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第一章 再開

第一章再開


「じゃあな、翔」

「ああ、じゃあな」

 友人と別れの言葉を軽く交わして、桜並木を通った。

 桜の花びらは少し散り、若葉がところどころに生え始めている。

 翔は中学校の制服を着ていた。中学校になって二年目の制服だ。二年目にもかかわらず、汚れている感じは無い。

 翔はこの桜並木を通ると懐かしい気持ちになった。翔はまだ幼かった頃に出会った、あの意味深な少女の事を覚えているのだ。

「やっぱり、今日も居ないなあ」

 桜並木の桜が咲く時期になると、さくらと名乗る少女の姿を探してみるのだが、姿は無かった。初めて会った日以外はまだ一度もあったことは無い。

 翔は若干肩を落としてとぼとぼと歩いた。

 桜並木が途絶える頃、背後からそよ風が吹いた。その風は、さくらが消えたときにも吹いたようなさわやかな風だった。

 翔はそのそよ風が吹いた直後、振り返った。

 振り返った場所には、さくらが居た。だが、翔とさくらが出会ったときと全て変わっていないように翔は見えた。

 翔は急いで少女の元に駆け寄った。

「おーい」

 翔はさくらに手を振るがさくらは気付かない。

 翔は駆け寄ってさくらの肩を叩いた。

「久しぶりだな。俺のこと覚えてるか?」

「君は翔か?あのときの……そうか、もうそんなに大きくなったのか」

「じゃあ、僕の事を覚えててくれていたんだね」

 翔はさくらの方を見て顔を輝かせる。

「お譲ちゃん、俺の家にでも来る?」

 それを聞いて、さくらは眉尻を上げる

「!……貴様っ!私は『お譲ちゃん』などでは無い!そもそも、私は貴様の何倍もの時を経ているのだ!私は、貴様よりも年上なのだ!」

 さくらは腕組みをしたまま、ぷいっと真横を向く。

「え?だって、少女の姿じゃないか。……そういえば、あの時と変わって無いような……まあ、とにかく、俺の家にでも来て話す?」

「うむ。この街の庶民の家などには興味は無いが、いいだろう」

 さくらは軽くうなずくと、翔に続いて歩いた。


「ここが貴様の家か」

 さくらは翔の家を見上げた。

 翔の家は、一様一軒家である。古い訳ではなく、新しいほうの部類に入るだろう。生活は豊かな訳ではなく、貧しい訳でもない。要するに、普通の一軒家ということだ。

 家の門を開け、扉を開けた。

「ただいまー」

「あら、お帰りなさい」

 翔の母――敏子がリビングの扉から顔を出した。

 敏子は何も言わずにリビングの方に戻っていった。敏子なら、いくら少女だといっても、可愛い女子を連れてきたら騒ぐだろうと予想していた翔にとっては驚くべきことであった。

「えっ。ちょっと母さん。この子が見えないの?」

 翔はさくらを引っ張ってリビングに入った。

 そんな翔を見て、敏子は目をぱちくりさせる。

「何を言っているのかしら、この子は。『この子』って誰?誰も居ないじゃないの」

敏子は本当に不思議そうにして、首までかしげている。

翔は呆然とした。さくらはそんな様子の二人を見て平然として、

「当たり前だ。私は普通の人には見れんのだ。貴様は何故か私を見ることができるが……」

「まっ、まさか……幽霊!」

 翔が大きな声を出したので、作業に戻りつつあった敏子が振り返って怪訝そうな顔をした。

「ふんっ。私を霊などと同じにするな!私は――」

 さくらは何故か、ためらったように間を空けた。

「私は?」

「私は――――いや、うむ。ここで話すと、後が面倒そうなのでどこか違うところではなそうじゃないか。なるべく、二人で離せる場所がいい」

 翔はどぎまぎしながらも、自分の部屋へと移動して行った。


 翔の部屋は二階にあり、個人の部屋としては広い方の部類に入る。部屋は綺麗に整理整頓されており、快適な空間となっていた。

 さくらは翔のベッドに飛び乗った。興味有り気に、ベットで飛び跳ねている。

「で?幽霊じゃないなら、なんなんだ?」

「む。そうであった。私は、神だ」

 さくらは間を空けることなく、何事もなかったかのように欠伸した。それに対し、翔は口をあんぐりと開き、信じられないといったような驚愕の表情となっていた。

 翔が呆然としてから数分が経つ。

「ふむ。それが普通の反応だ」

 さくらと名乗る神は、何事もなかったかのように言った。

「え……本当に?」

「嘘をついてどうする。それに、貴様に私が『神』だという事を教えることに対して影響など無い。それに、貴様は半信半疑の状態だろう?」

 翔はまさに図星だったため、何も言えなかった。

「よし……なら、何か出来ることは無いのか?」

「ふむ。では、その机を新品のようにしてやろう」

 翔の部屋にある勉強机を指差した。その机は翔が小学校一年生の頃に買ってもらった勉強机で、大切には使っていたが、所々に傷がついていた。

そして、その指の先を本の少しだけ上に上げた。すると、たちまち勉強机は塵一つ無い机へと変わった。

翔はそれをただ唖然として見つめるだけ。翔がしばし唖然としていると、机は元の机に戻ってしまった。

「あ」

「神は人間のすることに干渉してはならない。もし、『神』である私が何か手を加えたことによって、そのものの歴史が変わってしまうのであれば、『神』である私でも何もできないのだ」

