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爛漫ろまんす!  作者: 平野ポタージュ
謎の少女と医の國
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第六十九章「祭の前夜」

その後の山藍(シャンラン)国は、洗脳が解かれたかのように、人々は沁華(シンファ)を憎むようになった。昨日まで崇拝していた者も、手の平を返すように……


そして─── 山藍(シャンラン)の帝が崩御した。

国の人々は、根拠もないのに「沁華(シンファ)が皇帝を暗殺した」と騒ぎ立てたのだ。

『今すぐにでも見つけ出して殺せ───』

『あの女狐だけは生かさない』と……。


後から真実が分かったのは、青龍(チーロン)の身体が回復してきた頃だ。

帝の死因はなんと"アレ"を麻酔なども無しに斬られたショックと出血多量によるものだったと……───

考えただけでも恐ろしい……


「……恐らく、帝を殺めたのは…」


包帯が巻かれた胸元を抑えながら窓の外を眺めていた青龍(チーロン)は言い淀む。


「…先生!!ほら、これね~、あたしと黄龍(ファンロン)赤龍(ホンロン)で作った、特性のお粥と…琳瞳(リンドウ)が一生懸命作った薬膳スープだって!。早く治りますようにって」


お盆に乗せた料理を見て、青龍(チーロン)は一瞬硬直し、傍で寝ていた「師匠」は料理の匂いで目覚めたが…


「なっ…なんぢゃこの黒い物体わっっ!?」


「…───何やらお粥が…所々黒いのは何故でしょうか」


「あ…あー!そ、それは~……」


「ふふ、また喧嘩ですか?」


「あたしは一生懸命止めたんだよ!?、二人が具材を何入れるかで揉めて……」


「……素直に、嬉しいです───」


焦げたお粥を口に運ぶ青龍(チーロン)は、少し噎せてはいたが「悪くはないです…」と嬉しそうに食べていた。


「おい、神美(かみ)───この粥は人間の食べ物なのかっ!?」


「師匠!それは言わない約束っ!!!」


「…皆さんには、迷惑をおかけしましたね……───子供達や…学び舎の皆には恐怖を与え……辛い思いをさせてしまった……──貴女にも……酷い事を……」


「…でも、皆…先生が帰ってきてくれて安心してるんだよ。あたしも、小龍(シャオロン)達も琳瞳(リンドウ)達も……」


鈴鈴(リンリン)は……どうですか?」


赤龍(ホンロン)が、なんやかんやで付き添ってくれてて…今はぐっすり眠ってるよ」


「そう…ですか……」


目の前で親代わりに近い存在の師が、不気味な物体に貫かれたところを目の当たりにしてしまったら気を失うのも当たり前で……。あの後、鈴鈴(リンリン)は少し精神的に不安定な状態となってしまった。赤龍(ホンロン)はほっとけないのか、ぶつくさ文句を言いつつも傍から離れようとしなかった。


「…軽蔑、しないのですか?」


「…どうして?」


「私が興味を持った人間は全員…傷付く運命を辿る……───学び舎の人間達も……珖春(グンシュン)も──」


「そんなの、人と関わってたら…───100%傷つかない人なんていないよ…。だって、生きてる世界は皆違うじゃない?。同じ人なんて居ないから……だから、その人を知る為に…時にはいっぱい喧嘩して……その分、もっと大好きになると思う。てゆーか、世の中こんなに人がいっぱい居るのにさぁ~、そんな事いちいち気にしてたらキリがないよ?」


「…それは、貴女が人間だから言える事ですよ」


「そーかな?、人間とか龍とか関係ないと思うよ。…それに───皆、先生の事が好きなんだよ?」


バンッ───と、室内の戸が思い切り開かれた。

そこには、息を切らした琳瞳(リンドウ)が立っていた。


「せ……せんせーッ!!!」


琳瞳(リンドウ)は泣きながら青龍(チーロン)の胸の中に飛び込んだ。青龍(チーロン)は少し戸惑いながらも優しく抱き締めて、か細い声で「ごめん…」と囁いたのだ。


「せんせぇぇぇーーーッ!!」


と──どさくさに紛れて抱き着いた黒龍(ヘイロン)。いつの間に部屋に入ってきたのか…


「……貴方、どういうつもりです?───私、怪我人ですけど」


「えぇ~!?なんか冷たくなーい?」


「おい、オッサン!!重いんだけど!?」


「オッサン!?───何この子、口悪っっっ!?」


ぎゃーぎゃー騒ぐ三人(主に琳瞳(リンドウ)黒龍(ヘイロン))。神美(かみ)琳瞳(リンドウ)の手を引いて部屋を出ようとした。


「あ、おい!!かみ!!」


「こら!お姉様とお呼びっっ!!。…先生とあのオジサンね、大事な話があるの───だから、話が終わるまで皆のところに行こうっ」


「オジサンーーーー!?」


「ぶっ……!……あっはははは!」


バタン────

青龍(チーロン)の笑い声と黒龍(ヘイロン)の躊躇いながらも謝る声が漏れないように、神美(かみ)はそっと戸を閉じた。


回廊を歩いてる途中、琳瞳(リンドウ)は窓の外を見て目を輝かせていた。

帝が死んだというのに、都は何故か大いに賑わっている。提灯や屋台の準備───まるでそれは「祭」でも始めるかのようだった。


「なあ、かみも祭いくだろ~?」


「祭?」


不謹慎とは思いつつも、屋台の食べ物を脳裏に思い浮かべ、神美(かみ)は涎を垂らす。

琳瞳(リンドウ)は少し興奮気味に祭の事を語り出した。

「オラ達の国って、他の国と少し変わってて…───死んだ者が寂しくならないように楽しく送り出すって意味で、「祭」をやるんだ。あの世で光を見失わないように、提灯で照らすんだって」


「へぇ~、国によって違うんだねぇ~。でもなんか涙でお別れってよりかは全然良いかもー!。」


「だろ?───提灯も自分達で手作りするんだ~」


この「祭」が、ほんの一瞬ではあるが────

父娘(おやこ)」の再会のきっかけになるとは露知らず……

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