第四十七章「九尾伝説」
潤朱が女帝になってから数日────
白虎宮の白蘭は人が変わったかのように、しおらしく大人しくなったという。
表向きは白龍帝のままではあるが、内向きは潤朱────
然しそれは、父の仇が成功しなければ成立しないことであり……
頭を悩ませていたのは黄龍だけでなく、己の意気地の無さで招いてしまった白龍もだ。
後宮という────国中の美女を集めた帝の子を産む為に集められた美しい鳥達────。
自ら帝の子を産む事を承知する者も居れば、そうでない者もいる。
自由がない───決められた人生を貫かねばならないのだから
「ねぇ、赤龍」
「……あ?」
「あのおじいちゃんに、旅に出る事言わなくて大丈夫なの?」
おじいちゃんというのは、八罫の事だ。
忘れちゃいけないのが、ああ見えても国一番の盗賊集団・ 赤楝蛇の一味の 頭である事だ。
「……んなの、一々言ってたらキリねぇよ。俺が居なくなることなんて……、あの爺さんは最初から分かってたことだ」
(おばあちゃんがあたしを優先してしまったから……、龍は自由を更に奪われて生きてきた……。それに加えて、あたしは呪いの食材で……痩せなければまた同じ呪いが繰り返される。その上… 龍仙女って重大なポジションとか……───逆に荷が重すぎるよ……おばあちゃん───)
だからと言って後に引けないし、逃げてはいけない……
(逃げたくない……)
「……お前、いつまでこんな事続けるつもりなんだ?」
「え!?」
「あのババアの代わりに、お前が 龍仙女をやれるのか?───そんな覚悟が…あんのかよ?」
「そ……それは────」
「はーい!そこまで!。チーちゃんと一緒に、封印解いちゃったうっかり者の赤龍くんっ。そんな怖い顔して女の子に迫らないのっ───めっ!」
「…ッ!!引っ付くな!!気持ち悪ぃ!!怒」
黒龍が助け舟を出してくれたが、言われて当然の事ではある。
(……急に自信を無くしてしまった───)
「さて……これからの事だが……、五凶の残りの四凶と……蚩尤をどうやって見つけて封印するか……───」
「手掛かり……と言うかは、誘き寄せる事は出来るのでは?」
「誘き寄せる…?」
「奴等は彼女が狙いです。あの魔鏡に封印されていた五凶の饕餮は、神美さんと……───何故か白龍も狙われていましたね…」
白龍は身体を震わせ青ざめる。
別の意味で狙われていたのだろうと……その場に居た者は全員察した。
青龍は、少々手荒ではあるが隙がある様に見せて行動をしていれば、向こうから姿を現すのでは?と……誘き寄せ作戦を提案した。
「然し、神美が危険な目に合う確率が高くなるのは避けたい……」
「…その時は、生命をかけて護りますよ。…それとも───貴方が餌となりますか?白龍……」
「先生……、封印解いたクセに何言ってんの?」
毒針を刺すように神美が言うと、表情に変化は無いが、冷や汗を少し垂らす青龍
「……───なんて、冗談ですよ。西方の白梨にたまたまあった魔鏡の中に封印されていたとすれば……、各国の何処かに同じ魔鏡か……それともまた別の物に封印されている可能性がある。…確実とは言えませんがね」
「それでも、その可能性に賭けるしかないか……」
こうして────神美達は惡神五凶を見つけ封印すべく、あてもない過酷な旅に出たのだった。
そして、神美にとっては此処からが本番の痩身の始まりと、龍仙女としての修行の始まり……────
(心が一つじゃ……足りないくらい折れそう)
「神美、私が傍に居る───安心しろ」
「あ、ありがとう…」
何気ない白龍の優しさに、不安がいつの間にか消えていた。
。
。
。
《龍の気配がする……》
《後……人間……いや、その他に特殊な血が混じった者が…………これは────龍仙女!?》
《忌々しい龍仙女め……!!》
《丁度腹を空かせていたところだ……この恨みを晴らすべく……忌まわしき仙女を食そうではないか》
《ククク……、"天狐"となる前に……良い思い出ができそうじゃ》
《"彼奴"が、我等の分まで……"九尾"を全うするんだ……。どんな罪を犯しても……ククク》
白梨から少し離れた森に、九尾が住むと昔から噂されていた。
何百年も前から生息している九尾は、人間を喰い殺して、寿命を伸ばしていたのだ。
然し、それを見兼ねた龍仙女に、天狐になれず、永遠に999歳のまま九尾でいる呪いをかけられた。
《龍仙女…………貴様を始末する》
呪いをかけられた九尾の中に……
「ミャウ……」
穢れない九尾が混じっていた