第六十七章「好奇心な童」
龍の姿の白龍の背に乗って、神美達は寺院へと向かう途中に悪寒が走った。
(なに……この感じ───)
寺院はもう直ぐだと言うのに、何故か遠くに感じた。
もう二度と辿り着けれないような。
「青龍はなぁ…、一度自分が興味を持った者には、無意識に大切にする癖があるんじゃ~。あやつはそれを自覚せんで、否定ばかりじゃったが……」
蒼い小猿の「師匠」は語り始めた。こんな時に何を……と、神美と白龍は思ったが、嫌な予感を逸らすには丁度良かったのかもしれない。
青い龍は、使命に誰よりも忠実で、誰よりも自分の使命に対して嫌悪感を抱いていた。
だからこそ、力も無く生まれてきた人間に興味を抱いた。「力」も無ければ、五体不満足で生まれた人間は、何故人生に挑もうとするのか……
「私には……あの様な気持ちは芽生えない───」
人間に生まれ変わった青龍は、童の姿で蒼い小猿に語りかける。
やれやれと言わんばかりに蒼い小猿の「師匠」はこう言った
「それは、ないものねだりという奴じゃ」
「別に……あの人間のようになりたい訳じゃないです───でも、分からない……五体不満足で生まれて、どうして希望を持って生きようとするのですか?。」
「いやぁ…ワシ猿だし……人間の気持ち分からんけど…───まあ……そうじゃなあ……、あの人間…右腕は無いが、とてつもなく頭が良い───人間は、自分には知識と知恵がある……それを武器にすれば生きられる……とな───…あくまで憶測じゃぞ?」
「人間は……私が思っているより、強いんですね……───」
青龍は少し羨ましいと思った。自分が何故生まれたのか…──その意味を知る事が出来る人間に
人間に生まれ変わってはいるが、所詮──仮の姿の自分なんかは、生きる意味なんぞ知る由もない
ただ、世界を護る為だけに誕生した龍にすぎないのだから……
「…そんなに羨むのなら、あの人間と一緒に「医者」でも目指せばええんやねぇか?───お主には一通り、薬草や医療の知識を叩き込んだしな───ま、なーんて冗談じゃがn───」
「師匠、それは名案ですね───私、行ってきます。あの人間の事を知りたい…」
「って、ええええぇぇぇ~!?本気にしてやんの……───高貴な血を引くお坊ちゃんが、あんな名も知れぬ人間と仲良くしとったら……親父さんになんて言われるか……」
「なら、"名のある者"にすれば良いだけです」
青い龍は人間の元に駆け出した────その表情は幼い人間の童のようだった。
「その人間って先生の……」
「さあの~……、あの後どうなったかは───中々ワシにも語ってくれんもんでな……───だから、お前さん達になら、吐き出してくれんかなって…」
寂しそうな師匠の背中を神美は抱き締めた。
「師匠、先生に聞きに行こう───いっぱい聞いてあげようよ……──先生、ああ見えて…不器用だからさ」
「……嗚呼───やっぱり、お主は初代の仙女にそっくりじゃな……」
その無償の愛…────優しく、脆く、強く……美しい
ドォンッ!!!───────
と、まるで砲撃音のようなものが上空に響く。
下を見ると、寺院の本堂の扉が破壊されていた
「急ごう!、あそこにきっと…先生達がいるんだ!」
。
。
床が血に染る─────
(……嗚呼、これは……血?────)
尼を締め付けていた足は次第に力が入らなくなり、ドサリ───と血塗れの床に倒れた。
「チーちゃんッ!!!!!」
「青龍!!」
声が聞こえる────それは馴染みのある声──
(力が入らない…………こんなのは……初めてだ)
死とは……どのようなものなのでしょうか……
一度、死んでみるのも悪くない気がする
(……死んだら、自由になれるのか?────)
珖春は……───と、青龍は手を伸ばした
「……ラ……ン……ホウ───」
珖春は伸ばされた手を無意識に掴んだ




