第一話
前に同じタイトルで二話程投稿しましたが、都合上脚色し直しました。
読まれた方、お気に入り登録された方には大変ご迷惑おかけしました。
どうぞ、ごゆっくりお読みください。
人生とは時に無情である。
そんな言葉を昔聞いたことがある。
俺、黒河哲也にとっては時にどころではなく常に人生が無情であるわけだが。
誰しも、子供の時は勇者になることや、剣を振り回し魔法を駆使することを夢見ただろう。
俺もその一人だった。
子供の頃からファンタジーの世界に憧れて、その類いの映画やアニメが大好きだった。
ただ、現実を考えるとファンタジーはあくまで空想の世界の物だから、それに近い職業を目指すことに決めたんだ。
役者。
映画の俳優や声優になりたかった。理由はどちらも世界観に浸ることができるからだ。
容姿も周りからは評価されてたし、自分でも悪くはないと思ってる。
学校の成績も良い方だし、運動もそこそこできる。
ただ一つ、ここさえ除けば何も申し分がないんだ、むしろ致命的と言えるこの欠点さえ無ければ俺は夢に向かって猛烈に走ってたんだ。
―――俺は運が悪かった。
子供の時から周りより無駄に怪我してたし、骨折なんてしょっちゅうしてた。
初めて好きになった女の子に告白しようと、色々シミュレーションしてたら何故か40℃越える風邪を引き、学校に登校した時にはその子は他の誰かと付き合ってた。
俺の不幸っぷりはかなり酷いもので、年々悪化の一途を辿り、周りにも影響を与えていくようになる。
影響が出始めた当初は、俺に声をかけたら季節外れの蚊に刺される程度だった。
それが最近では声かける寸前にトラックに吹っ飛ばされて、全治5ヶ月の重症を負う奴まで出てくるようになった。
ただの偶然にしては、あり得ないことが身の回りに起きまくっている。
唯一の幸いがまだ死人が出てないことと、不幸は毎度起きるわけじゃないこと。
だが、それもいつまで続くかわかったもんじゃない。
いつしか、俺に関わろうとする奴はいなくなってしまった。
(役者なんて夢のまた夢だよなぁ)
高校の教室に一人残って、進路希望の紙を眺める俺。
先生ですら俺に話すのを躊躇われるのか、授業終わりのHRで黒板に『黒河はそのまま残って皆が帰った後に紙を書くように』とチョークで走り書きした後そそくさと去っていった。
クラスに居て周りに関わらなければ何ら問題は無いのだが“紙を受け取る“って行為には問題が出てくるからいつものことでもあった。
…いやいつものことだよ?
でもこんなの登校拒否してもおかしくないレベルだよね?
学校側も、仕方なくだが置いているという状態。
イジメはあったらしい。
直接関わるわけにはいかないもんだから、間接的にイジメをしようとした奴はいた、らしい。
“らしい“というのは、そのイジメが届いた事が無かったからだ。
俺にイジメを仕掛けようとした奴は天罰宜しく不幸が降りかかるという噂を聞いたことがある。なんという防衛機能だ。お陰で益々関わろうとする奴はいなくなった。嬉しくもなんともない。
何でこうなったのか親に聞いても、親も嫌々ながら知らないと答えるばかり。
家族ですら距離を置いてる現状だ。自殺を考えなかった事も無い。
でもなんか嫌だった。
ここで死ぬなんてカッコ悪すぎるし、役者になることを諦めきれてないし童貞を捨ててもいない。
だが、現実は一人ぼっちだった。
頼れる人がいないし、溜め息ばかりが出てくる。
「役者、なりてぇなあ」
その一言を呟いた瞬間だった。
携帯から着信音が鳴った。
友達が一人もいない上に、親からも滅多にかかってこない携帯電話。
孤独の余り、持っていても意味が無い連絡手段は見栄だけの物だったが、親に何かがあったのかもしれない。携帯の画面を開く。
そこには登録したことも無い名前と番号が乗っていた。
着信画面には『冥土』と名前が記されていた。
冥土って、あの世って意味だよな。縁起でも無いことしか起きたことが無いため、今回のは尚一層理解しかねた。
その時、ふと妙な違和感に気がつく。
教室内は薄暗く、外の景色は夕陽に染まっていたが、何故か、やけに静かだ。
グラウンドで残ってる運動部員の声も、秋に差し掛かり徐々に増えてきてる虫の鳴き声も、外からの音だけでなく室内におけるあらゆる物が静まり返っていた。
ただ一つ、例外を除いて。
再び携帯の画面を覗く。
けたたましい程に鳴り響くそれは早く出ろと訴えかけられてる気がした。
嫌な予感しかしない。
出たくはないが、着信は止まずに更に音量が増してきた。
ええぃ、出りゃいいんだろ出りゃ!
