第七十四章「縋る温もり」
「では…神美さんの血を輸血して頂いた事で…彼女の意思が私に伝わると?」
「多分ぢゃがな」
「そもそも、その女の国って……────可愛い巨乳ちゃん達も居るの!?」
「いるわけないぢゃろうが!。…あの国で生きる者達は、以前は山藍国の勇敢な兵士や…都を護る用心棒達ぢゃった…」
「…って事は、沁華に玉を取られた奴らって事?」
「恐らく……。数年前は、国等と呼べる程の規模ではなかった……──まさか、ここまでのものになっておろうとは……」
森を駆け抜けた一同が目にした物は想像もつかない光景だった。
「栄えた小さな町に……その奥に見えるのは…砦のようなもの?───」
「なんか、通り過ぎる人間…───全員男だよね」
「女装してるね」
「青龍、お主の意志を仙女に伝える事が出来るはずぢゃ。先ずは居場所を把握せねば」
「やってみます」
。
。
ぎゅーーー!!
「いったーーーーーいッ!!!!いだいいだいいだいーーーーーーッ!!!」
「ギャーギャーうるせぇ!……黙って手当てされてろ」
薬草の匂いが充満する小屋の中で、神美の悲鳴が響き渡った。怪我を負った左肩に包帯を強く巻かれた事が原因である。
「ホ…赤龍の力が強すぎなんだよ!!」
「…とりあえず、応急処置は済んだ…。動くなよ」
「あ、ありがとう!。でも…小龍を捜しにいかなきゃ!!、きっと…あのオネェ軍団に捕まって…」
「…捜しに行く必要、あるのか?」
「え…」
「少し、頭冷やさせた方が良いだろ……。彼奴は……自分の感情のままにカマ野郎を殺そうとした───…世界と人間の平和がどうのこうの言っといて……結局あのザマだぜ」
(確かに…小龍の殺気は凄かった……───でも…あたしを護ろうとしてあんな事に……)
「あたしが…ちゃんとしてないからこんな事になったの。……無責任で……ごめ…ん───あれ、なんか…ごめん!!涙でてきたーー!!」
「……───」
赤龍が神美の頭を自分の胸に抱き寄せた。
「ホ、赤龍……!?」
「チッ……泣くな……鬱陶しい」
そう言いながらも、声音は優しく感じる。何故だか、その優しさに縋りたくなった。
「もうね…どうしたら良いか、分からない。あたしが関わっていく人達や……小龍や赤龍や皆が……酷い目に合いそうで……」
「はっ……───とっくにもう、合ってるっつーの。そんなの承知で、五龍達はアンタに着いてきてんじゃねーの?」
「…赤龍」
「自分で決めた事だ───ガタガタ言わねーよ。」
「…赤龍が居てくれて良かった───ありがとう…!。
「!ッ………ウザ」
咄嗟に身体を離すと、赤龍はそっぽを向いてしまった。照れたその背中に神美が笑みを零すと
「ホント、アンタら良い度胸してるわね」
「ぎいゃーーーーーー!?よ、妖怪ーーーーッ!??」
「ば、化け物!?」
二人の間にいつの間にか現れた玉娘が険しい表情で立っていた。
「だぁれが妖怪・化け物よッ!!!。麗しの乙女…玉娘様よッ!!!」
「何処が麗しだ……」
「…てゆーか、アンタにお礼、まだ言ってなかったわね。……ありがとう」
「あ、ぜ、全然!!」
「ったく……、無闇に飛び出して…───命がいくつあっても足りないわよ?。」
「えへへ……ごめんなさーい。」
「それと────アタイの前でイチャイチャしないでちょーだい。…ったく、アンタ…あの白龍ともイイ雰囲気だったけど……」
「ちょっ!!!ご、誤解です!!あたしはべ、べべべべべ別にそんなんじゃっっ!!」
「カマ野郎、白龍は何処にいんだ」
「あの美形くんは、頭冷やしてもらってるわ。……まあ、肥娘を傷付けたから……もう暴れる事はないでしょうけど。」
「玉娘さん、あたしを小龍の所へ連れてってほしいの!」
「駄目よ───アンタを此処から出す訳にはいかないの。……アンタは、アタイらの復讐に必要な材料だからね……」
「復讐だ…?どういう事だ」
「アタイらは、山藍国の元・兵士や用心棒なんだよ。…でも、突然現れた尼に……アタイらの"象徴"を取られちまってね……。しかも、その尼…どうやら葡華国の守護龍…黒龍に入れ込んでいたらしいじゃないか…」
(沁華が黒龍を…!?。……確かに二人は面識があって、……それに黒龍は過去に、守護していた国の太医から、沁華を護れなかったって言ってたけど……───何か…関係があるの?)
「だったら利用するしかないってことさ……───此処に黒龍誘き寄せな。アンタならできるだろ?。赤い龍だって傍に居るんだ……───仙女ならね」
「最初から知ってたの!?。そんな事して……どうするつもり…?」
「アタイらの玉を取り戻す&尼を殺す為の罠になってもらうのさ」
「そ、そんなの絶対駄目!!!」
「あ───?……じゃあ、アンタが玉も……アタイらの人生を取り返してくれんのかよ?」
「そ……それ、は……」
「テメェのような頭で考えねぇような、やる気だけある女が一番腹立つんだよ。綺麗事で片付けられねぇ所まで、アタイらの精神は蝕まれちまった。本当は、誰も殺したくなんかねぇさ……───」
ぐっと拳を握り締めた玉娘は微かに震えていた
「さあ……、早く此処に黒龍を呼び出しな!!」
「ッ……そんなの」
神美さん……───聞こえますか?
「!……先生!」
良かった…聞こえてるんですね───今何処に居ます?……何か特徴が分かれば
「小屋……小屋のような物は見えない!?」
小屋……?────……あ
「さっきから何をごちゃごちゃ話してるんだい!!さっさと黒龍を呼び出せッ!!」
「仙女、伏せるぞ────」
赤龍に抱き寄せられ、そのまま床に伏せると
バキャッ!!!!!────ブォンッ!!!!
小屋の壁の一部が破壊され、見慣れた幅の広い刀が思い切り玉娘に目掛けて振り下ろされた。
「!…───アラ……随分ご挨拶じゃないの……」
ガシッ────と、力強く刀を掴まれてしまった。
「なっ……─── 呉鉤を素手で…!?」
「せ、先生!!」
「チッ……遅せぇよ」
呉鉤には血が伝い、ポタリ───と、床に零れ落ちる。
「アンタ……山藍国の元・太医だね」
「……貴方は……」
「アタイの顔なんて知らないのも当然だろうよ…。…アンタが太医のままだったら、きっと……こんな事になる筈もなかった」
「……中々強い力をお持ちのようで───…流石は、元・兵士……と、言ったところでしょうか?」
「……あら、何処で面識があったかねぇ…───もしかして、アタイに惚れてた?」
「御冗談を……─────ハッ!!」
一瞬の隙で、捕らえられた 呉鉤を蹴り飛ばし、青龍は足を使って玉娘を拘束した。
「そんな力でアタイに対抗する気かい…?────面白ぇ……────受けて立つぜ!!!」




