせないつもりだな。

 私はこの男のためを思っていっているのだが…………、しょうがない、飯を食べさせてもらって出て行くか。

 そう思っていると、ため息が出た。

「わかった。では、何か戴こう」

 パンッ

 私のその人事を聞いたと同時に、男は手を叩いた。

 すると、私の立っている真後ろの障子から一人の女性が頭を下げていた。

「何か御用でしょうか」

「飯を持ってきてくれ。二人分な」

「かしこまりました」

 その女性は速やかに立ち去って行った。

 障子から出てきた女性はこの男に仕える者らしく、丁寧に振舞っていた。

「なあ、ここであったのもなんかの縁だ。俺の名前は藤沢正太郎。君の名前は?」

「さくらだ。……性はなくした」

 そう、性はなくした。……正確に言えば、性は捨てただが。

「そうか。なら、『藤沢』を名乗ればいい」

「はあ?なぜ、貴様のせいなど名乗らなければならぬのだ!」

 正太郎は愉快そうに哄笑する。

「なあ、譲ちゃん。いや……さくらちゃん」

「…………ちゃんはつけんでいい」

「そうか。なら、さくら。ここで一つ提案なんだがここに住まないか?別に悪い案じゃないと思うが」

 だから……貴様も知っている通り…………私がここにいると厄介が起こるのだぞ!

 正太郎は私がそういうというのを予想していたように、にやりと笑った。

「そういうと思ったさ。だが、本当におまえはそんな馬鹿げた事を信じているのか?……まあ、確かにおまえが生まれた年からは様々な厄介が起こったが……そんなものはただの偶然にしか過ぎないと思うが?」

 確かに私はそう思っている。でも、もしかしたら、呪いが本当で……この者にも危害が加わったとしたら?

 正太郎が笑いを押し殺した「くっくっくっ」という笑い声を発した。

「さくら、お前分かりやすいな。大丈夫だ。別に厄介が起こったとしても、それが俺の運命だったんだよ。だから、別に俺は気にしない。それに、村から放り出されたのはいつだ?まあ、いつかは知らんが、その間に厄介は起こっていないんだろ?なら、お前のせいじゃない」

「しかし……」

「おいおい。ここまで言って、まだダメか?なら、こうしようじゃないか。今日から五日間、何か悪いことが起こったら、さくらが好きなようにしていい。五日間の間、何も起きなかったらさくらは強制的にここにいるっていうのはどうだ?」

