第六十章「君は美しい」
翌朝の事だった。
梅琳が部屋を訪ねてきたので、内心神美は焦ったが、わざわざ着替えの服を持ってきてくれたので、どうしても琳瞳の言っていたことが信じられない。
(梅琳ちゃんが…アレを使った薬に頼ろうとするなんて……──どうか勘違いであって欲しい…)
「神美さんの衣、少し汚れてたから洗濯させてもらうね。乾くまで、この衣で申し訳ないけど着ててもらってもいいかな?」
梅琳から手渡された衣服は、漢服という上下で分かれている着物だった。勿論この様な服は来た事がないので、着付けてもらうしかない。
然し、梅琳は足が悪い為、手伝うのは少し厳しいとの事だった。
(制服が乾くまでの辛抱だけど…、流石に下着姿でいるのも抵抗あるよねぇ…)
「後は末っ子…と言っても血は繋がってないけども、鈴鈴しか女の子いないからなぁ…。まだ5歳だし…あの子もまだちゃんと着れなくてね…」
鈴鈴とは、青龍が学び舎で引き取った、最年少の身寄りのない幼い女の子だ。
恥ずかしそうにしては、ずっと琳瞳の後ろに隠れていたが、何故か赤龍に物凄く懐いていた。
赤龍も満更でもない顔をしていたなと…思い出し笑いをする神美。
コンコン───
「失礼致します────」
凛とした鈴の音の様な美しい声が、外から響いた。戸が開けられ、そこには女神のような…美しい黒髪の女性が立っていた。梅琳が小首を傾げる。
「あれ…貴女は」
「お初にお目にかかります…───私は、白月と申します。其方の女性のお召し替えの手伝いに参りました。青龍……様からのお達しで御座いますので…御安心ください。」
「わーー!!助かるーー!!、この服の着方分からなかったから」
「先生のお知り合いの方なら…心配ありませんね。すみません、この通り足が不自由なもので…ご迷惑おかけしますがよろしくお願いいたします。」
「…───大変失礼とは存じますが、貴女の足は…練習を積み重ねれば、徐々に歩けるとお聞きしましたが…」
白月と名乗った美しい女性は、部屋から出ようとした梅琳を呼び止める。
少しだけ、眉間に皺寄せる梅琳
「……前まではそうだったんですけど、"新しい薬"と"治療法"が出来たので…───足が生まれ変わるんです。今の状態じゃ……歩けるようになっても…弟や皆に迷惑をかけてしまうから───」
「……そうですか、大変失礼致しました。」
「いえ……お気になさらず」
木の車椅子を器用に動かしながら、梅琳は部屋を後にした。
(新しい薬と治療法…って、もしかして───)
琳瞳が言っていた…例の"アレ"なのか……。
梅琳の口に……嗚呼…なんて如何わしい!!。なんとしてでも阻止せねばらない。そもそも、そんな怪しげな薬で、足が治るわけがない……
「…ふふ、表情が険しいですよ。神美────」
「……!?な、なんであたしの名前を…」
「貴女の事は…何でも知っています。…でも、唯一分からないのは……貴女の心───」
「っ…」
艶めかしく潤いのある瞳に吸い込まれそうになってしまった。
何故か分からない防衛反応で、咄嗟に下着姿だった事を思い出し、胸元を両手で隠そうとしたが、白月にそれを阻止されてしまい、そのまま寝台にへと押し倒されてしまった。
「何故…隠すの?───」
「…だ…だって!!白月さんが綺麗すぎるし…───細くて……美人だから…。あたし、太ってるから恥ずかしくて……」
「ふくよかな事の何がいけないの?───貴女は…こんなにも美しいのに」
唇を撫でられ、そっとそのまま首筋に伝う────
(…っ…あれ、この…香り────)
神美の身体がこそばゆく悶える中、白月から白檀の香りが微かに拡がる。
(知ってる……この香り───)
「お前は……そのままで良い───健康や……の事もあるが……私は…」
「小龍……なの?」
白月は目を細め「そうだ…」と呟いた。
「…なっ、なんでそんなウルトラ超絶美人お姉様…というよりかは女神様に!?」
「…あまり、この姿は好きじゃない。…この見た目でしか、私を愛さない者も沢山いるからだ。」
「そんな……、小龍はどんな姿でも…小龍だよ。優しくて強い心は変わらない」
「…私はそのまま、お前にその言葉を返す。……姿形に囚われてはいけない。神美、お前は美しい…───人間の弱さや強さで飾らなくとも……───お前の心は誰よりも美しいのだ。」
それを忘れるな────と、美しい女人……龍はそう言った。
目に映るもので判断されてしまう世界だから───仕方がないのかもしれない
でも……
「あたしの中身を見てくれて…ありがとう」
だからあたしは好きになったんだ
貴方に……こんなにも強く惹かれてしまうんだ
「…後、私が青龍の妻役をやる。だから……」
「えっっ、でも……大騒ぎになるんじゃ……(色んな意味で)」
白龍は有無を言わせずだった。然し…神美の心は何故か喜びで満ちている。




