秘密を飾る者(上)
カインがJ・F・ケネディ空港に降り立ち、出国ゲートをくぐった時はちょうど昼頃だった。
が、11月半ばを過ぎた寒々しい空はパリと負けず劣らずで気持ちの晴れる要素は何一つ無かった。
カインはその表情に疲労の影を漂わせながら深くため息をついた。
自分がパリに帰ったのは2日前だった。
秋のロシアは秋とは呼び難く、既に分厚いコート無しでは歩けぬ寒さだった。元来気候に煩い方ではなかったが、流石に表で何時間も素手で銃を構えることは出来なかった。
ペレストロイカに始まり既に崩壊した旧社会主義国家だが、西欧系の外国人が街中にいれば厭でも目立つ。しかし、北の人間の特徴ともいえる白い肌や銀の髪のお陰で怪しまれることは少なく、比較的楽に標的を仕留めることが出来た。余裕があればイタリアあたりまで脱出してから、豪華列車の旅と洒落込もうと思い描いていた。
その為にオリエント・エクスプレスのドキュメント・ケースも準備した。
だが、想像以上に早くロシア警察の捜査の手がカインに近づいた。仕方なくロシアの極東までシベリア鉄道で走り、日本経由でパリに帰ってきたのだ。
Zもスイスへ行って不在だから、暫くは『仕事』もせず、のんびりと秋のパリを楽しもう。12月になったら、ノルウェーのあの少女への贈り物を探そう。
カインは『仕事』前にも、その『後』でもそんな未来予想図を描いていた。
(あっという間に台無しにされたがな・・・)
ド・ゴール空港からパリへ戻り、自室に荷物を放り込み、久し振りに街をぶらつきながら店を覗く。本屋を覗けばカインが最近気に入って読んでいる作家の新作が出ていた。新刊を含めて数冊の本と雑誌、新聞を購入し、行き付けのブランドショップで新しいコートとスーツを誂えた。
再度部屋へ戻って購入品を置き、夕食は最近良く行くカジュアルレストランへと足を運ぶ。顔見知りのギャルソンが扉を開けて入ってきたカインに気づき、気さくに話しかけてくる。
奥のテーブルに通され、今日のお勧めを説明し、注文を確認してギャルソンは下がった。
カインは周囲に視線を巡らせる。カップルや家族連れが多いが、ひとり客も多かった。
カインもそのひとりだった。が、ひとりの食事には慣れている。
1年ほど前までは殆どの時間をひとりで過ごしていた。たまに、Zやユーシスに誘われ遊びに繰り出すこともあった。
しかし、去年突然アイツが転がり込んできた。
15歳のときに別れ、19歳の時に再会してからは良く行き来し合っていたが、何があったのか突然カインの部屋に現れたのだ。
しばらく置いてくれ。
そう言ってライはカインの部屋に居ついた。
特に理由は聞かなかった。気が向けば帰るだろう。そう単純に考えていた。
が、甘かったらしい。そろそろ1年が経とうとするも、ライが出て行く気配は一向に無かった。
(ま、お蔭で気が紛れたけどな)
ライがパリに来た頃のカインは、時々酷く『陰』に陥るときがあった。そういう時は何もかもが嫌になり自分を消し去りたくなった。けれども、出来ない自分に尚更苛立ち、激しく『仕事』に没頭する。そんな毎日の繰り返しが続いた。
今ではそんな状態になることも少ない。
これでも同居しているライには感謝している。
そんなライは『仕事』でまだ帰ってきていない。彼はカインより前に旅立っている。どうやら色々寄り道をして帰ってくるつもりらしい。バールのムニエルを口に運びながらカインは羨ましく思った。
食事を終えた後もそれなりに時間を潰し、夜10時過ぎに『La Luna Blue』へ足を運ぶ。
カラン、という乾いたベル音に振り向いたユーシスは微笑んでカインを出迎えてくれた。
他に客はいない。
「やぁ、おかえり。早かったね」
