第六十二章「尼」
「赤蛇!あーそーんーでー!」
「…引っ付くな、ガキ」
学び舎の子供・鈴鈴に何故か好かれている赤龍。
「えぇ~!!、だってきょうはずっと学び舎にいるんでしょ?」
青龍が一人で行動すると言って学び舎を出ていった後────
赤龍とケセラ以外は全員、都の方へと探索に行ってしまったのだ。
青龍を捜しに行くと言う者も居れば、普通に買い物がしたいと呑気な事を言う者も居た。
群れる事を嫌う赤龍は学び舎に残る事にしたのだ。
「ねぇねぇ、赤蛇は大切な人はいる?」
「…んなもんいねーよ。つーか作らねぇ」
「うそ~、しんじらんなーい!!」
「…お前は居るのか?ガキンチョ」
「んもう!鈴鈴だってば!」
鈴鈴は「たくさんいるよ!」と、屈託のない笑顔を赤龍に向けた。
「せんせーと学び舎のみんな!。あとね…赤蛇と、けせらもいれてあげるねっ」
「キュウ~」
「入れんなよ…」
「すなおじゃないなぁ~」
「ほっとけ」
ガキは好きじゃない────
そう思えば思う程、好かれるのが赤龍だ。
「鈴鈴ね、せんせーや学び舎のみんなが大好きなの。…鈴鈴には、お父さんやお母さんがいないから…───みんなが家族なんだっ」
「…家族ねぇ」
家族と聞いて思い出すのは、蛇の一族と…共に過ごした窮奇の事だった。
《赤蛇───オレたちは、親友でもあり家族だからなっ》
《なんだそれ…》
《お前は何処か捻くれてんだよなぁ……ったく、この先苦労するぞ》
《窮奇は素直すぎ───後、信用しすぎ》
《それがオレのいいところだからさ~》
窮奇は、俺の親友で家族だった。
でもそれは……────俺を殺す為の演技だった。
(彼奴が…悪神五凶か…)
妙にしっくり来てしまうのは、もしかしたら気付いていたのかもしれない…。
それに気付かないふりをしていただけで…
「でもよかったぁ…、ゆるしてもらえたんだ」
「?…なんの事だ」
「よく学び舎にくる"坊主のお姉ちゃん"がね言ってたの。せんせーは、この学び舎をナイショでつくっちゃって…───とあるヒミツを知っちゃって、この国から追い出されちゃったんだって……。でも、まい月帰ってくるって…梅琳ねえちゃんがゆってたから…きっと、ゆるしてもらえたんだよね?」
鈴鈴が今にも泣き出してしまいそうな表情を浮かべると、ケセラが慰めるように鈴鈴の頬を舐める
(坊主……───例の薬師如来の事か?)
熟、胡散臭そうな尼だ…───と、心の内で毒を吐くと、室内の戸が乱暴に開いた。
鈴鈴を咄嗟に抱きかかえて身構える赤龍が目にしたのは、錫杖を手にした大勢の尼だった。
先頭に居た紫色の紅をさした尼の一人が不気味な笑みを浮かべ、錫杖を赤龍の股間に目掛けて突き刺そうとしたが───赤龍の片足に錫杖を蹴り飛ばされ、天井に突き刺さってしまった。
「…威勢の良い、はしたない殿方ですこと…。その幼女を此方へお渡しなさい…───然もなくば…」
ドサリ……と、目の前に投げ出された子供───それは琳瞳だった。頬を叩かれたのか少しだけ腫れていた。
「にいちゃん!!」
金切り声を上げる鈴鈴。
琳瞳は震える声で「逃げろ」と言った。
「あらあら…まだその様な口が利けるの?。…童男はこれだから嫌いですわ……」
「お前ら……」
「ウフフフ……、"赤い龍"に伝えましょうか……───我々と共に来て頂きます。この学び舎の人間の命が惜しければ……の話ですが────」
「尼が…こんな事して良いと思ってんのか?」
「勘違いをなさらないでください…。我々は余計な者を排除しているだけです。…全ての女性が傷つかないように……───憎く穢らわしい「男」をこの世から抹消する。それが…───薬師如来・沁華様の願いなのですから」
「薬師如来…───まさか……」
「貴方は一度…お逢いしているのでは?」
尼の言葉で確信した─────
葡華国の悪徳太医を殺した尼が、神美達が捜している薬師如来だということを。
男のアレを斬り落としたがるのはそういう事だったのか…
「…男を抹消して何になるんだ?」
「女性を傷付ける為に存在していた棒は、秘薬に生まれ変わるのです……。現に一人…その秘薬で、元々存在していなかった腕を生やした人間がおります……。」
「それで…この学び舎のガキ共を利用する気だったのか…」
「望んでいる者も……居るのですよ───当たり前の事がどれだけ幸せか……それを不快だと思って、誕生した貴方には…分からないでしょうね」
尼の悲憤の眼差しに赤龍は身体が硬直してしまった。