 五日間。短いといえば短いのだが、厄介が起きる期間にしては短すぎる。だが、正太郎は悪い事と言った。悪いことが起きる可能性としてはそんなにも短い期間ではないのだ。

「まあ、五日経つ前に悪いことが起きても、俺はここにいてもらってかまわないからな」

 そういった直後、先ほど来たのとは別の女性が料理を運んできた。

「お待たせいたしました」

「うむ。ご苦労」

 正太郎は頷き、私の前に出した。

 その料理は、私にとって豪華な物だった。焼き魚に、米、ほうれん草のお浸しに、味噌汁。それは、久しぶりに見る普通の食事だった。

「食べていいからな」

 正太郎はそういい、私のほうを見た。

 そのときにもう既に食べ始めていたのだが。

「って……もう食べてるし」

「あ……」

 私はあまりにお腹がすいていたものだから、手が先に動いてしまったらしい。

 正太郎は手をひらひらと振った。

「いいってことよ。べつにこれぐらい。それに、お前は五日間ただ飯だからな。これからも好きなだけ食べさせてやる。まだ食べるか?」

 私は正太郎の話しを聞きつつ、手を動かしていた。とにかく、今は何か食べたいのだ。

「…………まあ、他に何か食べたかったら言ってくれよな」

 正太郎はそう言って自分も食べ始めた。


「貴様、なぜ私にかまうのだ」

「貴様じゃなくて、正太郎ね」

 私はこの正太郎と言う男が、何も無い私を無理やり住ませようとするのか、それが大きな疑問だった。

 私はこの質問を、食事が終わってから何回もしているのだが、毎回質問に対してはぐらかすのだ。

「まあ、可愛いからじゃないの?」

「わ、わわわ、私のどこが、かかか、か、可愛いのだ…………」

 自分でもあからさまに動揺しているのが分かる。

 正太郎はそんな私を見てか、微笑んだ。

「全部」

 私は自分の頬が赤くなるのを感じた。もう顔を覚えていないような両親にそんなようなことは言われたことはあるが、他人から言われたのは初めてだった。

「……もういい。なら、どうして私にをここに住ませようとするのだ?」

 この質問も、何回かしたがはぐらかされた。

「……う~ん。そうだなぁ。しいて言えば、このまま放って置いたらいずれは死んでしまいそうだから、かな?」

 今回は真面目に答えた方である。さっきなんか話を変えた位だ。

 確かにこいつの言う通りなのだ。だが、黙ってここにいるのも悪いような気がした。しかも、五日間も。

「いいって、いいって。俺にはさくらの一人ぐらい養うだけの力はある」

 いつの間にか思っていたことが声に出していたらしい。まあ、困ることでも無いし、いおうと思っていたことだから関係も無いのだが。

「まあ、こんな所で話してるのもあれだ。詰まんないだろ?さくらも寝巻きじゃ外に出られないだろうから、着物を持ってきてやる。さあ、着替えて出かけるぞ!」

 否定する間も無く、私は着替えさせられ(自分で着替えた)、外に出る事になった。


 私の来た着物は上質のいい着物だった。淡い水色にきらびやかな花がちりばめられている。その着物は肌触りも良い。こんなにもいい着物を着たのは久しぶりだった。

 私と正太郎は散歩のように外を歩いていた。

 正太郎の家の門から出て後ろを振り返ると、正太郎の家は予想以上に大きかった。普通の農民の一・五倍ほどの敷地があると思われた。

 私がぽうっと正太郎の家、というよりも屋敷を見ていたのに気付いたらしく、

「ああ。まあ、一様俺は役人だからな。そこそこの金はある。まあ、役人になれたのは、父親が役人だからだけどな」

「ふーん」

正太郎は愉快そうに笑う。

「興味なさげだな。まあ。そんな話どうでもいいしな。じゃあ、行こうぜ」

 正太郎はなれたように商店が立っている道をすたすたと歩いていき、私はそれにちょこちょこと着いて行った。

正太郎にしばらくついていくと次のようなことが分かった。

この正太郎という男は、女に良く思われているらしい。まあ、それは男にも言えることだのだが。

 殆んどの女性は正太郎を見るとこんな感じの会話をした。「今日もお美しいわ」「本当ね」、とか何とか。いつもこんな感じだからだろうか。表情も変えずに、すたすたと歩いている。

確かに美青年ではあるが、それだけの理由かと思うとそうではなく、『役人』というのも関係があるような気がする。

まあ、そんな事はどうでもよいのだが。

「あの……一本どうぞ」

 ん?

 不意に声がかかり、見上げると、一人の若い女性が頬を赤らませてもじもじとしていた。その女性は一本の団子を持っていて、甘そうな蜜が掛かっており、光によって綺麗に光っていた。