「もしもし」
『あっ、もしもしー?もー、出るの遅いですよぉ』
電話の相手は女の子だった。
声だけ聞くとかなり可愛らしくて、アニメの女の子キャラや洋画の美少女ヒロインがハマりそうな声質だった。
わかりやすく言えば良い声だった。
「あのっ、どなたですか?」
『え?昨日メールが届いてませんでしたかぁ?』
メール?なんのことだ?
話しの食い違いに些か疑問点が湧くが、あっちも似たようなものだった。
『昨夜の0時丁度にメールが届いて登録されましたよね?』
言われて思い出す。確かに昨日の夜メールが届いて、電話口の女の子が言う、登録をした。
でもあれは…。
『あれ、登録されませんでしたか?』
女の子は俺が明確に答えられないでいるので『あれー?おかしいなぁ』と少々不安になってきている。
うん、まあ、その声が中々に可愛かったのと、久々にまともな会話して感動してる俺は間違いじゃないだろう。
ヤバい。夢じゃないよなこれ。
だって女の子が言うメールで登録したって話がマジだったら、俺は生涯初めての幸運が舞い降りてるってことになる。
そのメールとは、出会い系メールだった。
…色々ツッコミたくなるだろうが仕方のない話だ。
こんな不幸体質のせいで女の子とはろくに話が出来ないし、周りは全員避けていく。
明らか罠と判ってて登録した俺は阿呆者と言える自爆行為だ、とはいってもだ。
高校最後の思い出として女の子といれる時間を作ったって良いんじゃない!?
それともなにか?不幸体質の人間は出会いを求めちゃいけないと言うのか?
俺の取った行動は火事で燃え盛る家に、丸裸の状態で水の代わりに石油を並々ぶっかけて突撃するのに等しい行動ともいえる。
架空請求やらヤクザの脅迫電話、恐怖の電話がかかってくる可能性を考えなかった訳じゃない。
それでも…、夢を…、見たかったんだ…。
結果、俺は勝利を手にしたわけですがね。うはは。
心の中で歓喜に震わせ空中三回転半を決めてる頃、電話口の女の子は『もしもーし、聞こえてますかー?』と呼んでくる。
「はいもしもしっ。聞こえてるよー」
今顔を見せるわけにはいかないな。鏡で確認してるわけじゃないけど、多分これ以上ないぐらいだらしない顔してる。
『あわわ、よかったですぅ。繋がらなくなったのかと思いましたよ』
うーん、この反応。聞く限りではドジっ娘かもしれん。全然アリですけど。
「ああ、ごめんごめん。ちょっとビックリしちゃってね。えーっと君の名前は?」
『冥土ですぅ』
冥土か。変わった登録名だな。
でも名前なんて関係ないのさ。声でわかる。この子は可愛いと。
いや、この際可愛いとかあまり問題ではない。
嘘です。可愛いほうが全然ありありですけど、今は人とのコミュニケーションを取ることのほうが大事なんだ。
「冥土さんかぁ。いい名前ですね」
『え、そうですかぁ?えへへ』
いい反応をしてくれる。ヤバい泣きそう。
『哲也さんが登録されてるのは間違いなさそうですので、今からこちらに喚びますね』
「へ?」
呼ぶ?どういうことだ?
ままま、まさか、いきなり家に来てくださいってことか?
おいおい、いきなりそれは早すぎるんじゃないか。
「喜んで」
興奮気味に答えると、何故か視界が黒く染められていく。
床や天井、机から外の景色全てが真っ暗な闇へと塗り潰されていく。
突然の事態に驚きを隠せない。
俺は気付くべきだったんだ。
携帯以外の音が聞こえなくなっていたこと。
外にいる運動部員たちの身体や教室の時計の針が止まっていたこと。
登録した覚えのない『冥土』の名前が、既に電話帳に登録されていたこと。
そして冥土は“呼ぶ“とは言っておらず、はっきりと“喚ぶ“と言ったことに。
★ ★ ★ ★
「ここは一体、どこですか」
暗闇の中で一人、ポツリと呟く。
見渡す限り闇、闇、闇。空間には俺のみが存在していた。
なんすかこれ、あまりの展開に頭の中がオーバーヒートを起こしてますよ?
