表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/71

第15話 換骨脱胎/emergence(羽化)後編



 この第18階層に、何かが降りてくる。


「兄貴……っ!?」

「移動だ。ここを離れる。できるだけ上階に揚がれる場所で身を隠す」

「マモルは?」


「例の脊髄が回路不整合(サーキットミスマッチ)で暴走してるんだとしたら、敵も味方も節操がなくなってる。電池切れを待つしかねえ。毒をもって毒を制すなんて調子いいこと言いたかねえが、俺らで止めに入って真っ二つにされたんじゃ目も当てられねえ。急げ」


 二人で深くくぼんだ場所を選び、ヒートアクスで岩壁を削って窓を作った。

 暴走キマイラと入口が両方見れる場所だ。


「[管制室]、[ノーム5]の現在地を報告してくれ」

「間もなく第18階層へ到達。……四、三、二――今」


 ほの青く光る〝脊髄装甲〟が降りてきた。


「あれが、[ダレンスレイブ]?」


 メンザの声が悲嘆に聞こえた。

 俺たち兄妹がコツコツ作ってきた原型はどこにもなかった。


 ひと目見て装甲(スーツ)ではなく甲鎧(アーマー)で、竜の襲鱗を(かさねうろこ)まとっているかのようだった。 


 ヘルムはV字ラインツインアイ。後頭の白い七支角と瑠璃色のたてがみは放熱器だろう。


「[ダレンスレイブ]が乗っ取られた……っ?」


 ひと目見て、そうとしか考えられなかった。あの脊髄は機械獣のものだったのだ。

 だが人と融合できる機械獣も、俺はいまだ見たことがない。


 青い鎧はキマイラの前で立ち止まり、ショートブレードを抜き放つ。が、ふとおのれを預ける刃を見返した。


「うっくく、あの巨体相手じゃ、刃渡りが短すぎんだろうな」


 俺は窓から覗きながら石壁を殴った。純粋な体格差なら衛とキマイラは三十倍の差はある。

 それでも、あの青い鎧は怯むことなく鉄塊へ地を蹴った。


「勇猛なこった……メンザ。お前、ここで記録撮影、してるよな?」


「へ? ああ、うん」

「なら、お前の斧、持ってくぞ」

「持ってくって。兄貴、まさかこのタイミングで討って出るの?」


「無性に、ビールが飲みたくなってきやがった。さっさと仕事は終わらせるにも、あの新人見習いなんぞに任せっきりってわけにもいかんだろ。ほれ、早くよこせ」


 自分のヒートアクスを腰にたばさむと、俺は義弟の戦斧を両手に持った。


「[ノーム1]から[管制室]、出るぞ。誘導を頼む」

『[管制室]、了解。そこから正面通路に入れば、今なら敵の右側面に出ます』


「[ノーム1]、了解。なお[ノーム2]が現場を記録する。共有してより細かい指示をくれ。おそらく同じ階層なら通信回線は[ノーム5]に届いている。衛を信じろ」


 衛は必ず助ける。俺は体勢を低くしながら、安地から飛び出した。



 通路を抜けると、キマイラの体で光っていた青いまだら模様が赤く変光していた。

 明確な敵対意思と警戒光が、青い[ノーム5]を威圧する。

 さっき隠れた岩陰にボウガンがボルトが装填済みのまま放置されていた。


「それじゃあ、さっきの討伐戦のやり直しだ。喰らいなあ!」


 ボウガンの引き金を引いた。ボルトは地平まっすぐにキマイラの尻に噛みついた。

 爆発。デーモンコアは直径三メートルほどの火球となって炸裂し、左後脚部をごっそり吹き飛した。


 キマイラが何事かと俺の方へ振り返る。


 その間隙を逃さず、ツインアイが闇宙に青い鬼火の尾を引いた。

 山羊の頭が切り落とされて、爆発。さらに返す刃でもう一頭のヤギ頭にもショートブレードを突き刺したまま、退避。数瞬遅れて爆発し、首が地面に倒壊した。


 俺は握った戦斧をスローイング、タテに旋回しながら飛んでいく。


[ノーム5]は、俺のサポートを待ってましたとばかりに回転斧を難なく受け取るや、キマイラの背中に叩きつけた。


 爆発。その中でも俺が鍛えた鉄刃は残った。


「くそっ。あれ以上、見習いに手柄を取られたら、年寄りの立つ瀬がなくなっちまうぜ!」


 腰のヒートアクスを抜き取って、二本立て続けに投げた。


 赤いデーモンコアに衝撃して爆発が続き、キマイラの巨大な胴体がぐらりと傾き、地面で腹を見せた。そして崩れたくず鉄が徐々に別の形を成していく。爆発飛散したことでリスポーンしたデーモンコアたちのくびきがとれ、飛び散った部品から本来の自立再生を始めだした。


 俺は急いで最寄りのデーモンコアに駆けつけると鉄塊ごと蹴った。

 その先で[ノーム5]が戦斧で打ち返す。

 デーモンコアは高だかと放物線を描いた彼方で、爆発四散した。


「あれは……人型っ!?」


 最後のデーモンコアがくず鉄を編んで二足で立ち、人の下半身と腹、肩とわかる形まで集成していた。

 その胴体を[ノーム5]の戦斧が唐竹割りにする。

 爆発。

 炎の中からV字ラインが現れ、ゆっくりと前のめりに崩れ落ちた。


「衛っ!?」


 俺は駆け寄って青い装甲を抱き起こすと、背後の脊髄ゲージを確認した。

 無傷だった。あれほどの戦闘や最後の爆発を受けてなお、装甲は損害どころか摩耗すらしてない。

 こいつは脊髄装甲、なのか……それとも機械獣なのか。


「[ノーム1]から[管制室]へ」

 呼んでおきながら、俺はどう伝えようか迷った

「任務完了。[ノーム5]の装甲損害、軽微。搭乗者のヘルスチェック要請」


『[管制室]から[ノーム1]へ。[ノーム5]搭乗者・冬馬衛。更新チェック終了。心拍数64。血圧128。脳波α波減少まま。意識不明が続いてるわ』


 俺はどっと息を吐いた。

 衛は生きてる。気を失った状態が続いて、この大立ち回りか。


「了解。とにかく地上に救護班の手配を頼む。[三島瓶割]浮上する」


『了解。地上に戻るまでが潜穽だけど、とりあえずお疲れ様』


 俺は青い〝脊髄甲鎧〟をファイアーマンキャリーで担ぎ上げると、義弟を呼んで第18階層の最終確認を頼み、先に浮上した。


 義妹からマモルに一体何が起こったのか、早く聞きたかった。



 第15階層・キャンプ地。

 テントはすでに撤去されて、背嚢も人数分まとめられていた。


「おい、いね?」


 声をかけると、義妹は驚いた様子でこちらに振り返った。


「全員、無事みたいだな。よかったよかった」

「待てよ。衛を」

「浮上だろ。さっさと行くぜ」


 にべもない態度に呆然としていると、いねは肩をぶつけてくる。


「ここじゃ、東城が聞いてる。話せない」

「何が起きた。衛は」

「あたしの経験からだと……あいつはその中でもう、死んでる」


 それだけいうと背嚢を二つ背負って、いねは上階への道を戻り始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