付喪神くうちゃんの一日
「お嬢。そろそろ起きねぇか?」
わたしの朝はだいたいくうちゃんかメリーさんの声掛けから始まる。
元の世界からこの世界へ召喚された時にいっしょに来たくうちゃんは元はといえばレンジでチンしてカイロになるぬいぐるみ型ホットエコウォーマーの黒クマちゃんである。
まんまるお目々にバッテンお口、首にリボン。うん。かわいい。
付喪神って知ってる?わたしは鬼太郎くらいの知識しかないけど、長い年月を経た道具に魂が宿ったもの――だったと思う。でも、くうちゃんは違う。
もともと、友達のバースディプレゼントにしようと思っていたもので新品です。でも、異世界に転移して、聖女のわたしの愚痴やらなにやらの大量思念、精霊の祝福など諸々の条件で付喪神くうちゃんが爆誕したらしいのです。
なんでべらんめぇなのか、わからない。そもそも、なんかおっさんっぽいんだよな。わたしのこと、お嬢呼びだし。いいけど。なぜだ。
あれかな。召喚からしばらくは、くうちゃんしか心を許せる人がいなくて、愚痴やら泣き言やらを訴え、クマ吸いして心を慰めてたからなぁ。だから、かわいいクマちゃんじゃなくって、妙に懐の深いおっさんになったのかもしれない。
おっさんという意識があるせいか、いっしょに寝ようよっていってもベッドに入ってくれないんだよ。それはそれでちょっとさみしい。
寝ながら語り合いたいのにさ〜。
「クマ吸いしてもいい?」と聞くと、「…お、おおぅ」と一瞬躊躇しながら、お腹を差出してくる。かわいい。
「若ぇ娘が親父の腹なんざに顔をつけるもんじゃあねぇだろ」っていうけど、くうちゃん、親父じゃないからね?
そんなくうちゃんは、メリーさんがちょっと苦手らしい。
興奮したメリーさんに抱き潰され、命の危機を感じたらしい。……命って?
メリーさんも抱き潰した自覚はあるけど、中身も出てなかったからそこまでじゃなかったのに、と若干寂しそう。
でも、メリーさんに毎朝リボンを用意してもらってるんだよ。いつもリボンを楽しそうに選んでるし、まぁ、そのうち平気になるでしょ。
そして、エクセルとは意外にもうまくいっているんですよ。
朝、顔を合わせると、どちらからともなく挨拶してる。なんか、ほのぼのしてよい風景です。黒クマぬいぐるみと氷の貴公子が朝の挨拶!レアです。
エクセルは森からの帰還の際の「野郎の腰にくっつく趣味はねぇ」っていう一言を気に入り、そして、頑張ってくっついて帰ってきたことにも気骨を感じたらしい。
くうちゃんはくうちゃんで、エクセルがわたしを大事に守っている姿をみて「あいつぁ、信用できる。お嬢を任すに足りる」とかなんとか言ってました。
エクセルには「俺は取るに足りねぇ黒クマだ。お嬢を守ることなんざ、到底できねぇ。すまねぇが、お嬢をくれぐれもよろしく頼む」と頭を下げたそうです。やだ。くうちゃん、泣ける。
そして、エクセルと妙に意気投合して、何か知らんが、わたしの取り扱いについて話し合ったりしているそう。取り扱いってなによね。どうも、元が商品だったせいかそういう言葉がでてくるらしい。失礼な二人である。
くうちゃんはなぜか、「自分、不器用ですから」的なタイプに憧れているらしい。
「付喪神なんざ、人様にその身を晒さず、静かに存在するもんだ」とかいって人前に出ようとしなかった。そのくせ、ふらっと散歩するのは好きで、わたしが出かけている間、一人でふらっと王宮内をお忍びで散歩しているつもりになっていた。いや、ひっそり散歩しているつもりでも、目立つだろ。
第一、あなた、騎士と神官あわせて200名以上の見守る中で「野郎の腰にくっつく趣味はねぇ」って啖呵を切っていますからね。
その後、氷の貴公子の頭にひっついて、森から帰って来たんじゃん。その時点で思い切り目立ってるよ。存在感ばっちりですよ。
「もう、めちゃくちゃバレてるよ」とそこを指摘したら、「あ!」ってなってて、面白かった。
――メリーのくうちゃん観察日記――
くうちゃんは神子さまが元の世界からいらした時にご一緒された神聖なる黒クマさま。
先日の浄化のおりに、精霊の祝福を受け、付喪神となられました。
丸いお目々に小さなお口がかわいらしく、小麦とラベンダーで出来ていらっしゃいます。小麦の花言葉は「希望」、ラベンダーは「癒し」。確かにそのままを体現された存在でいらっしゃいます。
でも…わたくし、くうちゃんにちょっと恐れられておりまして、それがちょっとさみしいのです。
神子さまは、「そのうち慣れるよ。大丈夫」と笑っておられますが、どうなんでしょう。
まずは、つかず離れず慣れていただこうと思います。ああ、かわいいのに!
とりあえず、ご機嫌伺いのため、毎朝、きれいな色のリボンを用意して選んでいただきます。
くうちゃんはご自身でリボンを結べないので、リボンにボタンをつけて装着できるようにしております。
かわいいです。
あと、お靴ですね。布のお体なので、そのまま歩き回ると汚れてしまいます。小さなお靴をご用意したところ、うれしそうに履いて、王宮の中を勝手気ままにお散歩されている姿がなんとも可愛らしくって。
ご自身はお気づきではないですが、密かな王宮の名物と癒しになっていらっしゃるのです。
ああ、かわいい!




