第六十八章「信じてる」
青寺院に辿り着いた時、目を疑った。
夢なら覚めて欲しいと思って、願った。
床が真紅に染まっていく。
「フフフ……────アハハハハッ!!!!。漸く…いらしたのですね……白い龍───仙女様……いいえ、美豚とお呼びした方がよろしいでしょうか?」
尼は笑止と笑っていた。不気味に───甲高く──不謹慎に───。
血の気の失せた顔、生々しく貫かれた胴体は痛々しかった。神美は力を振り絞って震える足取りで血に染っていく青龍の傍に駆け寄るが
「うそ……───嘘だよ……先生…起きて」
呼びかけても返事が無かった。
「残念ながら……────青い龍は「友」に貫かれて死にました。それはそれは本望だったのではないでしょうか────ご覧下さい……この全てをやり切った顔を」
「……っ!…どうしてこんな酷い事するの!?──先生があなたに何かしたの!?」
「──私ではありませんが……、そちらの珖春殿は…青い龍に酷い目に合わされましたけどね……───勝手な好意の押付けで…、その結果…帝の慰み者として扱われたのですから……、貴女がこの方の立場だったら、許せますか?────」
珖春と呼ばれた男は身体を震わせていた。神美は、珖春が 青龍の手を力強く握り締めている姿が目に入る。もし───青龍を心の奥底で憎んでいたら……、こんな事はしないのではないか?
「ねえ……貴方は……先生を本当に憎んでるの?」
「っ……な……何を───」
「あたしは……先生の事も…貴方の事も……何にも分からないよ……、過去の辛い事も…手遅れかもしれないけど───でも、あたしの目に映る2人は……まだ、信じ合ってるように見えるよ……」
「や……やめ…ろ────俺は!!!今更…藍猿と────…後戻りなど出来るわけないだろうッ!!!。お前のような小娘に何が分かる!!知ったような口を利くなッ!!!!」
バッッッ!!!───と青龍の手を振り払い、珖春は神美に掴みかかろうとした。
ガッ─────
然し、それは───もう動かないと思っていた人物に阻止された。
「……っ…その方に…───手を出すのは許さ……ない」
「せ……先生!!────」
沁華は驚愕した。死んだはずの龍が再び生きようとしていた─────
そうはさせない──と、錫杖の先端部分で止めを刺そうとしたが、黒龍に錫杖を奪い取られる。そのまま両肩を掴まれた
「心華ッ!!!正気を取り戻せ!!!───お前は人間を傷つける為に尼になったのか!?」
「…ッ!!────離して!!……これは、私の過去を精算する為に必要な事!!!!」
錫杖を取り返すと、紫色の玉が悲鳴を上げるかのように光出した。その光は珖春と沁華───この寺院に居る尼と僧侶だけを包み込んだ。沁華自身も光に包まれ
「───龍仙女……、貴女が捜している悪神五凶を含め、全ての答えは葡華国に御座います……。貴女が全てを知った時────どう判断するかを……我々は見守りましょう」
悲しみの表情を浮かべ、消えてしまった。




