第六十四章「動きだした謎」
「お姉さん別嬪さんだねぇ~!。更に別嬪になれる美容の薬があるけど、買っていかないかい?」
黄龍は街を歩いていると、明らかに胡散臭そうな男に声をかけられた。
更に別嬪とか、喧嘩を売ってるのか……
「間に合ってるわ」
美容薬を売っていた店主は、買わないと分かった途端に態度を一変させて、手で追い払う仕草をする。
「…ねえ、この薬…─── 藍猿に教わった知識で作ってんの?」
"藍猿"と聞いた瞬間に、店主は険しい表情を浮かべた
「帝の愛玩を奪った医者から教わるわけないだろ……───これは、薬師如来の沁華様から教わった知識さ。」
帝の愛玩?────
つまり……それは"そういう"意味なのか。
人間に対して性的な興味……は、個人的には無いはずの青龍が?。
…然し、青龍ではない……───薬師如来の沁華に与えられた知識で作られたとすると……
「ははーん……───つ・ま・り…"アレ"を去勢させるような効能があるってワケだ。」
「な……何故それを────」
「へぇ、カマかけたつもりだけど…」
まじかよ…────と、内心思いつつ黄龍は、店主に"ある事"を聞いた。
「…あんたらの"お山の大将"──…沁華はさ~……、ある特定の病を流行らせる薬とか作れたりすんの?。」
「はっ………沁華様に不可能な事はない。数年前…沁華様は、病を患った他国の妃に「患った病」を伝染させる薬を作って慰めたのだ…。"これを、流行病のように見せかけるのです…"…と」
その話を聞いた瞬間──身体がカッと熱くなった。店主の胸ぐらを掴み、殴りかかろうとしたが、誰かに腕を掴まれ阻止された。
「───おっちゃん、ごめんなさいね~。ウチの嫁さん気性が荒いもんで…」
「黒…龍!!───」
「!な…なんなんだお前ら…!!───おい、誰か!!如来の華組を呼んできてくれ!!怪しい奴らがいるぞ!!」
店主が声を張り上げるのと同時に、黒龍は黄龍の腕を引っ張って走り出した。
「ちょ…ちょっと黒龍!!…離して…離せよ!!!」
「だってぇ~、黄龍今、めっちゃ興奮してんじゃん」
「…なんで男の姿に戻ってんのよ……馬鹿じゃないの」
「オレがいうのもなんだけど、人間を殴るのはいけないよ」
「ほんと…その通り過ぎて腹が立つから、アンタを殴って良いかしら?」
「ええ~っ!?それは困るっ!!」
「…ねぇ、聞きたいことがあるんだけど───アンタは…誰を庇ってるの?。呂鄒を殺したのは……」
柘榴に薬を与えたのは……
「───こんな所に五龍が堂々と彷徨いているとは……」
シャラン───と、無数の錫杖の音が一斉に響く。
笠を被り法衣を身に纏った尼の集団に囲まれたのだ。
「でもこれで…、全員揃いましたわ…。先程別の組の者が、白い龍と美豚を捕獲したと…」
「…アンタ達…、白龍と神美を───」
「ふふふ……、御安心ください黄龍…。"まだ"何もしていませんわ……───赤い龍と青い龍も…沁華様の寺院でお待ちしております。」
「赤龍とチーちゃんが…捕まるなんて───中々やるみたいだね…キミ達。」
「…貴方様が、虚空様ですね────その残った紫色の瞳……───嗚呼…間違いありませんわ……」
「…虚空───なんて、何年ぶりかねぇ~……───その名で呼ぶのは…心華だけだったのに」
「やれ」───と、一人の尼が号令をかける。
然し、尼達はその場で佇んでいた。表情は険しく、身体を動かそうと必死であった。そう───何故か、身体が縛られたように動かないのだ。
その姿に、黄龍は嘲笑う。
"痺れる鱗粉は如何かしら?───"
と、黄龍が意地悪い笑みを浮かべながら問うと、何処からか黄色い蝶が現れ、尼達を囲んだ。
「な……何なんだ!?この蝶は…!…」
「か、身体が…痺れ…」
「アタシの雷蝶は、触れたら感電死するわよ────動いたら、お陀仏ってワケ……。───さっさと寺院に連れて行きな───そこに、沁華……居るんでしょ?」
ひぃ…!と、情けない声を漏らす尼達
「尼ちゃん達が可哀想じゃないか!」
「んな事言ってる場合か!!」
尼達を脅迫し、黄龍と黒龍は、山藍にある寺院へと向かう事となった。
。
。
「…久しぶりだな───藍猿…」
「…珖春……」
沁華に連れられ、寺院へと足を運んだ青龍。案内されるがまま、辿り着いた部屋には、かつては師弟関係であり…「友人」と、思うような関係でもあった……───自身を裏切った人間が立っていた。
"五体満足"の身体をして……




