第五話 地の神域 ― 骸将クレマトスとの戦い
【第五話 地の神域 ― 骸将クレマトスとの戦い】ーー
十二の神域――そこはかつて神が降り立ち、星環界の力の源となった聖域。
だが今、それは冥妃ヘドリーヌと冥環界の幹部によって占拠され、世界の均衡は崩れかけていた。
アキトたち五人のソルナイトは、冥環帝国の本拠へと至る十二の門を、命を賭けて突破しなければならない。
そしてその最初の門――「地の神域」には、不死の将軍・骸将クレマトスが待ち受けていた。
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星環界を構成する十二の神域――そのひとつ、「地の神域〈グラヴィオス〉」の門が開かれた。
そこは灰色の空の下、無数の石柱が崩れたような荒廃の大地だった。枯れ果てた樹々、朽ちた城壁、どこまでも響く地鳴り。まるで死した神の墓標のようだった。
「ここが……神域?」
日向アキトが足を踏み入れた瞬間、足元の地面が微かに震えた。
同行するのは、風の魔導士リア、雷の戦士クレイン、氷の巫女メルロ、鋼の盾カイルの四人。ソルナイトの精鋭たちである。
「警戒を。あの男が現れるのは時間の問題よ」
リアが警告を発すると同時に、重く湿った咆哮が地を揺るがした。
「グオオォォォォオオ……!」
地の裂け目から這い出てきたのは、巨躯の騎士だった。身体は黒鋼の鎧に覆われ、両肩には無数の骸骨の意匠。目は緑に輝き、喉からは錆びついた鎖のような声が漏れる。
「我が名は……骸将クレマトス。大地を喰らい、不死を以て貴様らを砕く者!」
彼の両手には鉄塊のような戦鎚が握られていた。それを地面に叩きつけるたびに、岩盤が隆起し、地面がねじれた。
「来るぞ!」
クレインが雷光の槍を構える。
「私たちの力で、この神域を取り戻すのよ!」
リアの号令と共に、五人のソルナイトが一斉に動いた。
アキトの《ソル・レグリア》が灼熱の軌道を描き、クレインの雷槍が天を裂く。だが、クレマトスはまるで効かない。傷口は即座に再生し、戦鎚の一撃で大地が砕け、ソルナイトたちは吹き飛ばされた。
「ッ……まるで鉄壁だ……」
「物理攻撃じゃ埒が明かない!」
「いや、違う……!」
メルロが青白い目を細めた。「この神域自体が、奴に力を与えている。地と同化してるのよ!」
「つまり、地面そのものが……!」
だが、その推理が明かされた時にはすでに遅く、大地そのものがクレマトスの手足のように変貌し、戦士たちを飲み込もうとしていた。
アキトが剣を振るうが、全方位から迫る土塊の渦に抗えない。クレインもカイルも押し返され、リアの風の結界もついに破られた。
四人が瓦礫の下に埋もれようとしたその瞬間――。
――ドオオオォォォンッ!!
空が爆ぜた。
紅蓮の炎が天から降り注ぎ、地を焼き、黒き鎧の巨躯を灼いた。
「……誰だ!?」
クレマトスが咆哮する中、その炎の中から一人の影が降り立った。
黒きマントを纏い、紅蓮の装甲を纏った孤高の戦士――その男の名は、かつて“黒翼のソルナイト”と呼ばれた者。
「地の神域に、腐った土の匂いが充満してるな……掃除の時間だ」
――フェン=イグニス、現る。
「お前は……!」
リアが驚愕の声を上げるが、彼はそれを無視し、炎の翼を広げた。
「アキト、お前はまだ迷っている。だが、“迷い”は力に変えられる。立ち上がれ」
「フェン……!」
その声に導かれ、アキトは瓦礫の中から立ち上がる。胸に燃え上がるのは、恐れではない。仲間を守りたいという意志。
「いくぞ――!」
フェン=イグニスとアキトが同時に走る。光と闇、炎と黒炎が融合し、地の神域を斬り裂く。
「必殺――! 双極断罪刃!!」
二人の力が交錯した瞬間、骸将クレマトスの身体は轟音と共に爆ぜた。
「ぐ、グォオオオオォ……これが……光と……闇の、力……か……」
その声を最後に、神域に再び静寂が訪れる。
こうして、地の神域は奪還された。だが、冥環帝国の支配はまだ始まったばかりだった。
空には、なお十一の神域の門が浮かぶ――。
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【登場人物 設定】
■ 敵組織「冥環帝国ヘドロノムス」
◆堕星冥王アザラフ
冥環帝国の支配者。冥環界と星環界を繋げて全ての支配を目論む。
