誕生
この小説を読むにあたってのお願いとお断りです。
私は小説に関しては、完全なド素人です。ですから、作品は小説にうるさい方から見れば駄作だと思います。駄作は読んでも時間の無駄だ!と思われる方は読まれない方が良いと思います。それでも読んで頂けた方は、是非、アドバイスなど遠慮なくお書きください!どんな意見でも嬉しいです^^
春の暖かな風が戸を外した場所から吹き入り、部屋にある掛け軸を揺らすと向かいの開けた戸へぬけてゆく。その風にあたりながら、部屋の真ん中では二人の男が碁を打っていた。一人は中年で、歳の割には痩せて老けている。それに対しもう一人は、十代半ばと思われる若々しい青年である。
「強くなったな」
中年の男が一手打ち、満足そうに言った。
「そう言いながらも勝ちますよね、父上は」
微妙な笑みを浮かべながら、青年の方が参りましたの仕草をみせ言った。どうやら碁の勝負がつき、中年の男が勝負を制したようだ。
「誰がワシより強くなったと言った?強くなった、と言ったのだ」
大きく笑いながら中年の男が言った。青年の方はからかわれた気がして、何か言い返そうとし口を少し開けたが、上手く言葉が出なかった。その表情に中年の男は気づいたが、無視して立ち上がると風の入ってくる縁側に立った。
「しかし、早いな」
縁側に立った中年の男が言った。
「何がです?」
青年の方が碁石を片づけながら言葉を返した。中年の男は青年の問いに答えず、黙って縁側から見える春の景色をぼんやりと眺め、遠い昔のことを思い出しはじめた。
「殿、殿!?どこに居られますか?」
後藤賢豊が叫びながら、必死になって廊下を走り、首を忙しく左右に動かしている。
「まったく、これだから困るんだ!」
かなり苛立った表情を見せながら一人で言葉を吐き捨てると、再び廊下を駆けだした。今の賢豊は殿を探す事しか頭にない。
賢豊がしばらく廊下を駆け続けていると、お蔵に繋がる廊下の所で殿がうろうろしているのが見えた。
「殿!早く!」
賢豊は主徒の関係など忘れ殿の元に駆け寄ると、強引に手を掴み、もと来た廊下を戻り始めた。しばらく廊下を駆け、ようやく殿を呉服前の所へ連れてきた頃には既に事は終わっていた。賢豊は間に合わなかったことを気にして視線を少し落とした。
「おーーーー!私の子だ!」
殿はそれまで賢豊に掴まれていた手を振り払うと、賢豊を邪魔だと言わんばかりに押して、感動の声を上げながら呉服前が抱いている赤子の元に駆け寄った。賢豊は殿に押されよろめき加減に畳にこけると、呆れた顔を浮かべた。
「やれやれ、それでも「近江の将」ですか?」
賢豊は押された場所を摩りながら起き上ると、殿である近江の将に言った。
しかし近江の将の耳には賢豊の声は入っていなかった。赤子を夢中になり見つめ、抱きかかえて喜んでいた。その表情は、今まで数多くの戦で人を殺めてきた近江の将、六角定頼の表情とは思えないほど純粋で、幸せな表情であった。
「私の後継ぎ、「近江の将」だ!」
定頼は赤子を高く抱き上げると、高らかに宣言したのであった。
この赤子こそ、この小説の主人公となる六角義賢である。