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疾走 【2】

 観音正寺。それは琵琶湖の東岸、繖山の山頂近くに位置している。伝承によれば、推古天皇、聖徳太子がこの地を訪れた際、時刻の千手観音を祀ったのに始まるという。聖徳太子はこの地を訪れた際に出会った人魚の願いにより、観音正寺を建立したという。建立理由は嘘かもしれないが、この寺が古い歴史をもっており、厳粛な寺であることは疑いようがない。


 六角家の本拠、観音寺城はこの観音正寺を中心に形成されている。なぜ観音正寺を中心に城を形成したかは定かではないが、寺の歴史、厳粛な雰囲気、人々の忠誠心などを城に反映させたかったのではないだろうか。どんな理由にしろ、観音正寺は城にとって一番重要な場であった。その為、六角家の重要な取り決めなどは、観音正寺で行われることが多かった。そして今日も、重要な取り決めが観音正寺で行われようとしていた。


「四郎様、そう構えることはないですよ」


 六角家の宿老である後藤賢豊は、部屋の最前列で緊張して顔が引きつっている四郎に声をかけた。


「わかっています」


 四郎は詰まりそうな声で答えた。その声に賢豊は不安を覚えながらも、静かに四郎から離れた。


 今日、「近江の将」こと、六角定頼の嫡男である四郎は、一二歳で元服の儀式を迎えようとしていた。その会場である観音正寺には、六角家の家臣は勿論のこと、六角本家の者、近江の有力者、商人、村の代表、周辺諸国の者、などがひしめき合い、人が溢れそうなくらいになっていた。その中には、将軍の足利義晴の姿もあった。


「この賑わい、まさに名君「近江の将」様のお力を表しておる」


「その通り、その通り!」


「後継の「近江の将」も名君たる器の者かの」


「小さいが、なかなか落ち着きがあって良さそうではないか?」


「いや、少し頼りない感も…」


 会場内はいろいろな声が飛び交っていた。しかし最前列で緊張している四郎には、全くと言って良いほど声は聞こえていなかった。


 しばらく経ち、会場から声が消えた。そして、六角定頼、呉服前、僧侶が静かに会場に入ってきた。


「では、これより儀式を始めます」


 会場に儀式の始まりを告げる声が響いた。

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