第六十三章「真実」
「せんせーーーーーーッ!!!何処にいるのーーーーーーッ!!!?」
「えぇ…?せんせーはワシじゃが?」
「ワシもせんせーじゃが?」
「私もせんせーだけど?」
「僕もせんせーですっ」
と、都で医者をしている民に囲まれた神美。あたふたとしていると白月の姿をした白龍に助けられた。
「ごめんなさい…、この娘は「せんせー」が口癖なのです…。あまりお気になさらず……」
「な……なんて美しさ……───はあ…ワシの"アレ"が切り落とされてなければ……」
白龍の美しい容姿に、老いぼれた医者の一人がぽつりと零した。
「ちょっと、街中でそんな事言うもんじゃないよ……。沁華様や如来の華組の耳にでも入ったりしたら……───殺されちまうよ」
おっと…と───口を噤んだ老いぼれの医者は、そそくさと去っていった。
「──沁華……と言う人物は、どういった人物なのですか?」
「あんたら沁華様を知らないのかい?。もしかして、最近この国に移住してきたとか?」
「そ、そんな感じです~」
白龍が問うと、囲んでいた医者の一人の中年女性は少し怯えた様子で話し出す。
「国の平和を願う、尼の薬師さ…。この国や他国に、薬や医療の知識を広めた太医が、国から追い出されちまったんだよ…。今はその代わりで沁華様が薬や医療の知識を広めているのさ」
「え、先生が追い出された!?…」
「なんだいあんたら…"青龍の君"を知ってるのかい?───あの方は…帝や高貴な血を引く一族関係無く、あたしらのよう庶民にも手を差し伸べて下さるような御方だった…。───正直、あの尼はいけ好かない……」
「どうして…先生は追い出されたんですか?」
「帝から愛玩を奪った……───宮中の人間はそう言っているらしいけど……、真実は……───自分が手塩にかけて育てた医官が……目の届かない所で慰み者にされてたんだ」
「え……」
「青龍の君が育てていた医官は片腕でねぇ…。それでもかなり優秀で、顔も整っていたから……──帝も放っておけないくらいのね……」
"その事"を知った青龍は、すぐさま帝を問い詰めたが、帝は白を切ったと言う。
医官を連れて、宮廷から逃げ出そうとしたが───その医官に陥れられ、青龍は国から追放された。
そうなるように仕組んだのは…
「沁華様は…、その医官を太医にさせる為に青龍の君を陥れるようにしたらしいけど……。でも…本当は、"秘薬の実験台"にする為に…───その医官は利用されたんだ……」
「まさか…、その医官さんは"生える薬"を飲んだの!?」
中年女性の医者はこくりと頷いた。
「…現に、今はその医官……太医・珖春様は───腕が二本ある。」
あんたら「女」で良かったね……でなきゃ「病」だって騒がれて去勢されちまうんだから…
そう言って、中年女性の医者は去っていった。
「酷い……───酷すぎるよ」
涙が止まらなかった。
胸がいっぱいで張り裂けそうで────
どんな思いで、青龍は───今日までを過ごしてきたのだろうか
「済まない、神美…───少し、お前を危険な目に合わせてしまうかもしれない」
その青い瞳は怒りに満ちていた
でも、安心しろ───必ず、護る……
そう言って、白月は神美を抱き寄せ、白龍の姿へと戻った。
シャランッ─────
「白い龍と美豚……───見つけましたわ」
無数の錫杖は神美と白龍を囲んだ。
「貴様ら、何者だ」
「…我々は、如来の華組────薬師如来である沁華様に仕える尼ですわ」
尼は不気味に笑った