「ちょっとミスったんだ。お陰で極東経由で戻らざるを得なくなったのさ。楽しみにしていた豪華列車の旅を駄目にして、な」
「じゃ、日本からフランスに入ったのかい?」
ユーシスはキルシュ・カシスをカインの前に置いた。
「Oui.」
カインはゆっくりとカクテルを飲んだ。
「あぁ、生き返る。ロシアじゃウォッカをストレートで呷っても温まりやしない。・・・そうそう、土産だ」
カインが差し出したのは日本酒だった。
「自分で楽しんでくれ」
世界中の美酒を知り尽くしている男は嬉しそうに瓶を手に取った。
「ありがとう。あぁ、思い出した。セシルから伝言を頼まれていたんだ」
「セシルから?」
飲み干したグラスの氷が、カランッ、と音をたてた。
カインの口許が微かに歪む。
「正確にはZ経由でね」
ユーシスの手から受け取ったメモは確かに見覚えのある字面だった。Zの走り書きだ。一部スペルに間違いがあるところなど実にZらしい。メモごと託して行ったようだ。
「『帰ったら至急セシルに電話宜しく。至急ったら至急だからな。忘れるな! 時間は問わず』・・・なんだこりゃ」
メモの内容にカインは呆れた。その様子をユーシスは面白がっているようだ。顔が笑っている。
「君の部屋の電話が留守番電話にならないから、Zに頼んでいったようだよ」
「で、あいつもパリから出ちまうからユーシスに頼んでいったと」
「ご名答」
ユーシスは再びくすりと笑った。
カインの表情は本人も気づかないぐらいに歪んでいたらしい。
まさに苦虫を噛み潰しでもしたかのように。
「・・・嫌な予感がするなぁ。・・・ったく、帰ったときぐらいゆっくりさせろっての」
シェイカーの音にカインは我に返った。
ユーシスの手からルビー色のカクテルが生み出される。
差し出されたカクテルグラスにカインは手を伸ばした。
「試作品なんだ、飲んでみてよ。メインにカルバドスを使ってみたんだ」
「・・・名前は?」
「『イブの接吻』」
「なるほど。男なら飲まないわけにはいかないな」
人類初の男・アダムの従順にして聡明なる妻イブ。全ての人間の母であり、全ての人間の源。その聡明さ故に愚かにも蛇に誘われるまま禁断の果実にその濡れた口唇を寄せた。
だが、どれだけの人間が知っているのだろうか。イブがアダムにとって2番目の妻だと言う逸話を。
「甘く、それでいて燃えるような激しさ、奥深い芳香・・・。いい味だ」
「気に入った?」
「あぁ、でも・・・」
カインはカクテルグラスを揺らした。
紅玉の液体が誘うように揺れる。
しなやかに、淫らに。
「俺にはイブよりも『リリスの口唇』かな?」
「リリス・・・?」
男に組み敷かれることを厭い、夫に征服されることを拒み、従順な妻になることを嫌った女。
アダムを捨て、地底に堕ちた悪女・リリス。
「やれやれ、これから俺達の『リリス』に何をやらされるのか・・・」
カインの呟きにユーシスはただ肩を竦めた。
軽い会話を交わしているうちに、別の常連客が入ってきたためカインはバーを後にした。
結局部屋に帰ったのは深夜0時を回っていた。
ほろ酔いに気分を良くしていたせいか、Zのメモのことはシャワーを浴び終わるまですっかり忘れていた。
ソファーにかけっ放しにしていたジャケットに気づき取り上げた際に、メモは思い出せといわんばかりにカインの足許へヒラヒラと舞い落ちた。
メモを拾い上げ、カインは受話器を取った。
「嫌な予感は拭えないが・・・このまま放って置くほうが怖いな」
覚悟を決めてカインは素早くセシルの専用回線の電話番号を押す。
留守番電話のセットや電話番号を登録やメモに残すようなことは決してしなかった。
いつ何が起こっても良いように、必要なことは全てその頭脳に記憶するように訓練されている。
