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悪魔の御子  作者: 奏響
第2話 少女は白夜に悪夢を見るか
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プロローグ~可憐に舞う雪の精と魅了された愚かな悪魔~

 少女は吹雪の中、ただ立ち尽くしていた。

 すぐ傍には大きなモミの木が、引き千切られた電球の残骸でかろうじてクリスマス・ツリーだったことを教えてくれる。

 今日は、クリスマスだった。

 小さな村をあげての盛大なパーティーが催されるはずだった。

 男たちはサンタクロースの衣装に身を包み、女たちは豪華な料理やケーキを用意する。子供たちはモミの木の下でプレゼントを開け、食事を楽しみ、大人は酒を飲み、踊り明かしてクリスマスを祝う。

 村の伝統行事。

 少女が物心ついたときから、当たり前のように行われていた日常のひとコマ。

 そのはずだった。

 少女の頬に一筋の涙がつたう。小さな肩を震わせて。

 留まることなく溢れる涙に濡れる双眸に映ったものは、破壊の限りを尽くされた『村』の残骸。

 冷たい雪の上に横たわる見慣れた人々。

 学校の友達。村一番の美人と呼ばれていた先生。優しい隣のおばさん。いつもおまけをしてくれたパン屋のおじさん。

 有無を言わせぬ力が蹂躙した、虐殺の残影。

 力無く彷徨う少女の視線がモミの木の下に注がれた。

 雪に隠れたその影が何なのか、少女は気づき雪を掻き分けるようにして走った。

 途中で転びながら、それでも少女は荒く息を吐き、木の下に駆け寄った。

 少女の後姿を、共に『村』に戻った青年はただ黙って見つめる。

 影の正体を確かめて、少女は冷たい雪の上に座り込んでしまった。

 モミの木の下で冷たくなっていたのは、少女の祖父だった。

 何故こんなことになったのか、少女が知るはずもない。

 つい数時間前までは幸福に包まれた場所だった。

 今はその欠片すら見当たらない。

「な、何で・・・? 何でこんなことが起こっちゃうの? おじいちゃんも、おばあちゃんも、・・・みんな何で・・・? なんで死ななきゃいけないの!?」

 泣きじゃくる少女の肩を一人の青年がそっと抱き寄せた。

 火事が起きたのか、焼け残った家屋の一部がまだ燻っていた。

 雪に埋もれた、老若男女の死体。

 凍りついた銃火器。

 村中に残る無数の血痕。

 青年はこの悲劇の真相を知っていた。しかし、それは少女にとって重過ぎる現実だった。

「ここは危ない。どこか安全なところまで行こう」

「・・・いや」

「さぁ」

 泣きじゃくる少女は、抱き起こそうとする青年の腕を拒んだ。彼は少女の名を呼び、再度優しく促す。

 顔を上げた少女は涙を流したまま微かに頷き、青年の胸に顔をうずめた。

 青年は応えるように強く少女を抱きしめた。

 すべての惨劇から、少女を守るかのように。

 暗黒の空から、再び白い妖精が舞い降りてきた。

 青年は空を仰ぎ見た。

 今日は12月25日。クリスマス。

 サンタクロースが少女をこの国にもたらした、記念すべき日だった。

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