さっきまで教室にいた筈なのに、辺り一面何も無い。さっきまでそこにあった机も椅子も、文字通り影も形も無くなっていた。
手探りに教室の電気を探したが、物にも当たらずただ空を掴むだけだった。
恐怖が身体の中を駆け巡る。
もしかしたら、このまま死ぬんじゃないか?
「おーい誰かー!誰かいないのかー!!」
叫んでみる。焦りと震え、沸き起こる恐怖に耐えられなかった。
「こっちですよぉ」
後方から声が聞こえる。まさか返事が返ってくるとは思わなかったので、一瞬ビクリとする。
振り返ると一人の少女が立っていた。
背丈は俺の肩までしかなさそうで、黒を基調としたメイド服の格好をしていた。
ゴスロリが入っているのか、所々にフリルが付けられていてスカートも短め。
顔も可愛い。髪は黒のショートボブで眼はパッチりとした二重。
その辺のアイドルなんかじゃ太刀打ちできない小柄な美少女だった。
ん?なんで、光なんか差し込んでないのに、この子の姿が見えるんだろう?
「黒河哲也さん、ですよね?」
「え?あ、はい」
さっきまでの恐怖は何処にいったのやら、今は目の前の少女に見とれていた。聞き覚えのある声だった。
「もしかして、冥土さん?」
「はい♪」
うわお、想像以上に可愛いじゃないか。ばっちりストライクゾーン入ってます。
冥土の姿をじっくり見てる俺に何か感じたのか、照れたように顔を背ける。「…そんなにじっくり見られると、は、恥ずかしいですぅ」と言ってくる。
可愛い!
お持ち帰りしていいっすか?と思わず言いたくなるが、ここはストップだ。
いくら学生のたぎる欲望が暴走モード突入しそうになるからって、初対面にいきなりそれはドン引きもんだろう。抑えるとこは抑えないとね。
「ああああのっ!いいいいいいきなり何してるんですか!?」
戸惑う冥土。
いきなり大声をあげるので、何事かと確認する。
気がつくと俺は冥土を抱き締めてました。
いわゆるハグです。
無意識化の行動に俺自身も戸惑いを隠せない。
うわー!何やってんの俺!?
理性では抑えてたつもりなのに、身体は正直すぎる。
あっ、あかん、良い香りがする。
腕の中で慌てる冥土を余所に、顔が惚ける俺。余程リピドーが溜まってたんだなぁ…。
「放してください!」
「えー」
「放さないと痛い目にあわせますよ!」
ジタバタと暴れだす。流石にやりすぎてるかなと思いつつも、香りが俺を放してくれない。
放す気配が無い俺に、冥土は俺の顎に目掛けてノーモーションアッパーを振り抜く。
「ぐほぁっ!?」
冥土を抱き締めていた手をほどき、そのまま吹っ飛ばされる。意識が飛びそうになりました。
「出でよ!魔剣ティルフィング!!」
地面から、冥土が喚び出した魔剣が徐々に浮かび出てくる。
どっかの神話で聞いたことのある武器の名前だが、見た目はただのチェーンソーだった。
って、チェーンソーかよ!?
冥土の身長よりでかいソレはあまりに凶暴で、小柄な美少女が扱うには過ぎた代物に見えた。
え?俺殺される?
先程の行為に顔が真っ赤になっている冥土は、地面から魔剣ティルフィングを抜き出して構えをとる。
生命の危機を感じざるを得ません。
「ひ、ひいいいいい!?」
「待ちなさーい!」
脱兎の如く逃げる。当然だ下手したら殺されるからな!
チェーンソーを起動させ逃げ惑う状態は正にジェイソンに追いかけられてる気分だった。軽々と獲物をぶん回してきます。
何でだ!ハグしただけじゃないか!
こんな目に会うなんてやっぱり不幸体質のせいか?
いやまあいきなりハグは段階飛び過ぎって認めるけど、これでも人生初めてのハグなんだからね?ホントだよ?
それに冥土とは出会い系で知り合ったわけだから、その程度の行為なんて許容範囲なんじゃないの!?