2コールもならないうちに電話が通じた。
『・・・カイン?』
電話番号は通知しないように設定されている。だが、セシルには何処から電話が来るかわかっていた様子だ。
「珍しいな。この電話番号にすぐに出たということは、もう寝ていたのか?」
『・・・・・・』
セシルは無言だった。正直顔の見えない相手の無言は怖い。
「セシル?」
『今から私の言うことを良く聞きなさい』
「なに?」
カインは思わず聞き返した。が、セシルは黙殺した。
『今日の朝一番にバイク便であんたの部屋に航空券を届けるわ』
「は?」
『パリ-NY間のファーストクラス。明日の一番最初の便よ』
その言葉の裏に隠された意味にカインは気づいた。
「・・・ちょっと待て、俺は今日ロシアから戻ったんだぞ」
『それが何?』
カインの小さな抵抗をセシルはバッサリと斬った。
『新聞は読んだんでしょ? 旧共産国にいたからって『キャロル=シンディア』のネタは世界中の新聞社交欄に載っているわ』
確かに新聞で事件のことは知っていた。2つの事件とも死者は出ていない。しかし、秘書のバーソロミュー=E=ハービッシュが負傷した。
気にならなかったわけではない。もちろん心配もした。
が、あのセシルには無用の長物であることも知っていた。
カインは黙って言葉の続きを待った。
『これは私のお願いではないわ』
セシルの口調には怒りが滲んでいた。
世の中には馬鹿なヤツがいるものだとカインは感心する。彼らはこの世でもっとも触れてはならないものに触れてしまったのだ。
悪魔の逆鱗に。
『これは『キャロル』としてカイン、貴方への『仕事』の依頼よ』
闇の帳に覆われた窓の外にカインは眼をやった。
いつの間にか街には雨が降っていた。
秋の冷たい雨だった。
しかし、NYの空は曇ってはいるものの雨は降っていない。
カインは小さく吐息した。
パリの秋雨は嫌いだ。
『あの日』を思い出すから。
「ミスター!」
聞き覚えのある声にカインは振り返った。
手を振りながら一人の青年が人懐っこい笑みを見せている。
「久し振りだな、バート」
「長旅お疲れ様でした。車へどうぞ」
カインの荷物を受け取り、バートは車まで彼を先導した。
バートが自らハンドルを握る日本車の乗り心地は抜群だった。
運転手の腕も良いが、こればかりは性能の良さを認めなければならない。
「怪我はもういいのか?」
後部座席シートにもたれたカインはサングラスを外し、車窓の景色を眺めた。
「ありがとうございます。怪我は大した事ないんです。むしろその衝撃に驚いてしまって・・・」
バックミラーをちらりと見たバートの眼には笑みが浮かんでいる。
「最初は誰しも同じだ」
もっとも、俺たちが初めて銃創を受けたのは10歳にも満たない子供だったがな。
カインは過去を思い出して苦笑した。
「それより、すみません」
バートの言葉にカインははっと我に返った。
「レディの我儘で・・・」
まるで子供の駄々を謝る親のようだ。
カインは肩を竦めた。
「あいつの唐突な呼出は今に始まったことじゃない。気にするな。・・・・・・随分大変そうだな?」
言葉の語尾に厭味が滲んだ。
バートもそれに気づいたようだが笑って受け流す。
「2度も狙われましたからね。そりゃもう・・・。放っておいたら『キャロル』をかなぐり捨てて犯人を殺しに行きかねないですよ」
溜息交じりのバートの台詞にカインは思わず吹き出した。
「自らそれを止めるために俺を呼びつけた訳か。やれやれ」
「代わりに滞在期間中はキャロルのお供で贅沢し放題ですよ」
「興味ないね」
バートの冗談にカインは笑った。
他愛もない話を続けながら、車はブロードウェイを抜け、5番街へ到着した。
