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第四章 呪いの子-②

『貴様。「さくら」というらしいな』

 突如私は名前を呼ばれた。

 それと同時に私は目を開ける。

 そこは一面が真っ暗な世界。だが、私の五メートルほど先の場所に明るい光が見える。

「ここ……は?」

 っていうか……。私って死んじゃったんじゃ……

『ここは神のみがいられる場所だ。神しか知らない』

 私の前に美しい着物を着た少女が出てくる。

「正太郎は!?」

『ああ……ついさっき私は会ったぞ、その正太郎とやらに』

 会ったって事は無事なんだ……

『それでだな、単刀直入に言うが、お前には神となってもらう』

「は?」

 私は耳を疑う。

『お前の首筋には桜のあざがあると正太郎に聞いたが?』

「それなら、あるが…………それがどうかしたのか?」

 私はそれのせいで呪いの子と言われて来たのだから、それがある事を知っている。

『その桜の痣は、神の後継者となる者に着く痣なのだよ』

「??」

 意味が分からない。

『今の私は神なのだよ。そして、その神の座をお前に受け渡すと』

「要するに、私は貴方と変わって神になれということか?」

『ふむ。まあ、そういうことだな』

 神はコクリと頷く。

「神とは……何をすればいいのだ?」

『何事もなければ特にすることは無い。寂れた神なのでな。ぼうっ、として時を気ままに過ごしていればいい』

 私には気がかりなことがあった。

「もしも……私が神となったとき、正太郎に会うことは出来るのか?」

『基本的には出来るが……そのときのお前たちは初対面と同じような物だぞ?』

「なっ!どういうことだ!」

 神は面倒くさそうに深いため息をつく。

『簡単に言うと、お前たちは神の座に立つことによって、生前の記憶を消されるのだ』

「どうして――――?」

『人に神は干渉してはならないのだよ。逆に言えば、人は神に干渉してはいけないのだよ。それほどに、「神」の存在は大きいものなのだ』

 私は俯いて黙り込む。

『正太郎という男にもこの事は話したのだが、こう言ったぞ「さくらと出会ったときにはまた彼女を好きになるから」とね』

 私は自分でも顔が赤くなるのが分かる。

「正太郎がそ、そこまで言うんだったら…………私はその覚悟を持って神の座に立つわ。どうせ、断ってもその座につかなければならないだろうし」

 神はそれを聞いて微笑する。

「そのとおりだ」

「ただし…………私が神となる前に、一つだけ私の願いをかなえてよ」

『?なんだ?』


「正太郎に会わせて――――」


 その願いはかなえられた。

 以外にも神はすんなりと良いといったのだ。反対されると思っていたのに。だが、神は念を押してこういった。

『いいか、まだお前は神としての座にも立っていないし、ただの死人の魂でしかないのだ。だから、貴様から正太郎という男は見れても、あちらからはこちらが見えないのだ。そこを、よく覚えておくがいい』

