第五十二章「九尾覚醒」
「それで────どうすんだ?」
「キュッ!ハグハグ…」
与えた餌=虫やら木の実やらを、赤龍の頭の上を皿代わりにしながら、白い九尾(小狐バージョン)は、一生懸命頬張る。
赤龍は冷や汗を垂らしながら少し涙目となっていた。
可哀想と思いつつも、微笑ましいなぁ~と見守る神美は、赤龍に睨まれるのであった。
「その狐、赤龍に懐いてるみたいだし~、一緒に連れてけばぁ?」
「は?」
「では、名を決めねばな」
「おい…」
「そのまま九尾で良いのでは?」
「勝手に決めんな…!」
「どっちでもいいけどさ…───来るよ」
「来るって何が?」
ピクっ……と、耳を動かし、ブワッと毛を逆立て
九尾の狐は頭から飛び下り赤龍の後ろに隠れてしまった。
「お、お前…ッ!!!虫は全部喰ったんだろうな!?」
「キュゥ……ッ」
「へえ────九尾の狐がこんな所に居るなんて珍しいじゃん」
突如現れたその人物は、犬のような耳と、人間の男性の身体付きではあるがハリネズミのような皮膚をしていた。まるで小生意気な少年のような容姿と喋り方をする。
「呪い、解いてくれて謝謝な!。赤蛇────オレのこと…覚えてるよな?」
「!……お前は────窮奇……!?。どうしてお前が……───殺されたはずじゃ……」
「またお前に逢えるとは思ってなかったぜ?。何せ、あのババアに封印されちったからさ~……。お前とそこの五龍とババアを殺す為に、お前を攫ったのも、蛇の一族を利用した事も……全部水の泡だぜ。お前が気付かずに、すんなり殺されてれば……あの雌の蛇も、親代わりの蛇も死なずに済んだのにな!。」
「…利用した…だと?」
「そ!───龍仙女と五龍が蛇の一族を滅ぼす存在って偽りの記憶を与えて、色々と利用させてもらった。まあ、操られた奴は全員妖怪となって取り返しのつかない事になったから、死んだって言っても──ババアが浄化して新しい一族として生まれ変わらせてたのはマジでムカついたな……」
「…じゃあ…、俺の目の前で殺された…親父とお袋は……」
「彼奴らは最後の方に浄化されたからな~……、今頃卵の状態とかなんじゃねーの?───ああームカつく。あ……でも~、あの雌の蛇は本当に死んじまったけどな?。お前を殺そうとした親代わりの蛇を止めようとしてな?────」
「白龍剣!!!」
ブォンッ!!!と、白龍の突風の剣が窮奇を襲ったが、窮奇の針のような皮膚には効かなかった。
「おっと、危ない危ない~!。オレの針、毒があるから気をつけて避けてね?────」
すると、白龍が放った突風に無数の針が加わり、赤龍と神美を除いた五龍達に襲いかかった。
「丁度良かった、妖狐達の相手してやってよ~。アンタら強いからさ~、"毒針"で蝕まれても大丈夫だよね?……」
グルルル……と、口端から涎を垂らした妖狐と呼ばれた狐達が、白龍達に襲いかかった。
「みんな!!……」
「あ、アンタが美豚だろ?。アンタには危害は加えねぇから安心してな?。そこで大人しく見てな…───あ、でも…オレの針には触らない方がイイぜ?」
怪しい笑みを浮かべ、この状況を見物している窮奇に神美は自分に龍仙女の力がまともに使えたらと……己の無力さに腹が立った。
赤龍がどんな思いで、今まで生きていたのかも……
グッと拳を握りしめ、神美は赤龍と九尾を抱き締めた。
「赤龍…!!あたしや皆が居るから…ッ!!もう悲しい思いしなくて大丈夫だから……──ごめんね…気付いてあげれなくて───」
「ッ……仙女…」
「あ〜、美豚にそうされちゃうと殺せなくなるじゃん~。蚩尤様はアンタを無傷で連れて来いって言ってんだか─────」
ジャラララッ!!!!──────
「蛇殺─────」
鎖鎌の鎖の部分が、蛇のように窮奇の身体に絡み付き、締め上げた。
「仙女───お前の言葉が俺を裏切る事があるなら、俺は迷わずアンタを殺す。」
赤龍は「裏切るまでは、護ってやっても良い」とほんの少しの柔らかい笑みを浮かべた。
すると、神美の龍の髭が反応し、透明な細長い無数の糸が神美を包み、美しい羽衣を纏った龍仙女の姿へと変身した。
確信する───今なら力が使えると────
「汝、神秘の羽衣よ!!、悪しき妖魔から龍を守りたまえ!!神秘衣!!」
羽衣が鎖で捕らえられた窮奇を包み込む
「邪心よ燃えろ!火!!」
希望の炎が羽衣と窮奇を燃やす。
「ミャ……────」
その炎を見た九尾は身体を巨大化させ、五龍を助ける為に妖狐達に襲いかかった。