 ここは茶屋の前で、この女性はここで働いているように見えた。

「……じゃあ、ありがたくもらっておくよ」

 正太郎は優しく微笑んだ。

 茶屋の娘はそれを見て、声にならない黄色い声を上げている。

 この男に恋をしているのか……?まあ、私には関係は無いが。そんな事はどうでもいいが、私にはくれないのだな。

 その段小屋と女性が見えなくなってきた辺りで、

「これ喰うか?」

「いらん」

 私はそう言って私はそっぽを向く。正直言って、見たことが無い団子だから食べてみたい気持ちもあったが、それは正太郎に渡されたものだから私のもらう資格など無い。

「……そっか。ならいっただっきま~す」

 そう言って食べたかと思いきや、

「!」

「へへっ、隙あり!」

 正太郎は私の口の中に団子を入れた。正太郎は悪戯が成功した餓鬼のように笑う。

「……おいしい」

 正太郎はそれを聞いて、にっと笑う。

「だろ?その茶屋の団子はうまいんだって。その団子、やるよ」

「ふむ」

 その団子は確かに美味だった。後から聞いた話だがこの団子は『みたらし団子』という団子らしい。その団子を食べるのは初めてで、つい世話になっているというのに食べてしまった。

 しばらく歩いていくと、商店が立ち並んでいたが、少しずつ少なくなっていき、人気までなくなってきた。

 なぜこんな所に来るのだ?

 そう思いつつも私は正太郎についていく。

「おお」

 私は目の前に広がる物を見て感嘆の声がでた。

 何も言わずに正太郎についてきて、こんなにも綺麗な物が見れるとは思っていなかったのだ。

 満開の桜に、そよ風が吹くだけで舞い散る桜の花びら。その光景は私が生きてきた中で最も美しい光景だった。

「綺麗だろ。この時期が一番綺麗なんだ。さくら、お前はここで倒れてたんだぜ。俺のお気に入りの場所で、たまたま昨日はここに来ていたんだ」

「ここにいたのか?私は」

「そうだぞ」

 私は満開の桜を眺める。

 私がここに倒れかけていたときには、こんなにも美しく見えなかった……。これも、正太郎のおかげなのか…………?

「なあ、俺といると楽しいことだらけだぜ。この村にはさくらが生きてきた中で起きた厄介なんか知らない。それにただ飯だぜ?いいじゃないか。なあ、俺の家に住まないか?」

 正太郎は目をそらしたくなるような眩しい笑顔でそう言った。

「う……む」

「い、いいのか?」

 確かに貴様といれば楽しそうだ……しな……

「本当に!」

「うむ。私は、貴様の家に住むことに決めたぞっ!」

 正太郎は、何故か嬉しそうに抱きついてきた。

「わ~い。なんだか妹ができた気分だ~」

「む。私に気安く障るな」

 なんだかんだ言いながらも、正太郎から離れない私はなんなんだろうと思う。

「ねえ、ねえ。貴様じゃなくて、正太郎って、呼んでよ」

「ふ……む。確かに私が呼び捨てで、貴様を呼び捨てで無いのもおかしいことかも知れぬ。……分かった。正太郎と呼ぼう」

 正太郎は私を見ながら目をきらきらと輝かせる。

 こんな顔を見ていたら、まるでまだ小さい無邪気な子供のように見える。

「あ」

「ん?どうしたの?」

 正太郎はきょとんとした顔をする。

「やっぱり、ただで着替えも、食事も何でもしてもらうのは嫌だから、貴……正太郎の家で働く」

 それを聞いた正太郎は、途端に顔を曇らせた。

「え~!嫌、なんで働か無くてもいいのに働きたがるのさ!」

「い、いや。ただ……申し訳ないと思って」

「そんな事いいって言ってるじゃんか~」

 正太郎は口を尖らせながら、私の顔を見た。どんな顔をしていたのかは分からないが、正太郎は「はあ」とため息をつく。

「分かったよ。でも、自分にできる仕事しかしたらいけないからね。それと、使用人になるからって、敬語じゃなくてもいいから」

「うむ」

 私は素直に軽く頷く。

「じゃあ、こんな所で立ち話もなんだよ?……帰りにさっきの茶屋の団子を買って変えろ?」

 正太郎は私に向かって、手を差し出す。

「ほらっ」

 正太郎は、私に向かってにっこりと笑顔を見せた。

「うむ」

 私は素直にその手を受け取り、正太郎の家――――私がこれから住む事になろう家へと帰っていった。


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