第七十章「加速する恋」
「やだ!!絶対祭り行く!!!」
「駄目です───分からない人ですね…貴方は怪我人ですよ?」
「せんせーだって怪我人じゃんか!!」
かれこれ何時間も攻防が続いていた。
皇帝が崩御したこの国は「祭」を行うとのことだ。
琳瞳はこの祭を誰よりも楽しみにしている────然し、如来の華組に襲われ、抵抗をした琳瞳。
大事には至らなかったが顔や手足は少し怪我を負っていた。幸い傷等後遺症は残らないとの事だが……青龍は心配で堪らない様子で、必死感を成るべく隠しつつ阻止をしていた。
頬を膨らませ、少し涙目になりながら不貞腐れた──そんな琳瞳を黒龍が背後から抱き上げ、肩車をした。
「チーちゃんオレからもお願い!。折角の祭なんだから許可してあげてくれよ~」
「…ですが」
「学び舎の皆はオレがちゃんと護る───だから…、連れてってやろうぜ?」
「オッサン!いいところあんじゃん!」
「だからっオッサンやめてっ!!。一番年長ではあるけどっっっ」
「……はぁ、わかりました───祭に行くことは許可します。ですが、送り火の儀式が始まる前に帰って来ることを条件とします」
「えーーーーー!?提灯飛ばせないの!?」
「長時間は傷に影響を与えます。言うことが聞けないなら……此処に居ても良いんですよ?」
「うー……───ちぇ……、わかったよ!!」
気丈に振る舞ってはいるが、黒龍は琳瞳達が身体的・精神的に傷付いたのは自分のせいだと責めた────
沁華があのようになってしまったのは、過去に自分が守護していた国の太医から、沁華を護れなかった自分の責任だと。陽気な黒龍からはとても信じられないくらい「後悔」と「憎悪」を神美は感じ取った。悪の心を持つ人間は殺してしまえば良いと、以前口にしていた黒龍は、辛い思いと過去を抱えてしまったからこそ、言えたことなのだろう。
ドン!!────ドドン!!─────
太鼓の音───風鈴──花火の音───賑わう屋台
これがこの世界の「葬式」なのだ。
「わあ~~!!!屋台でいっぱいだあ~~!!」
「国によって、弔う儀式がこんなにも違うとは…」
「先生や梅琳ちゃん達も来れたら良かったのにね…」
青龍は怪我の治りが早いとはいえ、今回は安静にしていると言って、学び舎で梅琳達と共に留守番する事になった。
口にはしなかったが、梅琳達の精神が心配だったのだろう。
「香蕉になんか茶色い液体が塗られてるけど……なんなのアレ」
「オンナ男そんな事もしらねぇーのかよ!。アレは"精力剤"だよ。甘くて、香蕉と相性さいこうなんだぜ!」
純真無垢な10歳の少年の馬鹿デカイ声が、場を凍りつかせる。
「せ、せ、精力剤!?──琳瞳!!詳しく教えてくれないかっ!?」
「食いつくな変態僧侶」
「きゅい!」
はしゃぎ疲れて眠ってしまった鈴鈴を抱きかかえながら赤龍は琳瞳の首根っこを掴んだ。
「おい、ガキ───デカい声で騒ぐんじゃねぇよ」
「さ、さわいでねーし!!。アレ食べると、疲れがとれたり元気がでるんだぞ!」
赤龍の肩に乗っていたケセラが鼻をすんすんとさせる───すると、少しだけ頬を紅潮とさせ
丸まってしまった。動物?には刺激が強いようだ
「…そっちの意味だけじゃ、ないと思うけど───ま、僕は食べないけどさ~」
「あたし食べたーい!だって、あれってチョコバナナでしょ?。あたしの世界でも有名だったよ!」
「はあ?───お前ついに発情したの!?」
「ふむ…確か、白梨国の祭の屋台にも、同じ物が売られていたな。」
「白龍……、まさかお忍びで都に足を運んでた……なーんて言いませんよね?」
「……か、神美、私も一緒に行くぞ」
「あー!誤魔化した!」
「オッサン!、あっちで射的やってるからいこーぜ!」
「射的───…フッ、この黒龍にやらせたら……危ないぜ?」
「キモ……」
「馬鹿じゃねぇーの?」
「こいつを的にした方が良いんじゃないの?」
「あー!!ひどいひどい!!」
やれやれと黄龍が振り返ると、神美と白龍の姿を見失ってしまった。
「ま、送り火の儀式が始まる頃に戻れば会えるか…」
。
。
「おじさーん!、チョコバナナ二本くださいな~」
「あいよー!!───……って、嬢ちゃん懐妊かい!?いやぁ~こりゃめでたいねぇ!!四本……いや、五本オマケするよ!」
精力香蕉の屋台の主人は、神美を見るなりに大歓喜として、精力香蕉を五本差し出したのだ。
「んな!?懐妊してませんって!!───確かにふっくらしてるけどもっ!!」
「いやいや、もう隠さなくて良いんだよ……───あの尼が居なくなったから、もう普通に──好きな者同士が愛し合えるんだ」
店主は少し涙ぐむ────嗚呼……きっとこの人は
「…なんだかしんみりしちまったね、ごめん。…然し、すっごい美形な旦那だねぇ!」
「だ…だだだだだだだだだ旦那じゃないですぅッ!!!!」
「え、じゃあ……」
「まだ、婚礼の儀式を挙げてないだけだ」
精力香蕉五本を片手で受け取り、お代を済ませた白龍は微笑みながら、もう片方の手で、頬を紅潮させ呆気にとられた神美の手を掴んで歩き出した。
繋がれた手が熱い─────
心臓が破裂してしまいそうだ




