【章末エピローグ】 転校生
それから数日が過ぎ、二学期が始まった。
始業式もそこそこに、教室でひと夏の思い出マウント合戦が繰り広げられている。
おれは不参加。というか、一学期で高校デビューに失敗が響いている。
「ねえ、冬馬くんは夏休み、どこかに行ったあ?」
「ずっとバイト。三日前まで過労で検査入院してた」
「え、入院っ。えっと……そ、そうなんだ、へぇ……なんか、ごめんね」
ついでのように訊かれても誠実に応じたつもりなのに、腫れ物を見るような目で話の輪ごと遠ざかられた。
一学期のクラスコミュニティ構築をスタートラインから転倒していたおれには、この二学期をどうリカバリーすればいいのかさえわからなかった。
気まずい空気を、廊下から担任が一陣の風となって換気した。
残念ながら名前はまだ覚えていない。授業用パットを見ればわかるのに、それも怠っている。
「ホームルームすっぞー、その前に二学期からこのクラスに転校生がはいるからなあ。仲良くなるのはいいが、イジメだけは勘弁なー。ほれ一応、自己紹介だけしとけな」
段手町高専高校では、転校生は黒板の前に立つが、名前を書くことはしないらしい。
黒のTシャツにライトグレーのパーカー、そして同色のショートプリーツスカート。その下は黒のレギンス。髪は栗色のベリーショート。ボーイッシュな笑顔が男子も女子も惹きつけた。
「ひろき、って言いますっ! よろしくな」
授業用の液晶パットに名前とクラス、出席番号とバストアップ写真が表示された。
[ 椿原 弘城 ]
「え、椿原って、あの!?」
まったくの不意打ちだったので、おれは思わず声を上げてしまった。
転校生が不敵な笑みを浮かべて、おれの机に手をついた。
「よぉ、まーもるぅっ、あとで学食案内しろよ。お前のおごりでなっ」
「うっ、やっぱり童夢か。でもお前、三男だって……女子だったのかよ」
「ん~? そのへんのことは飯食いながら話してやってもいいぜ。終わった話になったからさ。なあ、センセー、オレの席は冬馬の後ろだよな?」
「先生、こいつに背後とられて授業を受けるの、嫌です」
双方の言い分に対して、担任は状況判断が早かった。
「青山。冬馬の後ろに席かわってくれ。転校生がとなりなら冬馬も背後を気にせず、転校生の面倒を見れるからな」
「待ってください。どうして、おれが転校生の面倒なんですか? コイツは女子です!」
「ん? 仲良くなるのはいいって言ったろ。冬馬は転校生に背後を取られたまま授業を受けるのが嫌だって言ったよな?」
おおっ。クラスメイトから驚きと納得の声があがり、おれは論破沈黙した。
こうして、おれの二学期は敗北からスタートした。
※お知らせ※
ここまで読んでいただきましてありがとうございました。長期に渡る体調や家庭諸事情もあり、長期休載することにしました。現段階で再開の目処が立たないので完結を押させてください。再開する際に連載に戻します。




