第八章「皮と具」
「へ、陛下!…我々が!」
「貴方様に捜させる訳にはまいりませぬ!」
神美が飛び出した後、白龍が直ぐ様に追いかけようとすると、家臣達は慌てた様子で制止したのだ。
「……気遣い感謝する───しかし、これは私の責任だ。」
「陛下、お言葉ですが……あの娘は呪いの食材と呼ばれた美豚…。陛下が何故そこまで、あの娘を気にをかけるのか……」
「それに、美豚は今直ぐにでも始末せねばならぬと……───伝説ではそう語り継がれております」
「あの娘は呪いの食材ではない」
「し、しかし……!」
「心美しき娘だ……───穢れを知らない、乙女なのだ」
すると──白龍の身体は白く輝き始め、龍の姿へと変身した。
「そなた達も、いずれあの娘の人柄に惹かれるであろう……。───…今は、それで良いのだ」
「へ、陛下!!」
ビュオォォォ!!──と、突風が吹くと、白龍は消えてしまった。
。
「ね…ぇ、あなた……もしかして、小龍が……好きなの?」
「……ええ、そうよ───アタシは、あの方の為ならば……命を捧げる覚悟も出来てるの。……でも、白龍は…───貴女を護る事でいつも頭がいっぱいで……───アタシの気持ちも……残りの龍の気持ちもお構い無しに……」
「どう…して?……小龍は……あたしを」
「情に触れてしまったから───貴女の生みの親の……────五龍として生きていたのに、そんな使命や…世界を不安定にさせてしまっても……───何があっても護ると誓ったのよ───貴女の母親の代わりに、白龍は!!─────」
ドオオォォォォォォンッ!!!!!!
突如の衝撃波によって室内が破壊され、黄龍の龍尾に捕えられていた神美は解放され、外に投げ出されてしまった。
「うわあああ!?」
「神美!!!─────」
ドサッ……!!!────
(……あれ?、痛みが……無い───)
「って!!───シャ、小龍…!!」
「っ……───間一髪と言った所か……」
白龍姿の白龍は、自分の背で神美を受け止めたのだ。
「お、重かったよね!?。どうして……───助けに来てくれたの?」
「……私は無神経だった────そなたの気持ちも考えずに……、傷付けてしまった」
白龍は身体から白い光を放ち、人間の姿へと戻る。そして、神美の頬に手を添えて…
「済まなかった……」
「っ……」
(なんて、綺麗な人なんだろう……。)
硝子玉の様な綺麗な瞳───長くて黒い髪────透き通るような白い肌……
神美は、心がときめいた。
しかしそれを、嫉妬が混ざった黄金色の瞳が見逃さなかったのだ。
「白龍……ッ!!」
「黄龍…、一体之はどういう事なのだ?。……神美に……、何をしようとした?」
「…白龍…、貴方は変わってしまった……────美豚を見つけた時から……」
「……下がれ─神美。」
「小龍!?……何をする気なの!?」
「……この龍は、五龍の禁忌を破った───…人間に手を掛けようとしたのだ」
白龍は、腰元の鞘から剣を抜き
黄龍に突き付けた。
黄龍は、白龍のその行動にショックを受け、身体から黄金の光を放ち──────
「ッ……!?──そなたは……、いつも柘榴と共に居る…後宮の妃の……」
泣きじゃくるその美しい少女の顔を見た白龍は驚愕の表情を浮かべた。
「ッ……あぁぁッ!!───……ッ……やっと……やっと……白龍に……追いついたのに……ッ────」
(どんな思いで……)
神美は無意識にそっと、黄龍を抱き締めていた。
「ッ!?…な!!何をするのよッ!!!───」
「───寂しかったよね……────ごめんね……、ごめんね……ッ───大好きなんだよね……、白龍の事が……─── 龍仙女の事が」
痛い程──伝わってくるから……
『神美、痩せるとは別に、ばあちゃんとの約束じゃ』
ええか?、世の中色んな個性を持って、宿命を持った生物が居るんじゃ
お前はその生物の中の、人間っちゅーもんにたまたま生まれたに過ぎん。
その生物の中にゃあ、捻くれて拗らせて…
そらぁ、えれぇめんどくせぇ、理不尽な馬鹿も存在するけどなぁ
「大丈夫だよ……、ちゃんと…貴方の気持ち分かってるよ」
『お前はそんな《《馬鹿》》を包める、肉まんや小籠包の皮的な存在になってやれ。具があるからこそ、皮がある。』
『ばあちゃん、何言ってるかさっぱりだよ』
『アハハ!、今に分かるぜよ』
皮だけじゃ────具だけじゃ───
「寂しいもん……、そんなんじゃ……」
幼き頃におばあちゃんに言われた事を、やっと理解が出来た気がする。
でも、それは……、言葉にするにはまだ難しいような……
「あたし、四ノ宮神美って言います!。…あたし……黄龍と友達になりたい!───だから、貴女の名前を教えて?」
おばあちゃん────あたしは、包める皮になれるかな?
包める皮になれたら、また……
神美の所に、帰ってきてくれる?