第五十章「その名は窮奇」
「遅い!!…いくらなんでも遅すぎるよ!!」
赤龍が薪を拾いに行ってから、かれこれ一時間くらいは経過しているとみた。
「ぶら下がってきた螅でも見て気絶してんじゃない?もぐもぐ…」
「あー、腹減ったよお~……───なぁ、黄龍~…その木の実一個だけ分けてくれたりぃ~…───」
「する訳ないだろ」
「…チ、青龍…丸太は片手で割れるものなのか?」
「割れますよ。その辺に生えてる木を使って、真似事にはなりますが寝台を作ろうかと────」
(な…なんなの?────この自由な人(龍)達)
赤龍の事が心配ではないのか……。
各々、採ってきた木の実を先に食べたり……、子供のようにまだかまだかとご飯を催促したり……、丸太が片手で割れると信じ込んで騙されていたり……、その計り知れない訳の分からない握力でその辺の木を素手で切り落としては寝台を作ろうとしていた。
「もう!!…あたし、捜しに行って────」
「ガウッ────」
「ん?"ガウッ"?……」
神美は恐る恐ると振り返る。尻尾の先は炎の様に赤く、神秘的な雰囲気と何処か優しさと幼さを持った狼────いや、狐………
「……へ!?…で、でっかい狐?!?!」
「キュゥ?───」
小首を傾げ"きゅーん…"と鳴き、神美に擦り寄る。
「わあ~……あなた、ふわふわのモフモフだねぇ……って……───赤龍!?……と、薪?。……あなたが運んできてくれたの!?、ってゆーか何があったの!?」
「キュゥ……、ミャウ……!」
狐は、疲れた……と言いたげな表情を浮かべ、巨大な狐の姿から小狐の姿に変化すると、ぱたりと倒れてしまう。
「ああ!!き、狐ちゃん!?……はわわわ!?赤龍もぐったりしてるしどうしようーーーっ!?」
「落ち着いて下さい。赤龍は気を失っているだけです…もう時期目を覚ますでしょう。…問題は、この狐……───いや、九尾が何故この様な森に……」
「キュゥ……────」
「あ……この子、寝てる……」
「九尾の狐なんて珍しいねぇ~。でも…この子は結構な年を生きている筈なのに、ずっと子供のままだね」
「子供?……」
「ど、どうでもいいけど……なんで九尾が赤龍を背負ってこんな森に居るんだよ…!」
「前から気になってたけど……黄龍って、動物全般苦手なの?」
「そっ……!!!そんな訳ないじゃん!!!」
(図星なんだ……)
「では、私の蒼猿を今呼び出しましょうか?」
「んな事したら……あんたとは絶交だからッ!!!」
「しっ……、九尾が起きてしまうだろ?。…この九尾は力を吸い取られているのか…大分弱っているな…」
白龍がそっと九尾を抱き上げると、九尾がほんのり白い微光を放つ。
「私の力を少しばかり、お前に与えよう。」
。
。
。
森の奥深くを、赤龍に仕留められかけた妖狐達が息を切らしながら歩いていた。
《クソ……あの赤龍め……!!》
《今度会ったら返り討ちにしてくれるわ!》
《然し……、九尾が何故あの赤龍に攻撃しなかったのか……》
《ワタシ達の言う事は絶対だったのに……!クソッ!!。これじゃあ天狐になれないではないか!!》
「へぇ~、アンタら…赤龍に会ったんだ?」
《な……何やつ!?》
「オレ、今すっげぇ気分良いんだよねぇ~。だから、アンタらの願い……叶えてやっても良いぜ?」
《ワタシ達の願いを叶える……だと?────》
「そう───…美豚を殺さずに連れて来たらの話だけどな……」
月明かりに照らされたその人物は、妖狐達を恐れさせた。
鎌鼬のような二本の角────針鼠のような肌──
それは……惡神五凶の一人……窮奇。