高級店や高級アパートが並ぶ界隈に、一段と荘厳に、華麗に聳え立つ白亜のビル。
シンディア財団が所有するビルのひとつ。その最上階、ペントハウスに住むのが現・総帥のキャロライン=E=シンディアである。
大理石の床が光る1階ホールは思いの外静かだった。カインはバートに続いてホールに入る。以前このビルに来たときは平日の真昼で、ビジネスマンが右往左往していた。だが、制服の警備員が数名いるだけの今日が日曜日であることをカインは改めて思い出した。
バートの姿を見止めた警備員が一礼し、カインにも会釈をする。
何度もセシルを訪れているカインは古くからの友人として皆に認識されている。
一番奥のエレベーターに乗り込み、バートの褐色の指が最上階のボタンを押した。
一気に駆け上るエレベーターの扉が開いた瞬間、カインは思わず身を引いた。バートも同じく耳を塞ぐ。
「・・・・・・今の、セシルの声・・・だな・・・?」
恐る恐る確かめるカインにバートも控えめに頷いた。
声はリビングからのようだった。どうもセシルは電話で誰かと話しているらしい。
「・・・ですから! 私は大丈夫です!! ・・・結構ですわ! ご遠慮致し・・・はっ!? ですから・・・いら・・・!! ちょっと! レディ!?」
一方的に切られた電話に腹を立て、セシルは受話器を叩きつけた。
たぶん壊れたな。
カインは以前同じように電話を叩きつけて壊したセシルの姿を直接見た過去がある。
あの時は呆れると同時に参った。
何故なら、セシルはカインの部屋の電話を壊したのだ。受話器を破壊して。
「それでいくつ目だ? 壊した電話の数は」
カインの言葉にセシルが振り返った。同時にバートが電話に飛びつく。右手に取り上げた受話器を見て肩を落とした。受話器には見事にヒビが入り、既に欠けている。
そんなバートを気にも留めず、セシルは「カインっ!!」と叫んで抱きついた。
「だぁー! 抱きつくな!」
「なによ、このセシル様の抱擁が気に入らないのぉ!?」
「俺はライじゃない」
「じゃ、もっと抱きついてやるぅ!!」
「何をやってるんですか!! レディ!!」
セシルの悪ふざけをバートが咎め、彼女はやっとカインを解放した。
不貞腐れて見せるセシルを放っておいて、カインは勝手にソファーに腰を落とした。
勝手知ったる他人の家。セシルもそんなカインの行動を気にも留めない。
まだ電話の受話器を握り締めているバートに向かってセシルは「コーヒー入れて頂戴」と言い放った。
かなり機嫌が悪いらしい。
そんな時、バートは大人しく従うことにしているのだ。でないと執務にまで支障を来たすことが稀にある。
「ロシアは寒かった?」
運ばれてきたコーヒーを一口飲んで、開口一番セシルが始めた話題だった。
ニコニコ笑うセシルの眼が笑っていないことなどカインも知っている。
「あぁ、敵はむしろ寒さだったな。そんなことより」
カインは煙草の火を揉み消した。
「何をそんなに怒っているんだ?」
「怒っている? ワタクシが?」
惚けるセシルに向かってカインは思わず吹き出した。
「電話壊したのが良い証拠だ。ほれ、さっさと吐いちまえよ。暗殺未遂のお陰で何があったんだ?」
カインの言わんとすることにバートは気づかなかった。
カインとセシルの顔を交互にみる。
セシルはウンザリした様子でソファーに、ドサッ、ともたれた。
「もしかして・・・さっきの電話が原因ですか?」
恐る恐るバートが問いかける。セシルは大きく頷いた。
「誰だと思う?」
セシルの問い掛けにカインが意地悪く微笑む。
「大統領夫人だな?」
「ビンゴ!」
