第四十六章「決意の門出」
「餅のようだな……お前の頬は」
「…………え」
神美の両頬を掴んで、むにむにと触る白龍は、一頻り堪能したら再び眠ってしまった。この男は…
「な……んなのーーーーーッ!?」
「なにが~?」
「いやだから……人のほっぺ触るだけ触って寝ちゃうとか……って…ぎゃああ──んぐ!?」
真横にいつの間にか、その男は並んでスヤスヤと眠る白龍を眺めていたのだ。
神美は悲鳴を上げようとしたが、口を塞がれる。
「しーーっ!!起きちゃうって!!」
「ふぇ……ふぇいふぉん!?(ヘ、黒龍!?)」
「ちゃんと話せたかい?」
「…白龍って、八方美人というか……天然人垂らし!?」
「あはは!今更気付いたのかい?。…自分の事は二の次の奴でさぁ~、欲が無いと言うか……どうやったらこんなに慈愛深くなれるんだろうかね……」
「黒龍は……その──…人が嫌いなの?」
「うーん…キミの事は、結構好きだよ?」
「ちょっと、茶化さないでよ…」
「茶化してないさ───キミは、素直で真っ直ぐで…穢れない心を持った人間。」
「う……そんなストレートに言われちゃうと…」
「自分が何故、龍に生まれてしまったのか──…善悪関係なく、オレ達はこの世界の人間を護らなくちゃいけない。例えそれが罪人だったとしても…───…神美ちんはさ、どうしようもなく嫌いな相手とかはいるの?」
「そんなのいっぱいいるよ!!!。今でも、あたしの体型のことを馬鹿にしたやつらとか、お母さんとおばあちゃんを酷い目に合わせて…柘榴ちゃんを騙した僵尸とか…、あたしは絶対に許さないと思う。でも、憎んでたらさ、もっと傷つくし…ムカつくだけだし。だからこそ、忘れない為にも相手を想うの…。想って、想って…いつか自分のした過ちに気付いてもらうために…」
神美は「それでも人間だからさ…骨折しろ…とか思っちゃったりしてっ」と笑った。
「あたしね、最初に黒龍と出会った時に、人間に対しての殺気を感じたの…────でもね、それと同じくらいの希望を感じたよ。だからさ…あたしは、あたしが感じた黒龍を信じるよ。貴方は人間を殺したりしないって……。なんだかんだで助けてくれそうだしっ」
「……キミには───熟驚かされるねぇ。いやー参った参った!!、神美ちんさ、オレの嫁さんとかに────」
「なりませんっ!!」
「え~、つれないなぁ…。でも、今のオレの主はキミだからさ、護らせてくれよ?龍仙女──」
その名を改めて聞くと、自分は龍仙女として器のある者なのか……なる資格があるのか……。
(あたし…普通の高校生なのになあ…。)
此処に来てから考える暇もなかったけど、あたしは痩せて呪いを解かなきゃいけないのに……
龍仙女までちゃんとやれるの?。それに……元の世界は…今どうなってるんだろう…───
(あたしは……元の世界に戻りたい?───それとも、この世界で…皆と?───)
「あーーー!駄目だ!!モヤモヤするから考えるのやめる!!」
「うお…!、急にどうした?」
「なんでもないよっ。てゆーか!惡神五凶の封印解けちゃったんでしょ!?。それってかなりヤバくない!?」
「───ヤバいに決まってんだろ」
険しい表情で、これもまた唐突に気配もなく現れたのは黄龍だ。
龍という生き物は、どうしてこうも気配がないのだろうか……。
「陛下!…───じゃない……、白龍!!起きてください!!」
普段陛下呼びの黄龍が、態々白龍と呼び直した理由────
それは、一旦──帝を退位する事になったからだ。
本来であればこのまま退位し、龍仙女と共に世界を護るのが役目であるのだから。
然し───予想外の惡神五凶の封印が解かれた事と、神美の痩身の事など、問題は山積みである。
(悩んでる暇なんてないよね…!。それに…あっちに帰っても……もうあたしには家族が居ないから───)
今は、五龍達の傍にいたいと
そう思う神美だった。




