プロローグ
――星が堕ちた、その日から。
それは、遥か七百年前のことだった。
世界の中心、エリュシオン大陸の夜空を裂いて、一つの“星”が落ちた。
それは天の怒りか、それとも神の祝福だったのか──。
星の落下とともに世界は変わった。空は割れ、大地は燃え、世界の理は乱れた。
だがその星が残したもの、それが人々に「希望」を与えた。
**星素**
──それは空から舞い降りた、不思議な力を持つ光の結晶。
この未知の物質に触れたごく一部の人間は、不思議な力を得ることとなった。
星素を用いて
炎を操り、風を裂き、時に空すら渡る。
やがてその力は「星術」と呼ばれ、人はそれを学び、鍛える術を知った。
そして現在。
類い稀な星術士を育成するために創設された学び舎があった。
アストレア星術学園。
この学園に入ることを許されるのは、唯一、星術適性を認められた者──すなわち、学園側からの推薦を受けた者だけ。
星術は、生まれながらに星素を用いる不思議な才能である。
人は13歳を迎えることで、初めてその星素を安定させ、星環と呼ばれる媒体を通して星術を顕現する。
そして、推薦を受けた者は「星環の儀」と呼ばれる儀式を経て、自らの魔術と向き合うことになる。
星環の形は、それぞれの魂を映し出す。指輪、ブローチ、ペンダント、ピアス……。
形も、輝きも、力もすべてが唯一無二。
だが、この物語の主人公──フィリア・クレインは、そんな特別な力を持つはずのない、ただの少女のはずだった。
これは、“欠けた星”の物語。
彼女が、彼女自身を取り戻すために歩む物語。
そして世界が、その真実と向き合うまでの──長い、旅の始まり。