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青い鳥

作者: まれゆき

まだ続きます。


朝、目が覚めると枕元に小さなプレゼントが置いてあった。男の子は飛び起きると、パジャマ姿のままそれを持って階段を駆け降りる。

キッチンは香ばしいトーストと甘いココアの匂いで満たされていた。

「メリークリスマス」

慌ただしい足音が近づいてくるのに合わせて、母親は朝食を準備する手を一度休め、やってきた男の子のほうを振り返って微笑む。おはようの代わりに今日は特別な挨拶をした。

「ママ!サンタさんがプレゼントくれたよ、見て!」

男の子は顔を輝かせて母親にリボンのかかった綺麗な包みを差し出す。母親は男の子にプレゼントを開けるように促した。男の子は期待に胸を膨らましつつも、慎重な手つきでゆっくりとリボンをほどいて箱を開けた。中には青い鳥二羽を水で満たしたドームに閉じ込めたような、小さなガラス細工が入っていた。それをなんと呼ぶのか男の子は知らない。

「スノードームよ。こうするとほら、中で雪が舞って綺麗でしょ」

母親は男の子の目の前でスノードームを振って見せる。透明なガラスのドームの中で雪がふわりと舞い上がり、まるで風に吹かれて踊るように今度は揺れながら舞い落ちる。本物の雪よりもずっとゆっくりと。二羽の青い鳥が寄り添うその小さなガラスの世界には、こちらとは違う時間が流れているように男の子には思えた。男の子は感嘆のため息をついた。何度もスノードームを振っては雪が舞い落ちる様子をじっと見つめる。そうしているうちにいつの間にか男の子の興味は雪の中の、美しい二羽の青い鳥に移っていた。白銀の世界の中でただ唯一の鮮やかな青。今にも気まぐれに羽ばたいてみせそうな、その細かな毛並み。小さなドームの中の決して大きくはない青い鳥はとても精巧に作られている。二羽は向かいあっており、まるで何か囁きあっているように思えた。その無音の囁きに耳を傾けて、男の子はガラスの中の世界に見入った。

突然にオルゴールが鳴りだして男の子は我に返った。母親がネジを回したのだ。

「あら、オルゴールもついているのね。素敵」

「なんていう曲?」

「冬の不思議の国って言うの。クリスマスの時期によく聴くでしょう?」

「うん。ちょっと聴いたことがある。ねぇ、ちゃんと歌詞もあるの?」

男の子は思った。オルゴールが奏でる硬質なメロディーはまるで青い鳥がさえずり、唄っているようだと。それならば、この曲の歌詞が分かれば青い鳥たちの秘密の会話を知ることができるのではないか。

冬の不思議の国の一節を男の子は繰り返し口ずさむ。男の子がその曲を気に入ったものだと思った母親は微笑んでその歌詞を教えた。



青い鳥は飛び去ったけれど、また新しい青い鳥が愛の歌を歌う。

幸せを願って。





ミチルは降り止まない雪に羽根を膨らませて体を縮こめた。チルチルはそんなミチルに寄り添って体を温めあった。それが、この冬の不思議の国での二羽の毎日だった。


真っ白な世界に、二羽の鮮やかな青色は馴染まず彼らは孤独だった。けれどお互いがいれば寂しくはなかった。


いつもと同じように雪が降り積もるある日、ミチルは言った。


「行かなくちゃいけない」

それは予感と義務感に突き動かされて紡いだ言葉だった。


チルチルは愕然とした。永遠に続くと思ったささやかな幸せが、今終わろうとしていた。


「チルチルを置いていくわけじゃないよ。二人で、この世界の向こう側へ行こう」


二人でなら、何処へでも行ける。

ミチルは微笑んだ。


けれど、チルチルは首を振った。


「僕は、待たなくちゃ行けないんだ」


それはミチルの予感と同じく、チルチルに運命づけられたものだった。


「何を待っているの?」

「分からない」


チルチルは答える。


「何処へ行くの?」

「分からない」


ミチルは答える。


「ただ、誰かの幸せを願ってる」


チルチルはミチルを、ミチルはチルチルを見つめて、途方にくれながら全く同じ事を口にした。

二羽は青い鳥だった。誰かの幸せを願わずにはいられなかった。


けれど、誰かとは誰だろう。目の前の愛しい片割を悲しませて、誰かを幸せになどできるだろうか。



「あの歌を歌ってよ」


ミチルは優しく言った。その声色に別れを予感させる静寂が滲んでいた。



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