プロローグ~すべての始まりとすべての終わり~
雪。
どこまでも続く白い雪原。吹雪によって外界から遮断された空間。
一発の銃声が轟いた。
血が花弁のように舞い散る。鮮やかな真紅の薔薇の如く。
鉛色の空から、絶えることなく降り続ける雪。
雪が積もってもなお、消えることのない血痕。
一筋の汗が頬を伝い落ち、積もる雪を溶かした。
「終わった・・・」
茶色い髪の少女が短く呟いた。両手には血の滴るナイフが握られている。しかし、その血すらあまりの寒さに凍り始めていた。
「あぁ・・・、あぁ、そうだな」
遠目からでも分かる端正な ― 少女のような ― 顔立ちの少年が深く息を吐き、天を仰いだ。黒絹のような髪を荒々しくかきあげる。髪をすくその右手は傷だらけだった。手に微かに触れる雪が少年に痛みを与え続ける。苦痛に耐え切れなくなった少年の顔が、歪む。
「大丈夫?」
少年のすぐ傍に立っていた少女が、心配げに翡翠色の瞳を向けた。雪で真っ白に覆われた金髪を手で払い除けながら。
少年は頷いた。
「あぁ、大丈夫。これで・・・これで終わった。俺たちは自由だ・・・!」
「そうね」
金髪の少女は視線を少年から下方に移した。
少女の瞳はまるで忌まわしいものを見るかのようだった。
「行きましょう。長居は無用だわ。誰かが来ないうちに・・・」
「待て」
ナイフを持った少女の言葉を遮るようにもうひとりの少年が口を挟んだ。先程の少年とは別の ― 銀髪の少年だ。彼は振り返った。ずっと冷たい雪の上で膝をつきひとつのものを凝視していたのだ。
「・・・まさか」
黒髪の少年の顔が引き攣る。それを見て彼は首を横に振った。
「違う、そうじゃない。だが・・・、念には念を入れるべきだと思わないか?」
彼は腰を上げ、右手に持っていた銃に左手を添えて構えた。
「奴は・・・、『北の悪魔』だからな・・・!!」
銃口が火を噴いた。
一発の銃弾は、すでに息絶えた筈の死体の脳を確実に吹き飛ばした。
吹雪がさらに激しくなり、少年たちから体温を奪い続けた。
凍える身体を両腕で抱きしめ銀髪の少年は風の中を振り返り、眼を細める。
炎のように赤く、それでいて氷のように冷たい瞳。
・・・もう、恐れるものはない。縛るものもない。
なのに・・・なのに、どうして? どうしてこんなにも・・・。
少年は片手で眼を拭った。
全てが終わった。これから新しい何かが始まるはず・・・。
4人とも、そう期待した。期待したからこそ、自らの手を汚した。
「・・・さようなら」
何に対してか、それは誰にもわからない。けれども少年は呟いた。
先を行っていた子供たちの自分を呼ぶ声が聞こえてきた。頭を振り、少年はゆっくりと歩を進めた。
その歩みが求めた自由ではなく、己を過酷な運命へ引き摺る第一歩になろうとはこのときの彼らには知る由もなかった。