第五章「小龍と龍仙女と母」
「本格中華料理だあああ!!」
「ふふふ、たんとお食べなさい」
柘榴が器に料理を装い、神美の前に差し出した。
「いっただきまーすっ!!!」
己の腹の虫で小さな騒動を起こした神美は宮殿から宮廷に移動をし、皇帝陛下だけが使用を可能とされている一室で、本格中華料理の 饗応を受けることになった。
「もおモグモグお腹モグモグ空いてモグモグ仕方がなくtモグモグ…っそれに、あたし今日誕生日だったんだけど……──色々あって……ご馳走食べ損ねてたんです!」
「……自分の世界で誕生した日……か」
「ところで貴方って……、間違えてたら凄い申し訳ないんですけど……もしかして──小龍?」
「……」
「ぶ、無礼な……!」
「陛下を「くん」付けで呼ぶなんぞ万死に値する行為!!」
「よい───私が許可する。それに…この者は龍仙女の子孫であるぞ」
「くん?へいか?」
「ふふ、貴方……中々の強者ねっ」
「へ?」
「神美よ、先程の僵尸から救ったのは私だ───そなたの祖母…龍仙女と共に居た白龍……」
「それじゃあやっぱり……、貴方があの時おばあちゃんと助けてくれた────」
小龍はこくりと頷いた。
「我が名は白龍帝。この白梨国の第五代皇帝。───そして、伝説上の生き物…五龍の内の一匹、白龍でもある。」
「こ………皇帝陛下ぁぁぁぁ!?」
「だからさっきからそう言ってたでしょ?」
「だだだだだだだだだだだだって!!」
「気にせずとも良いぞ。……それに、龍仙女はそなたに《《指輪》》を託したようだな……」
「え……」
白龍の視線を辿ると、神美の左手の薬指には透明で美しい指輪が嵌められていた。
「これ…、あたしがキョンシーに襲われそうになった時……おばあちゃんがこの指輪を投げて……───そしたら……気付いたら、この世界に来てたの。…ねぇ、小龍はおばあちゃんとどういう関係なの?。それに……龍仙女って何?」
「龍仙女は5匹の伝説上の龍・五龍を従える、世界を平和に誘う仙女だ。…そなたと逢った時の姿は、本来の私だ。」
「じゃ……じゃあ……今の皇帝様は……」
「無論、仮の姿である。…私と…龍仙女は美豚と呼ばれる、ふくよかな美しい人間の乙女を捜していた。何千年の時をかけてな……───」
美豚とは、我々の国で言い伝えられている、人の欲望と一つの願望を叶える食材だ────食した者は、永遠の平和を───永遠の美貌を──永遠の生命を──永遠の権力を…………
人間が臨んだ物を全て手に入れられると
ある村では「幸福」の食材として称され、然し、その村の一部では「不幸」の呪いの食材として称され、その村の娘達は、肥える事を許されなかった。
幸福と称した村人達の娘が皆肥えていき……
最後は村人同士で命を奪い、奪われ、その場で食い殺されるという……────惨たらしいものだった
そんな事をしても無意味だと言うのに………
「私と龍仙女は、肥えた娘達そうでない娘達を解放しようと村に訪れた時は……全員惨殺されていた」
「そ……そんな!!!」
私達はその美豚を食した者の血の香りを辿って、何千年の時をかけて
そして漸く辿り着いた先は
「お前の元だった……」
お前を誕生させた生みの親は、身なりが派手な娘だった。相手の男は、自分が身篭ったと話すと、逃げたと───泣きながら話していた。
しかし、その娘はお前を愛おしそうに見つめ
『神美………神美とかどうかな?』
『私には良く分からぬ』
『んもぉ~、まじ小龍冷てぇ~~。まだリン子っちの方が優しいっつーの』
『その『リン子っち』って、なんじゃ?。なんか急に下品になったぜよ』
『ひどいぃぃ~~!!、ねぇ、神美~この人らひどいよねぇ?』
その話を聞いた時、大粒の涙が零れた───
そう、あたしの
本当の───────────
「母の顔をして、そなたに名を付けていた」
病室で小龍とおばあちゃんは、あたしと……本当のあたしのお母さんを護ってくれていた。毎日……毎日──────
「しかし…誕生したばかりの美豚の存在に気付いた者達が、お前達を襲った───」
私達は一瞬の不意をつかれてしまったんだ……
『お願い!!!神美だけは連れて行かないで!!!。この子は呪いとか関係ない、普通の女の子なんだ!!!美豚はアタシの代でもう終わりなんだよ!!。』
手に抱かれた赤子の泣き声が響き渡る。しかし、僵尸達は一斉に襲いかかった。
『っ……神美……まじ、こんなママで…ごめんね……、でも……それでも……ママは神美の事─────』
ザシュッッッッッッ!!!!!────
『愛してるか───……ら』
宙に投げ出された神美を龍仙女が受け止めたが……
しかし…………
「やめてーーーーッ!!!!!!!!!!」
「!……」
「嫌だ………嫌だよ!!!そこから先は聞きたくないッ!!信じないッ!!!こんなの悪い夢だよ!!信じないッ!!!」
バンッ!!!!と、扉を開けて、神美は駆け出してしまった。
「む、娘が脱走したぞ!?」
「早く捕まえろ!!」
慌てふためく家臣や武官達の騒ぎを、白龍は手で制した
「私が捜す」
その青い瞳から悔恨の念を感じ取るくらい、周囲の者達を鎮静させた。