第四十五章「後宮戦争9」
「翠麟様──私も、この国の事はとても大切に思っております。此処近年の作物等の高騰化…、働き口もまともに見つからずに路頭に迷う民もいるとか……」
「良く、ご存知なのですね……」
一度後宮に入った者は、よっぽどの事が無い限り出られないのが現実。
潤朱は何処から外部の情報を手に入れているのか……
「だから、もし……約束をして頂けるのでしたら───女帝となる話を承諾致しましょう」
約束とは…?と、冷や汗を一滴垂らしながら黄龍は苦々しい表情を浮かべる。
「黒龍を始末する事を、貴方に命じます。」
無理難題過ぎると叫びたかったが、正体を隠している自分には言えない事だ。
黒龍は自分の……使命を通した同僚と言えば良いのか。
でも、彼奴ならやりかねない。
そして…本当に人間を殺めてしまった時は───
「…では、真実を確かめる間で構いませんので…代役といった形でお願いいたします。」
「……ふふ、あはははは……。───貴方にとって黒龍は大切な存在のようですね」
「冗談を!!……大切なんてとんでもない!!───あんなちゃらんぽらんな奴!!───」
「ちゃらんぽらん……?」
「…………な、なんでも御座いません。潤朱様───龍は…非常に慈悲深い生き物です。……私は……孤独な時に───常に気にかけ、支えてくれていた龍を知っています。」
「…その龍なら、私も知っています───」
「!……」
「でも……───その方は、遠い所へ行ってしまわれるのでしょう…」
寂しそうに微笑む妃は、白梨国初の女帝となった────
とは言っても一時的なもの。黒龍が無実だと言う証拠さえあれば色々と解決はする。
だが、どうやってそれを見つけるかだ……
「そう言えばさ……、なんで彼奴は片目怪我してんの?」
黒龍が部屋を後にした後、ふとした疑問が浮かぶ。
龍の時代の時は、目に傷などはなかったからだ。単に洒落ているからという理由でだとしたら、似合わないから辞めておけ…とでも言えば良いのか。
悶々としていると、今まで黙っていた赤龍が口を開いた
「……尼」
「あま?……女の僧侶?」
「……爺さん───八罫が、黒龍に老人の姿にされたのは、色情書を……盗もうとしたのと…──罪を擦り付けられるのを防ぐ為だ」
罪を擦り付けられるのを防ぐ?
「然し、あんのジジイろくでもない奴……」
「本当にそのまんまの方ですね」
「後、もう一つは…尼を襲うとした、葡華の悪徳大医から庇った時に……あの傷は出来た。」
葡華国の大医は皇帝の妃…女官や妓女を喰い尽くすと……とんでもない変態ジジイだったらしい。然し、皇帝に仕える医師となればそんな事がバレてしまえば処刑されるであろう。
(変態爺さんは、尼を襲った人物として吊し上げる予定だったという事か……──でも、黒龍はそれを防ぐ為に──)
葡華国の大医──……それは、潤朱の父親────
あの高貴で芯のある娘に、その様な卑劣な血が入っていると思うと……不憫でならない。
「そのクソ悪徳大医を殺したのは…尼だ」
その現場を見た者は、正当防衛と言うだろう。
でも、その現場を見ていない者からしたら、僧侶が国の大医を殺したと……───その尼を責め立てるだろう。目に見えない真実を、中々人に信じて貰うのは難しいだろう。
被害者からしたら、死んで当然。
娘からしたら……たった一人の父親と思える存在だったのかもしれない。
人間には良くあることではあるらしい。
「で、その尼は今どうしてんのさ?」
「知らねぇよ。でも、黒龍は自分が殺めた事にしたらしい…───馬鹿な奴…。」
お人好しなのか気紛れなのか─────
黒龍は死んだという事にするしか無いのか……。
「なんで次から次へとこう面倒臭いんだよ……。封印も解いちゃうし…解かれるし!!!」
「何にせよ……惡神五凶を封印せねばなりません。神美さんは確実に狙われるでしょうし…───ですが、封印するには龍仙女様の力が必要ではあります。」
涼しい顔して正論を申す青龍に無性に腹が立った黄龍であった。
此処からが、長く険しい旅の始まり────
まだ今は、序章に過ぎない。
「てゆーか、アンタらが扉を開けようとしなければッ!!怒」
「……さて、神美さんと白龍の様子でも見に行きますか」
「……」
「誤魔化すなバカ!!」