 翔は静かに今の話を聴いていた。

 さくらはその話をしている間、何か哀しげな表情を一瞬だけしたのだ。翔はそれが何故か分からなかったが、きっと聞かない方がいいと思い、翔は聞かなかった。

「それにしても…………貴様は……あの人に似ている」

 さくらは小声でそう言った。その言葉は、翔には聞こえなかった。

「えっ?何」

「いや……なんでも無い」

 さくらは小さく首を振った。

「む。そういえば、貴様と私が出会ったのはいつの事だったか?」

「ああ、いま俺が十三で……あの時は、六歳か。だから、七年前だな。それで、今日あったみたいに、あの桜並木の場所で七年前に会ったんだ」

「…………」

 さくらはあごに手を当て、何か考え込むようにしていた。

 翔はそれを見て、小さく首をかしげた。

 しばし、両方共には話がなくなったのか黙り込み、静寂が翔の部屋を包む。すると、

「う~む。退屈だ」

 さくらはベッドに横たわり呟いた。すると、がばっといきなり体を起こした。

「貴様っ。『神』が居るのだぞ!気を利かせて何か食べ物でも持ってきたらどうなのだ?」

「食べ物?く、口にできるのか?」

 さくらは大きく頷く。

「食べなくても生きてはいけるが、口にしようと思えばできるのだ。うむ。なるべく甘い物がよいぞっ!」

「えっ。家にそんなものあったかなあ?ちょっと待ってて」

 翔はさすがにもしも神なら逆らわない方が言いと思い、素直に実行に移した。

 

翔が下に下りていってから数分後。

「貴様。遅かったではないか」

 さくらは退屈そうに欠伸をした。

 さくらは翔の家にもう馴染んでおり、ゆったりとベットの上に寝転び、自分の家のように振舞っていた。

「ごめんね。ちょっと、どこに菓子があるのか分からなかったから」

「ふむ、まあいい。菓子があるのならそれで」

 さくらは期待したようなきらきらと輝く目で、翔の方を見ていた。よっぽどさくらは菓子が好きらしい。

「はい、これ」

 翔は小包されている小さな袋をさくらの手のひらに乗せた。透明な袋では無いので、中身は見えない。

 さくらは翔から手渡された小包を、小さな子供がプレゼントを開けるように、楽しそうに袋を開けた。

「これは……!」

「えっ。何、気に入らなかった?」

 翔は窓ガラスから外をぼんやりと眺めていたが、さくらがわりと大きな声を出したのであわてて振り返る。

「いや……気に入らなかったことは無いのだが……まさかもう一度これを目にすることができるとは――――!」

「ん?その菓子を知ってるのか?」

「知っているも何も金平糖だろう?」

 逆に聞き返された翔は、神という存在であるさくらが金平糖を知っていることに驚いたのだ。

「懐かしいぞ。もう何年ぶりだろうか……」

 さくらは遠い記憶をさかのぼるかのように目を細めた。その後、一粒の金平糖を口に入れた。

さくらは嬉しそうに金平糖を食べている。

「気に入ったのか?」

「うむ。私はこの菓子をもらったことがあるのだ」

「ふーん」

 さくらは金平糖をおいしそうに食べ続けている。

「あ」

 さくらは翔の部屋にある掛け時計を見て、小さく声を上げた。掛け時計の針は六時を越えていた。それを見ると、さくらは翔の勉強机の上に金平糖の袋を閉め、置いた。

「そろそろ、私はこの場から去らなければならない」

「そうなのか?なら、今度また遊びに来てくれよ」

 さくらは怪訝そうに顔をしかめる。

「貴様は先ほどから無礼だぞ。神に対してその口の利き方はなんなのだ。……まあよい。私はおまえが気に入ったぞっ!ちょっとこっちに来たまえ」

 翔は言われたとおりに、さくらの前に立った。

 さくらは翔の胸元に手をかざした。すると、淡く輝く光が球状になって現れたのだ。そして、翔の体内へと入っていた。

「えっ!ちょっ、なんだこれ?」

「そう慌てるでない。貴様に害は無いのだよ。今日の私の記憶を、忘れないように貴様に預けておいたのだ。もしかすると、私はまた貴様を忘れたりしているのかもしれないからな。明日の私が貴様を覚えていなかったら、私は自然とこの記憶にたどり着けるようにしておいたからな。これで私は貴様を忘れることは無い」

 さくらはさくらに向かって微笑んだ。

「それでは、私はもう行くのだ。また明日会おう」

 さくらはまるで幽霊のように、窓からふわふわと飛んでいってしまった。

 さくらが行ってしまってから数分後、いまだに翔は唖然としていた。

「う~ん。本当に『神』なんだろうか――――?」

 その晩。翔は意味もなく、見た目は少女のさくらが『神』なのだろうかと、悩み続けていた。


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