第七十七章「怪力」
「駄目ッ!!!」
「神美ッ!!」
白龍は羽衣から玉美を庇い、両腕に傷を負う。痛みに耐えながら、血に染る羽衣を引っ張り、神美を抱き寄せた。
「…やっと、お前に触れられた────」
「!………」
「済まなかった……────お前の身体に傷を付けてしまった…。私は……五龍として……───…一人の人間として失格だ…!」
「……失格じゃ……ないよ───あたしも…ごめんなさい…!!───小龍の事……女の子の事も……傷付けた……!」
謝って済まされる事じゃない
もし、小龍が庇わなかったら……
(死んでたかもしれない)
"嗚呼……───嗚呼……我が愛しい娘よ……やっと───逢えた……"
罪悪感が増す度に蚩尤の声が脳内に響く。
お前は普通じゃない
お前は魔物の娘
お前は幸せになってはいけない
そう言われているような感覚に陥った。
「ッ……───あ、あの……ごめんなさい!!!怖い思いさせちゃって……!!」
ふるふると震えている玉美は一瞬俯いたが、クスリと笑みを零した。
然しそれは神美にしか見えていない
「うえぇぇぇ~んッ!!!白龍様ぁ~~!!玉美怖かったですわぁ~~ッ!!」
神美を突き飛ばし、どさくさに紛れて白龍に抱き着く玉美。
慌てふためく白龍は、必死に玉美を引き離そうとしたが、中々の腕力の持ち主で、ビクともしない。
「これ!!離れぬか!!」
「嫌です!!またあの方に襲われでもしたらたまったもんじゃありませんもの!。…それに…、白龍様は……玉美の運命の殿方ですから……ぽっ」
「な……───ぬわんですってぇぇ!?」
「ふん───貴女……白龍様のなんですの?───まさか、そんな狂暴で白龍様をお慕いしてる……───なんて言いませんわよね?」
「ぐっ……だったらなんなのよ」
「まあ~!!本当にお慕いしてると申しますの!?。身の程知らずって本当に居るんですのねぇ~~!!玉美驚いちゃうっ」
「前言撤回……───やっぱりあんたのことぶっ飛ばすわあぁぁぁあッ!!!怒」
「きゃあ!こわぁぁ~いッ!!、白龍様助けてぇ~!!」
「小龍から離れなさいよッ!!この猫かぶり寄りの泥棒猫ーーーッ!!!」
「誰が猫かぶり寄りの泥棒猫よッ!!!!───この狂暴女がッ!!!」
「……やめぬか!!二人共!!」
白龍は両者の首根っこを掴み、引っペ剥がすと、その騒ぎに駆け付けた、砦にいた女装をした兵士らしき人物の一人が、槍を持って部屋に入ってきたのだ。
「ちょっと!!玉美様!!そこの女は誰ですの!?」
「ちょうど良かったわ……!!その女連れてってちょうだい!!。…てゆーか、お兄様はまだ戻らないの!?」
「そ、それが……玉娘様一人で青龍と赤龍を仕留めようとしてまして……」
「なんですって!?」
「なんですって!!」
神美と玉美は見事に重なり、双方睨み付ける
「青龍と赤龍が…!?」
「え、て、てゆーか……あんた…玉娘さんの…」
「ええ、妹ですわよ。……貴女、兄様をご存知ですの?」
全く似てないと思ったが、此処で口にするとまた揉めるのでやめておこう……
「まあ、ちょっと色々あって……───そんな事より、このままじゃ皆が……お兄さんが危ないの!!」
「ちょ、ちょっと!!肩を気安く掴まないで下さいまし!!。……もしかして貴女、お兄様を襲った悪党の仲間ですの?。」
「ばっかじゃないの!?悪党なわけないじゃな───」
「悪党は私だ……玉美。その娘は、お前の兄上を傷付けようとした私の剣……私から、兄上を庇って傷を負ったのだ。」
白龍が玉美に頭を垂れる
「う……そ…」
「…嘘ではない───」
「…でも、玉美には……白龍様が人を傷付けるような方ではないと……感じます───…それに…………その女が、お兄様を庇ったのがわざとらしくてムカつくんですけど」
「あんた……どれだけ性格捻くれてんのよ!!」
「ふん……!!。……──お兄様は繊細なんだから………。 玉美の為に……この砦や、女の国の人達の為に……自分を犠牲にして生きてきたの。……あの尼に殿方の象徴を取られてから……。でも……そろそろ潮時かもしれませんわね……」
「玉美……───貴方のお兄さん、きっと誰かを傷付ける事が一番嫌いなんだと思う。今、あたしの仲間と戦ってるけど……───本当は……」
「そんなの……───貴女に言われなくても分かってますわ。…… 玉美はお兄様の所へ向かいます。」
「玉美様……此処から玉娘様の所は少しばかり距離がありますのん!。日を跨ぐと思われますっ!」
「心配する必要はない───私が、なんとかする」
「小龍まさか…」
「は、は、白龍様……───やっぱり、玉美の事を想って……」
「……私の正体は、そなたは知っているのだろう?」
「……はい───東西南北・中央を守護する、五龍の事は古より語り継がれておりますから。西方を守護する白龍様……───そして、貴女が龍仙女だと言うことも…」
「玉娘さんもそうだけど……───どうしてあたし達の事を知ってるの?。……それに、玉娘さんのあの力……龍と互角だったし……」
「……その様子だと、貴女なーんにも分かってないのね。龍仙女は、仙女として誕生したその時から、世界を護る為に数え切れない程の力を身に付けたの───かつて玉美達の先祖が、誕生したばかりの仙女に"力"を伝授したの…。その力は、本来であれば…先祖や玉美達にしか使えない筈だったけど……」
「じゃあ……その力って」
「怪力よ」
(だから、先生の 呉鉤を、素手で受け止める事ができたのね…。それに……玉美のあたしを突き飛ばした時の力の強さ……───普通の人間の力じゃないと思ってたけど……そーいう事だったんだ)
「ま、貴女じゃ……怪力は使えそうにないわねっ。教える気もさらさらないけどぉ~っ───さ、白龍様っお兄様の元へ………それと、貴方の心の中へ連れて行ってくださいましっ」
「怒……小龍、その人は途中地獄に突き落としてくださーい」
「はあ!?意味わかんないんですけど!?」
「……喧嘩をするなら、お前達二人は置いていくぞ」
「ああ!それはやめてー!!───って、真似しないでよね!!」
「ああ!それはやめてくださいまし!!───って、真似しないでよね!!」
「……実は、仲が良いのか?」
玉美を連れて、神美達は急いで赤龍達の所へと戻る────
その頃───黒龍達は……
。
。
(何……あの黒い塊──まるで…魂みたいな)
「……ウッ…!!アアァァァァァッ!!」
黒龍の銃に撃たれた女装獣は、銃から放たれた黒い魂に何かを吸い取られ、巨漢だった身体は、一回り小さく萎んでしまった。
「……成程、そーいう事か───この力、貰うね」
「ちょ、ちょっと!!黒龍……お前」
「…大丈夫───その子、死んでないから。…まあ、生まれ持った力を貰っちゃったけども……───この力、ロンちゃんが使ってた力と同じみたいでさ。」
「龍仙女様が…使ってた力と?」
「怪力だよ───」
黒い魂は黒龍の銃口へと戻る。
それを見た残りの女装獣達は脅えて腰を抜かす者も居た。然し黒龍は容赦なく
「さあ、キミ達の大将の所へ連れてってよっ。……色々と聞きたい事があるんでね」