 そういった後、私と神は正太郎の元へと向かって行った。

 正太郎は私とであった桜並木の場所に来ていた。

 もう日は暮れかかっている。明るい太陽は山と山との間に入ろうとしている。

「なあ、ごめんな。さくら」

 正太郎は正太郎の作った私の墓の前でそう呟いた。

 私が見えていて、私に語りかけているような気がして驚いた。

「俺、桜に何もしてやることが出来なかったよ。……ごめんな」

 どうして……?謝らなくてもいいのに……何も出来なかったのは……私のほうだよ。

「俺、桜にあえて嬉しかったよ」

 うん、私も嬉しかった。

「また……来るからな」

 私は正太郎には届かない声でも言う。

『うん。ありがとう。そして、さようなら。また……あえる日を楽しみにしているから……ね?』

 私の瞳から涙がこぼれる。

 歩き出した正太郎を呼び止めるかのように、桜並木の木達がざわめく。

 正太郎は立ち止まり、振り返った。

「さくら――?」

 正太郎がそう呟いたときには、もう私の姿はなかった。


『なんだ。もうよいのか』

 桜の木の上にいた神は目を閉じていたが、私の気配を感じたのか目を開いた。

「ああ……もうよい」

 私は軽く目を伏せる。

「案外……願いは簡単にかなえてもらえるのだな」

 神はそれを聞いて微笑する。

『髪となってからは暇でなぁ。最後の願いぐらいは叶えてやろうと思ってな。……では、行くか』

 神は瞬く間に舞い上がる。私はそれについて行く。私達は人とでなくくなった為だろうか、空を飛ぶことができるらしい。

 そして、私達は「桜谷神社」という神社に着く。今知ったことなのだが、あの暗闇の世界は桜谷神社の地蔵からではいることが出来るらしい。

「それで……今から神の継承を行うのだろう?何をすればいいのだ」

『ふむ。それは簡単なことだ。これを受け取りたまえ』

 神は体内から淡い光を放つ物を取り出す。神はそれを静かに私の体内へと入れた。

「これは――――!」

『それは、私を含めた神の歴史なのだよ。それによって大体の仕事も分かったはずだ』

 私の脳内にはこの目の前にいる神を入れた、歴代の神の記憶が手に取るように分かった。

『継承はこれで終わりだ。あっけなく終わったが、寂れた神なのでな。特にすることも無かろう。では、私は消えることとする』

 神の身体が薄れかけていたその時、神は私のほうを振り返った。

『そうだ――――一つ言い忘れていたが、私が消えたときにお前はこの世界に人としてはいなかった事になるのだ。そのため、他の者はお前のことを覚えてはいない。これはサービスとしてだが、寂しさを紛らわせるためだ。お前の記憶も消しておいてやろう』

 神はもう一度微笑した。

『そして、もう一つ。これはもしもの事。もしも、「正太郎」とか言う魂がこの地へ再び現れたときには――――』

 神の姿は消えつつあり、もう顔ぐらいしか見えない。

 私には神の声は聞こえない。

 神は口を動かして何かを言っているが、そのときの私には、神はなんと言ったのかは分からなかった。


 私は神に言われたとおり気ままに過ごしていた。

 私が紙の継承をしてから数百年がたつが、殆んど何もすることが無くて暇である。

「はあ」

 今日で数十回目のため息。

 ためしに、私は外の様子を見てみることにした。

 数百年たった今、都市の近代化が進み、高層ビルも立ち並ぶようになった。車や電車が通り、交通には不便はなさそうである。

私が神の軽症を受けたときにはこんなにも豊かではなかったというのに。どれだけのときが立ったのかは私には分からない。それだけの長い月日がたった。

近代化が進んだためか、この「桜谷神社」は年に一人でもここに来ればいいほうとなっていた。

「はあっ」

 再度、深いため息をつく。

 外の景色を見たところで何もなく、すぐに地蔵の中の暗闇の空間に戻ってしまう。

「……なんなのだ。今頃」

 私は誰かの気配を感じ、振り返る。

 だが、この空間に入れるものは限られている。

『久しいな。五代目』

 そう、私は五代目なのだ。そして、

「四代目。貴女は何をしに来たのですか」

『そう怖い顔をするでない。私は継承するときに言っていたサービスをしにきたのだ』

 神は悪戯をした子供のようににっと笑う。

「そういえば……言ってましたね。そんな事」

 神はそれを聞いて何を思ったのか、哄笑する。

『そうか、お前は「正太郎」と言う男を忘れてしまっているのだったな』

 誰だ?

私に、生前の記憶は無いということも知っているだろうに。

『まあいい。とにかくだ、「正太郎」の魂を持つ者がこの地に再び現れたのだ。喜ぶがいい。で、約束通り、お前に記憶を返してやる』

 神は神の継承に行ったときのように、体内から光を出し、私の体内の中へと入れる。

 私の記憶。

 その記憶が私の中に入ってきた。色あせることなく、私の胸にあったもの。正太郎との思い出が繊細に思い出される。

 こことのどこかで思っていたのだ。何かが足りないと。

『行って来い。「正太郎」の魂を持つ者の所へ。だが、言っておくがお前に記憶があっても、その者の記憶は無いのだからな』

 私は今からにでも、その者に会いたかった。

 私が外の世界へ駆け出そうとしたそのとき、神は呼び止める。

『もう一つ話しがある。感動の再開といったところで悪いが、この神社はもう長くは持たない。人ももう来ないに等しいだろう。もうこの神社は滅びるのだ。その者と会い、打ち解けることができたら――――お前はこの世界から一度消えたまえ。そして、魂を持って人として生まれ変わるのだ』

 ああ……。今、正太郎に会えるのなら私はそれでもかまわない。

 私は無我夢中で駆けて行った。


 四代目の神は、さくらが去った後、一人取り残されていた。

『人として生まれ変わったとき、会えるかどうかも分からないのにな』

 神はひとりでにそう呟く。そして、静かに微笑する。

『だがまあ、数百年経とうが、数千年経とうが……あの者達は、互いに惹かれあうのかもしれないな』

(余計なお節介、というやつだったかな。まあ、手助けをしてやったということで。……そろそろ私も転生でもするとするか)

 神は最後に遠い過去でも振り返るように目を閉じ、その場から消えていった。


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