いつの間に移動したのか、目の前に先回りしてた冥土が容赦無く横薙ぎに魔剣ティルフィングを振るう。危なっ!
咄嗟に屈んで避けたものの、尻をついてしまう。その上怖くて腰も抜けた。
冥土の顔には涙が浮かんでいた。
「酷いです酷いですぅ。いくらなんでも初対面の相手にハグするなんてやりすぎですよ。責任取ってもらいますからね!」
刃の回転音が増す。
この場合の責任て、一生を添い遂げるて意味じゃないすよね、そうですよね。
「酷いですぅ…。折角の初仕事だっていうのにパートナーがこんなケダモノだったなんて…」
冥土は涙を頬に流しながら、歩み寄ってくる。
酷い言われようだ。抱きついただけでケダモノ扱いだなんて。
その上、殺そうとすることないだろ。さっきの一撃だって、髪の毛かすったし。お陰で震えが止まらない。
それよりも気になることを言ってた。今すぐはっきりさせとかないとまずい気がする。
「待って!初仕事ってなんのこと?」
降り下ろす手を止めたものの、更に怒りが溜まっていくのがわかる。
「しらばっくれないでくださいっ。登録した先の最初の事項に書いてあったはずです。“新規登録者は新人の死神とパートナーとなり、共に世界を救うこと“って」
はい?
世界を救う?
死神と?
呆気に取られてる俺をよそに、再び降り下ろす動作に入る。
「待った待った!俺そんなの知らないし!」
「ちゃんと読まなかったあなたが悪いんですぅ!」
「いやいやそんなこと書いてなかったよ、ほら!」
慌てて携帯を取り出して画面を見せつける。昨日の出会い系サイトのトップページだ。
サイト名は『極楽天国』。
美女が顎を少し上げて舌で唇を舐めている。明らかに男の欲情を煽りたててる画だった。
携帯を地面に叩きつけられる。
「ううう嘘をつくんですね!じじ自分が危ないもんだから、うううう嘘で誤魔化すんですね!」
「嘘じゃないよ!?昨日メールが届いて登録したのってこれだけだし!」
「問答無用ですぅっ!!」
三度目の正直とばかりに、魔剣ティルフィングを構え、今度ばかりは降り下ろされた。その時だった。
携帯の着信音が鳴る。
俺の携帯だった。
冥土は俺の首筋から少し離れたところで刃を止めていた。
チェーンソーの回転する音に比べ、携帯の音のほうが小さいはずだが、冥土はしっかりと聞き取っていた。
「…おかしいですぅ。ここでは携帯なんて鳴らないはずですぅ」
冥土の声のトーンは低い。
二重の瞼も座り、不快感で苛立っていた。
地面に魔剣を突き刺し、携帯を拾い上げ無造作に電話に出る。
「もしもしぃ、どなたですかあ?――――――えっ?」
電話先の相手の声を聞き、先程までの赤い顔から、反比例するように真っ青に染めていく。
詳しく聞き取れたわけじゃないが、相手は冥土を叱ってるみたいだ。口振りを聞くと上司と思われる。
それ俺の携帯だよね?
冥土はその場で正座をしだし、ぞんざいに扱ってた携帯を大切そうに持ち変えて「申し訳ございませんですぅ、申し訳ございませんですぅ」と一頻り謝っている。
相手に説教され続け電話が終わる頃には、さっきまでの怒りは既に消えていた。
携帯を畳み、丁寧に返される。
「…………」
無言だった。
どんな言葉をかけてあげればいいかわからず、俺も黙るのみだった。
暫く沈黙が続いたが、冥土の方から謝ってきた。
「…先程はみっともない姿をお見せして申し訳ございませんですぅ」
「い、いや、俺も悪かったよ。ごめん」
冥土は俺の方に向き直る。
「どうやら登録者の元に送られるメールというのは様々あって、あなたの場合は、あのような、ふ、不純なメールが届いてしまったようです」
不純なメールというのは、あの出会い系のメールのことだろう。
今のこの状態を全く理解できてない俺に冥土は一から説明をするのだった。
一話を最後まで読んでいただきありがとうございます。
今後の大まかな要素としては
1 あまりチートにはならない
2 恋愛はあるけど性描写を入れるかは未定(入れるとしても、過剰には…ならない…かなぁ?どっちやねん)
3 暗い話にしない
です。
誤字脱字感想などありましたら宜しくお願いしますφ(`・ω・´)ノ゜