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◆ 冥妃ヘドリーヌ(Queen Hedrine)
冥環帝国を支配する不老の魔女。自らの“腐敗した美”を至高とし、世界を堕落で満たそうとする。
星環界に封印されていたが、アザラフの力を借りて復活。
髑髏の玉座から命令を下し、戦士たちに「美しき死」を与えることに執着。
口癖:「世界など、腐ってこそ美しいのよ……うふふふ!」
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■ 「十二神域」
星環界にはかつて天の十二柱と呼ばれる神々が守っていた十二の聖域がある。
現在は冥環帝国がそれぞれの神域に魔の守護者を配置し、攻略しなければ核心に迫れない構造となっている。
【十二神域】
■冥環帝国 親衛幹部《十二影の星鎧》
冥王アザラフ直属の最強戦力であり、かつて天の十二柱に仕えていた存在が闇に堕ちた者たち。
各自が対応する神域を守護し、ソルナイトたちの前に立ちはだかる。
幹部名/神域/異名/能力・特徴
1. 骸将クレマトス
地の神域 不死なる戦地の将 不死身の肉体。死ぬたびに強化され蘇る。かつて地の神に仕えた地鎧の騎士。
2. 夢喰いルクレイド
月の神域 幻夢を統べる眠りの魔導士 夢の中に敵を引き込み、心の闇と戦わせる幻術使い。実体を持たぬ存在。
3. 毒姫ザルカニア
花鏡の神域 毒と美の狭間の花 毒と拘束を操る元光の戦士。バラの茎を操る。妖艶なる闇堕ちの女騎士。
4. 灼滅王グル=ヴァーン
火の神域 煉獄を統べる灼熱の巨躯 灼熱の巨人。炎の神域そのものと融合している存在。熱と質量を操る。
5. 氷哭のエリシエラ 氷の神域 記憶を封じる白銀の巫女 氷霊術により敵の記憶や感情を凍結させる。過去を凍てつかせる女戦士。
6. 雷刃ヴァルトロス
雷の神域 天翔ける断罪の雷騎士 音速を超える斬撃を持つ雷の剣士。瞬間移動と稲妻を駆使する。
7. 鏡魔バリエス
影の神域 鏡の迷界に住む模倣の魔人 敵の姿と能力を完全にコピーし戦う。真の姿は誰にも見せたことがない。
8. 哀導者ネメファス
魂の神域 罪と赦しを問う魂の審判者 相手の罪を具現化し、それと戦わせる。ソルナイトの過去を暴きにくる。
9. 水妖王ネフィリウス
水の神域〈リュミエール・アクア〉異名:深海を統べる悲しき王。元は水神の祝福を受けた若き王だったが、大洪水によって国を失い、その嘆きが冥環に取り込まれた。体は液体のように自在に変形し、あらゆる攻撃を流す。水圧・水流・幻水を操る。能力例:《水獄界》:空間を水中に変え、酸素を奪う絶対領域。《記憶の潮流》:水に触れた者の記憶を読み取り、精神攻撃を仕掛ける。
10. 風刃姫ヴェル=シェイラ
風の神域〈ゼファレイド・テラス〉異名:空を裂く無垢なる刃。かつて天の騎士団に所属していた天才剣士。戦乱で仲間を喪い、正義を見失い冥環へ。疾風のような速さと、空間すら断つ風刃で戦う。性格は冷酷だが、内に激情を秘める。能力例:《真空刃陣》:見えぬ風の斬撃を無数に飛ばす。《断空輪舞》:空間ごと切り裂く旋風剣舞。
11. 聖骸奏者レグナス
光の神域〈ルクス・セラフィム〉異名:堕天の光導師。元は天上界の大司教にして“祝福の調律者”。天の光の美を愛しすぎたあまり、神すら操ろうとし、堕天した。純粋な光と神聖の力を操るが、その輝きは狂気に満ちている。能力例:《聖歌・赫光葬》:敵味方すら巻き込む破壊的聖光波。《裁断の旋律》:音と光で精神を崩壊させる神罰の協奏曲。
12.???(未登場)
時の神域 冥王アザラフに近い存在、時間の支配者?
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■ 追加キャラ「黒翼のソルナイト」
◆ フェン=イグニス
アキトたちと同じく“星環の騎士”だったが、かつて冥環帝国との戦いで全滅した部隊の唯一の生き残り。
一時的に敵側に身を投じていたが、堕ちた仲間たちの魂を救うため、闇から舞い戻る。
常に単独行動。冷静沈着かつ非情に見えるが、内には強い正義感を持つ。
専用武装:《黒焔鎧〈クロノ・フレイム〉》、必殺技《煉獄鳳翔撃》
名台詞:「燃え尽きてもいい。お前らを守るためならな――」