第四十四章「後宮戦争8」
騒動後────慌てた様子で駆け付けた黄龍は本当に一瞬だったが、黒龍を見て困惑した表情を浮かべた。
それは、潤朱から聞いた話が原因となっているからだ。
黒龍は、いつも通りにおちゃらけて笑うだけだった────
。
。
白虎宮の妃専用の部屋には神美と白龍以外の五龍が集まる。
捕らえられた鈴夜と寝台で眠る白蘭も加えて……
「白蘭の記憶が無くなってるって…一体どういう事?。それに……───何故、お前が美豚の事を知っていた?。答えて貰おうか───… 鈴夜。」
「も……申し訳……御座いません…!!…、わ、私が……───い、以前…柘榴様と……誰かは分かりませんが…美豚の事を…仰っていたのを聞いてしまって……───」
「もう一人……知っている人物がこの後宮内に居るって事?」
「その話を聞いた私は……白蘭様にどうしても正妃になって欲しくて……───」
「神美さんに協力するフリをした……という訳ですか」
「わ……私は…あの惡神五凶と名乗る化け物に脅されて……ッ!!───本当はこんな事したくなんか…ッ───」
「それって、言い訳?───」
「い……言い訳…等では」
「結果的に誰も死なずに済んだけどさ……、キミがやろうとした事は、殺生するのと一緒だったって事。それ、分かってて……美豚に手を出すつもりだったんだろ?」
黒龍は口角を上げながら、鈴夜の顎を持ち上げた。
「……そういう奴らを…オレは沢山見てきた───キミたちみたいな煩悩だらけな人間を……どうして護らなきゃいけないのかが分からないよ。今でも…───」
「ぁ……あッ……───も、申し訳……」
「キミが主の為にやった事は、誰の為にもならない救われない事だよ。…頭で考えて分からなかったのかな?」
「黒龍、もうそれぐらいで良いだろ」
間に割って入ったのは黄龍だった。
「……黄龍は、随分"人間"らしくなってきたね~。龍の時代は…キミは人間を信用せず……生きている事さえ理解しようとはしなかったのに」
「……そんな人間ばかりじゃないって……────分かったんだよ……。少なくとも、あの”馬鹿二人”は……」
「ふ~……なるほどねっ。」
「……お前……、この人間に生まれ変わってから……殺生してないだろうね?」
「…………どっちだと思う?」
「……朱雀宮の潤朱の父親…呂鄒に覚えはある?。……彼女は、アンタに父親を殺されたって言ってたけど」
「……」
「もし……本当に殺生したならば────」
「ご想像にお任せするよ。キミが思った事が真実かもしれないし……───それに…どちらにせよ、あの男は死んで当然だったと思ってる」
冷たい視線と穏やかな口調はその場を凍り付かせた。
「なら、私は貴方を斬らねばならない」
青龍は 呉鉤を黒龍に突き付けた。
「ぷっ……あっははは!───…相変わらず正義感が凄いなぁ~。一応これでもさ、龍だから。殺生はしないよ……」
"全く信用ないよねぇ~"と両手を頭の後ろに組んで、笑いながら部屋を後にした。
「……信用ない方が気が楽か」
回廊にポツリと、僧侶の本音が零れた。
。
。
。
「寝顔はまだまだ幼いなあ……───しかし……まさか、小龍があんなに酒癖悪いなんて……」
寝台で眠る白龍の頭を撫でながら、神美は先程抱き締められた事を思い出していた。
酔っていたとは言え、気になる男子からの抱擁は嫌でもにやけてしまう。
「……本当はね、今日…小龍に行ってほしくなかったんだよ……。……あたし、小龍に感謝してるんだ……。"私じゃ……お前の生きる意味にはならないのか?"って…言ってくれたよね?───あれね、凄く嬉しかった。」
神美の目から涙が零れた。
「こっちに来てから色々あったけど……、いつも小龍が居て、小龍の事考えてた気がする。……あたし、太ってるしさ……美人でもないし……迷惑かもしれないけど…───初めて会った時から…結構気になってて……その……───大好き…だよ!……ッ、だから……本当に…ありがとう。」
「───私も……だ」
撫でていた手は、美しく大きな手に優しく握られ、温かいぬくもりを感じる。
「……お前を愛おしいと思うのは……気の所為ではなかったんだな────……」
「シャオ……ロン」
「……もっと…こちらに来てくれないか?───顔を近くに……」
潤んだ瞳は、切なく、少女の心を射止めた