第2話 アストレア星術学園へ
「ここがアストレア星術学園…!」
フィリア・クレインは、広がる夜空のような青紺のケープと鮮やかさのあるボルドーのスカートとリボンを身にまとい、広大な石畳の広場に立っていた。
目の前には、空に向かってそびえる巨大な塔と、それを囲むように建てられた荘厳な校舎。
ここが、星術師たちの精鋭を育てる場所――《アストレア星術学園》。
この学園に入れるのは、特別な星素の資質を持つ者だけ。推薦制の厳しい門をくぐることを許された者たちが、各地から集まっていた。
「……すごい、本当に来ちゃったんだ」
手のひらに残る、あの銀の封蝋が押された入学許可証のぬくもりを思い出す。
孤児院での暮らしとはまるで違う、不思議な世界への入り口。
ふと周囲を見渡せば、彼女と同じように真新しい制服に身を包んだ新入生たちが、緊張と期待の入り混じった面持ちで広場に集まっている。
フィリアの胸が高鳴る。ここから、自分の物語が始まるのだ。
「入学式の前にステラノヴァホールにて“星環の儀”が行われます。新入生はホールへ向かい、整列してください」
教師の澄んだ声が広場全体に響き渡る。浮かぶ音声板からの案内に、新入生たちはステラノヴァホールへ行き、ゆっくりと列をなしていく。
高天井のホールには、新入生や在校生が一堂に会していた。星の名を冠するその空間は「ステラノヴァ・ホール」。ドーム状の天井には星座の意匠が描かれ、宙に浮かぶ光球が淡く揺れている。
そのとき――
「ガーディアン、入場!」
厳かな声と共に、ホールの中央階段から6人の男女の生徒が現れた。各々の全身から研ぎ澄まされた星素の気配を放っている。
彼らの登場に、新入生たちのざわめきが起きた。
「みてみて!ガーディアンだわ!」
「アストレア星術学園の規律を守る、各組から選ばれた1人しかなれないって噂の…!」
フィリアは先程配られたばかりの入学案内書に記載されているガーディアンの説明ページを開く。
【ガーディアン】
学園を代表する6組の精鋭、《ガーディアン》。
イグニス組、アクア組、ヴェントス組、テラ組、ルクス組、フルグル組――それぞれ異なる属性の星術に長けた、各組のトップらが選出される。
(ほぇ…凄い人たちなんだ)
ガーディアンのケープには、金糸の刺繍で各組の紋章が施さられていた。その輝きは、まるで星々の加護を受けているかのようだ。
「さすがガーディアン……!」「あの金髪って、ルクス組代表のアルセイン様だよね?」
興奮と尊敬の声が入り混じる中、ガーディアンの一人が前に進み出る。
「みなさん、ようこそアストレア星術学園へ。僕はこの学園のガーディアンを務めるアルセイン・シュレディンガーです」
柔らかな口調で挨拶したのは、金髪の少年だった。清らかな雰囲気を纏い、どこか神聖さを感じさせる。彼はフィリア達の方に目を向け、優しく微笑む。
「これより“星環の儀”を執り行います。星術とは、星素を制御し、世界に働きかける術。みなさんは今日から、その力の入口に立つ者です」
彼の言葉が空気を引き締める。フィリアの背筋も自然と伸びた。
「星環とは、星素を制御・増幅するために使われる個人専用の道具です。そして星術師にとっては星術の回路。自分が選びし形、それがみなさんの星術の核となります」
ガーディアンの言葉に、前方に浮かび上がったのは、淡く光る鏡。そして、それぞれ異なる形状の星環――リング、ペンダント、ブローチ、ピアスなどが、ゆっくりと宙に回転している。
壇上に立つアルセインが、手にした鏡を掲げた。縁に星を象った銀の装飾が施され、中心には淡く光る水面のようなものが揺れている。
「これは“星霊鏡”と呼ばれるものです。これから皆さんには、この鏡に触れてもらいます」
ざわつく新入生たちに、アルセインは柔らかく微笑みかけながら続けた。
「星霊鏡は、その人が生まれ持った“星素”の量、そして“星素”の性質──つまり属性を測る力があります。これによって、みなさんがどの“組”に最も適しているかがわかるんです」
「組が決まる…」と、誰かが小さくつぶやいた。
フィリアも思わず息をのむ。自分にどんな星素の属性が宿っているのかなんて、考えたこともなかった。