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第二談 友人A

 次の日、学校での昼休み。

 学食で買って来た好物のメロンパンを、ちょうど大口開けて頬張ろうとしたところだった。


 「遥真ー! ちょっとこっち来てくれー!」


 クラスメイトの生田に名前を呼ばれ、メロンパンを袋に戻す。

 キチンと行儀よく食べ歩きはしない、わけじゃないけど、なんとなく袋に戻してみた。

 声の先には、ダークブラウン頭で白いシャツの上に校章入りの茶色いカーディガンを着、チャコールグレーのスラックスを履いた少年がいる。本当は赤いストライプのネクタイも付けるのだが、それはしていない。ちなみにコイツは小学校からの腐れ縁仲間の一人。


 「おい生田や、今の僕の状態を見てたか? 日本人が生み出した食品の中の最高傑作中の最高傑作。そう、メロンパン! それを今まさに、僕は口に運ぼうとしていたところ――」

 「ちょっと聞いてほしいことがあってさー」


 生田は僕の無意味に饒舌な状況説明を完全にスルー。


 「無視か生田? お前には僕の高校生活において唯一の楽しみであるこの昼休みを邪魔する権利があるとでも――」

「あー、はいはい。食事中に話しかけた俺が悪かった。メロンパン食いながらでいいから聞いてくれよ」


 うおー、うぜえ。

 さらっと流しやがったぞコイツ。

 まぁ、仕方ない。たまには下手に出てやろう。


 「頭を床に擦りつけるほど頭を下げられては仕方ねえ。とっとと言うといい、下僕よ!」

 

 奥歯を噛み締めながら、僕は近くにある誰かの椅子に腰かけた。


 「んー、ちょいこのメール見てくれよ」


 下僕を再度スルーして生田が携帯のメールを見せてくる。おそらくは彼女から来たメールだろう。そんなものを彼女いない歴イコール年齢の僕に……ゲフンゲフン。いやいや、恋愛経験豊富すぎる僕に見せてどうしようというのか。あ、恋愛経験豊富だからこそ見せてきたのかなコイツー。あっはっはっは。

 嫌がらせならこの携帯有無を言わさず真っ二つにしてやる。

 ディスプレイに表示された本文は、キラキラの絵文字やら顔文字やらで埋め尽くされている。内容は生田からの誘いを断ったもののよう。バッサリではなく、明らかに遠回しな感じ。

 この本文を見せた後、もう何通か同じようなメールを見せられた。


 「これってさ、どう考えても怪しくね? いくらなんでも断られ過ぎじゃね? それによくコソコソメールとかしてんだよ……」

 「あー、浮気だ浮気」


 僕はメロンパンを再び袋から出しながら、ストレートに言い放った。

 声には全くやる気をだしていなかったが、生田は気にしてない様子。

 あれじゃね、ドラマなどでよくある展開だと、彼氏からの誘いを嘘で断り、街中で他の男と歩いている姿なんか目撃者されちゃったりする。

 もしくは漫画やアニメにある、別に隠れてプレゼントなんか用意してないんだからね、的な展開。そのどちらかに近い可能性が考えられる。

 今回はたぶん前者だろうけど。


 「やっぱ浮気だよなあ……。俺は常に健全な付き合いをしてたつもりなんだけど! どうなってんだ!」

 「僕に聞くなよプレイボーイ。っていうか生田が健全なお付き合いを実行出来る奴だとは知らなかったぞ。お前は女の子をとっかえひっかえするタイプだろ」

 「勘違いするな! 俺は見たとおり美しいイケメンだろ。世界中の女の子は俺をほっとけないってわけさ。女の子は皆平等に俺と異性交遊する権利がある! だから、俺もそれに準ずる! それが俺の生まれた使命だと思うから!」


 目の前の、明らかに生物学的に人種の違う親友の熱弁に僕は冷めきった視線を送る。

 確かに生田は中性的で整った顔立ちをしているし、性格も女たらしを除けばイイ奴に分類される、かもしれない。

 しかしこういうときは、裏路地で刺されろ、と僕は心の中で強く念じる。ていうか今すぐ刺されろ。そしたら僕は優しい声で救急車を呼んでやる。

 現実は、如何せんまだ襲われたことはないらしい。


 「で、そのメールを僕に見せてどうしろと? お前の彼女の後をこっそり追って、浮気現場でも写メってくればいいのか? 絶対しないけど」

 「んだよそれ! そこは『仕方ねえ、親友のために一肌脱いでやるか』的な言葉で恰好つけるところだろうが!」

 「っざけんな! どうして僕が貴重な自分の自由時間を、くだらん友人のくだらん恋愛事ためにくだらん行動をして費やさなきゃならんのだ! 僕は自分に有益な物以外、他人のために時間を使うつもりはない!」

 「出た、出ました、出ちゃいました。遥真のさして可愛くもないツンデレ!」

 「ツンデレ?!」


 一体今の会話のどこに、そんな特殊能力にも似た萌え要素が含まれていたのか。

 ていうか、僕に使うな、気色悪い!


 「他人のために時間を使いたくないとか言いながら、昼食中にも関わらずくだらない俺のところにきて、くだらない俺の恋愛話に付き合ってくれてるっていうのにー! ちょっとお節介なところも女子にはズキュンポイントだぞ遥真!」

 

 う……。言われてみると、そんな感じでもないこともないけれど。けど、それはそれで違うだろ。

 僕らの会話が聞こえていた周りのクラスメイトたちも、生田のする論議に、あるある、と首を縦に振っていた。

 いや、違うだろ! 萌え要素ないだろ! ないよね?!


 「俺との対話でもそういう萌えポイントをさりげなく使ってくるとは……。はっ! まさか俺も攻略の対象に――」

 「うがああああ!」


 僕はついに恥ずかしさが爆発した。そのままの勢いで生田の握っていた携帯電話を奪い取る。


 「てめえの彼女についての相談じゃなかったのか! 待ってろ、辱めを受けたこの僕が今すぐに貴様の悩みを解決してやる!」


 立ち上がってそう叫ぶと、生田携帯の電話帳からメールの送り主にコールする。電話を耳に当てて、準備完了。三回ほどコールしたところで、「もしもし?」と生田の彼女が通話に出た。コールの途中、慌てた生田が僕から携帯を奪い返そうとしたが、一発殴って静かにさせた。


 「もしもし、生田の彼女か! 目の前で沈んでるゴミ野郎が何であんたに誘いを断られるのか知りたいそうだ! 五秒以内、三十文字以内で述べろ! おい、困惑してんな! とっとと理由だけ述べろ! あ? 誕生日プレゼントを選んでた? ちっ、面白くない。聞いたかゴミ野郎、誕プレらしいぞ。よかったな、浮気されてたわけじゃなくて。あん? おいゴミ野郎。貴様の彼女が教室に来るそうだ。二重によかったな。というわけでもう永眠してもらえるか?」


 にっこり笑顔で、僕は友人の左頬にコークスクリューを少し、ほんの少し力を加減してお見舞いした。

 生田は鈍く短い悲鳴を上げて、机に力なく突っ伏す。

 心やさしく親友の悩みをスッキリ解決した僕は、手にあった携帯をそっと生田の手に返してやる。


 「もうコイツの相談事には乗らねえ……」


 額にじんわり滲んだ汗を手の甲で拭うと、僕はメロンパン片手に教室を出るのだった。


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