第五十四章「杏寿」
九尾の狐の花千楽が仲間に加わり、ケセラは本来の姿に戻ると、空を飛ぶ事ができるハイスペックな狐である事が発覚し、行動範囲が一気に拡がったのだ。
流石にあのまま歩いて旅を続けていたら、"また襲われて面倒臭い"と結論に至り、目的地に近い所は絶対歩くという条件付きで、ケセラに乗って移動する事が許された。
「のどかな村ぁ~」
とある、長閑な村に到着した。
宿を手配、村を散策、一服…等々と五龍と神美は自由行動を楽しんでいた───
「そこの旅のひとぉ~!、あなたに必要な情報あげるからちょっと付き合ってよぉ~」
幼く───少しませた子供のような喋り方をする同い歳くらいの少女に神美は声をかけられた。
少女はニコニコと愛嬌のある笑顔に、お団子頭のツインテールがとても可愛らしかった。
「あなた、ふしぎなかっこーしてるね!。…何処かのおひめさま?」
「全然お姫様なんかじゃないよーーー!!、これは制服って言って~……って、なんて説明したらいいんだろ…」
「せーふく?、それって美味しい食べ物とか!?」
「あははっ、食べ物じゃないよっ。…あなた、名前は?」
「アタシは杏寿!。この村の情報屋の娘だよっ」
「あたし、四ノ宮 神美!────…痩せる為に旅してる系JKっ(その他色々あるけど…)」
「自分磨きの旅ってことぉ!?──すごーい!!」
「まあ、間違ってないか…なぁ?」
「でも~、今の神美もすっごい可愛いよ?。」
「ア…杏寿~~~っなんて良い子なのっっっっ!!!」
「だって、本当のことだもん。…じゃあ、綺麗になろうとしてる神美に、いい情報をあげるね!。此処からずっと東に行くと山藍国って国があるんだけど、そこにはね…"痩せる薬"があるの」
「痩せる薬っ!?」
「そ!、"薬師如来"って呼ばれてる尼さんが作ってる秘薬なんだってぇ~。その尼さんは色んな薬を作ってる凄い人なんだよっ。数年前に"伝染病"が流行ったんだけど、その尼さんが作った薬で終息したんだよね~」
「伝染病…───(柘榴ちゃん達がなった病気と似たものかな…。その尼さんの薬があったら……)」
「あとね、最近山藍国や───他の国もらしいけど、人の姿をした妖怪が現れるらしいの。」
「よ、妖怪!?…それって─────」
「でも、その妖怪はね────人を利用する……偽善者ぶった人間しか殺さないんだって……。───自分の罪なのに、人になすりつけるような人間しか……」
杏寿の瞳が一瞬曇った。幼い少女は一瞬──年増の女性に見えた。
「だから、もし他国にいく時は気をつけてねっ」
「う、うん!」
「……、アタシ、そろそろもどらなきゃ!お父様にしかられちゃう!」
「杏寿、ありがとう!。色々と教えてくれて」
「えへへ、神美は大事な"家族"だからっ」
「家族?────」
ブワッと強い風が吹く。
「わわ!?」
身体がよろけてしまい後ろから転びそうになったが、咄嗟に誰かに受け止められた。
「大丈夫か?」
「シャ……小龍!?」
「そろそろ夕餉にしようとなったのだが…黄龍と赤龍が揉めていてな…。お前に仲裁に入って欲しいのだが」
「まったく…あの2人ときたら~。あ、そうだ!小龍あのね、あたしこの村で友達ができたの!」
「友か?、私が此処へ来た時───お前は一人で喋っているように見えたが……誰かが居たのか?」
「なにいってんのよ~!、ほら此処に……───って…あれ、杏寿?」
「杏寿?」
「さっきまで……此処に居たのに。…あ、でも!この村の情報屋の娘って言ってたから…」
「可笑しいな…───情報屋に娘は居なかった筈だが……」
「ええ!?」
「……然し、お前の反応を見る限り───悪い娘ではなさそうだな」
「……うん。凄く…良い子だったよ。」
どうして、こんなに寂しい気持ちになるのだろう。
すると──白龍の手が、神美の頭の上に乗った。
「そんな寂しそうな顔をするな。お前が逢いたいと願い続ければ……きっと、また逢える」
一瞬で神美の心は温まり、白龍の腕に思いっきり抱き着いた。
「ありがとう、小龍」
「……れ、礼には及ばぬ」
少し照れた白龍と共に、とりあえず宿の厨房で揉めているであろう五龍の元へと向かった。