大統領夫人がキャロル=シンディアに大きな好意を持っていることは有名だった。新聞の社交欄にツーショット写真が載ることもしばしばだ。
「もう、嫌になっちゃう」
「何か仰られたのですか? 夫人が・・・」
バートがおずおずと尋ねる。まさかとは思うが、セシルが何か失礼をしたのでは、と心配しているのだ。
カインは内心、やれやれ、と呆れながら、無言でコーヒーを飲む。
「私に護衛を付けるって」
「へ?」
セシルの言葉に、カインとバートは同時に反応した。
「誰が誰に? 何をだって?」
「だーかーらー『キャロル』にSPを派遣するって。財団には優秀なSPがいるし、護衛も呼んだって言ったんだけど」
何が護衛だ。刺客のくせに。
そう言ってやろうとしてカインは言葉を飲み込んだ。
余計なことを言ってセシルを怒らせても得は無い。怖いだけだ。
本日何本目かの煙草に火をつけた。
「吸うか?」
カインの差し出した煙草を片手で制し、「No,Thank you.」と答えた。
「煙草は18歳の時に止めたわ」
そうでした。
カインは深く煙草を吸った。
初めて吸ったのは15歳のときだった。
まだノルウェーにいた頃、Dr.リースの懐からくすねた煙草に火をつけ、4人で回したことがあった。
結局アイラは一口吸っただけで『味覚音痴になりそう』と言って2度目は吸わなかった。
残りを3人で吸ったあと、しばらくは手を出さなかった。
煙草に気が回らないほど、別のモノに依存していたからだ。
再び煙草を吸い出したのは18歳になる年の春。それほどキツいものではなく、軽いタイプしか口にしなかった。
量はどんどん増えた。
しかし、一時また煙草を止めた時期があった。
『彼女』と過ごしていた頃。煙や匂いを嫌う『彼女』のために我慢した。
たいてい禁煙は難しいというが、煙草以上に欲しくなるものがあれば簡単だった。
だが、今のカインに禁煙は必要なかった。
「また、この前会ったときより煙草の量が増えてるんじゃないの?」
「アイラと同じことを言わないでくれ」
セシルとアイラは会うたびに小言を言う。
まるで母親だ。
「で? 俺のことは良いんだよ。具体的に俺に何をやらせたいんだ?」
このカインの言葉で、セシルの表情は一変した。
少なくとも、バートの眼にはそう映った。
「・・・・・・それは」
セシルが口を開いた途端、バートの机の上にある内線電話のコール音がけたたましく鳴り響いた。
慌ててバートが受話器を取り上げる。
「はい。・・・なんですって? 今日レディはどなたともお会いしません。お引取り願って・・・え? ちょ・・・ちょっと待ってください!」
バートの声にセシルとカインは同時に彼を見た。
「どうしたの?」
セシルが椅子から立ち上がり、バートの背に触れた。
「今、ロビーから、大統領夫人のメッセンジャーを通した、と・・・」
「な、なんですって?」
「ほう、さすがファーストレディ。素晴らしい判断力と行動力だ。旦那よりも大統領に向いているんじゃないのか?」
軽口を叩いたカインはセシルの一瞥に肩を竦めた。
「俺はいない方が良さげだな?」
「構わないわ。追い返すだけだもの」
両腕を組んでセシルは仁王立ちしていた。バートが何か注意しているようだったが聞く耳持たない様子で無視している。
(バートも苦労しているな、ホントに)
空になったカップを元に戻してカインはエレベーターを見た。
視線をやるのと同時にエレベーターの到着を告げるチャイムが鳴った。
腰を上げ、カインは灰皿と煙草、ライターだけを持って階段に再度腰を落とした。
バートが扉の前に立った。
姿勢を正し、品の良い笑みを浮かべる。20歳の若造にできる技ではない。
「いらっしゃいませ」
エレベーターの扉が開くのと同時にバートは恭しく頭を下げた。