第四十章「後宮戦争4」
白虎宮にて──────
「四ノ宮 神美です!好きな食べ物は塩から揚げです!よろしくお願いいたします!。」
「…私は、この白虎宮・白蘭様に仕える鈴夜です。」
神美は自身のダイエットに協力すると申し出た侍女の鈴夜と対面したが、なんとも表情が乏しく無愛想であった。
「あの…、どうしてダイエットに協力してくれるんですか?」
「…私も、以前は貴女ぐらいの体型の時がありまして…。なんとかお力添えが出来ればな…と」
「え~!?そんな風には見えないのに……」
鈴夜のスタイルから、とてもじゃないが想像出来なかった。
「いきなり重さを落とすのは流石にお辛いでしょうから…、今日は御馳走を御用意させて頂きます。最後……とは言い過ぎでしょうがね」
力無く笑みを浮かべる鈴夜に違和感を覚える。
───何故か手が震えていたからだ。
今の気候は春くらいであり、そんなに寒くはない。
寧ろ暖かく過ごしやすいが……
(やっぱり痩せてると、これくらいでも寒いのかな?)
既に汗をじんわりと掻き始めている神美は、自分には無縁だなぁ~と、呑気な心情である。
「あ、いたいた~!」
バタバタと此方に向かって走ってくるのは黒髪の美女。鈴夜は怪訝そうな顔をしながら、美女の顔を一瞥する。
「今日から白虎宮に配属された新米の侍女の黒苺でぇっっす!」
(軽ー!!)
「新米…侍女?」
「あれ?聞いてないの?。翠麟の奴、アンタに伝えておくって言ってたのになぁ~」
「…仮にも白虎宮の侍女ならば、その言葉遣いをなんとか出来ませんか?。下品な……」
「え~、ごめんなさーいっ」
舌を出して謝るが、完全に舐め腐っている。
翠麟もどうしてこんな侍女を配属させたのか……───然し、何処かで見たような…──いや、この巫山戯た性格───…神美は覚えがあった。
「…私は翠麟様に、貴女が本当に白虎宮の侍女に配属されたのか聞いて参ります。」
「信用ないなぁ~」
鈴夜が青筋を立てながらその場を後にする。すると──黒苺が神美の顔を覗き込み、ニヤリと悪戯な笑みを浮かべる。
「……黒龍でしょ!!」
と、神美が指をさすと、黒苺は「え~!?分かっちゃったぁ~!?」と心底驚いていた。
「分かるよ~!。その、ふざけた性格!黒龍しかいないもん」
「…凄いなぁ~、神美ちんが初めてだよ~、オレだって…気付いた人間───」
美女の顔をしてなんだか少し嬉しそうにしている。
色々聞くと面倒くさそうなので、今回はスルーをする事にした。
「で、黒龍がどうして白虎宮に?」
「黄龍から護衛で頼まれたんだよ。キミ一人じゃ、危なっかしいってさ笑。…後は、個人的に"感じる"んだよね」
「え?(感じる?……また下ネタ?)」
「…この白虎宮に、あの僵尸を上回る……それ以上の邪悪な気配がね」
「邪悪な気配…?」
「ロンちゃんは過去に、惡神五凶を封印したと…──僵尸が言ってたよね。でも、僵尸は惡神五凶の筈なのに、自由な行動が出来ていたのは何故か…」
「確かに……、もし封印されてたら、あんなに酷い事にはならなかったよね…」
「だとすると、僵尸は後から追加された"捨て駒"だったのかもしれない。…自分達の呪縛を解く為に、甘い罠を仕掛けたんだ───…まあ、結果的には失敗に終わったけどさ。」
「でも、どうして白虎宮から邪悪な気配がするの?。封印はされ続けてる筈なんだよね?」
「…これは憶測に過ぎないけど、女官ちゃんに憑依してた僵尸が、もしもの時に備えていたとしたら……。例えば…そうだねぇ…───悪の心を持った人間と入れ替わる事が出来る"魔鏡"を仕掛けていたとか…ね。」
「入れ替わっちゃったら…どうなるの?」
「人間は分からないけど、…その時は───呪いが解けてしまうだろうね。惡神五凶は、再び自由の身となるだろうな。」
生暖かい風が神美と黒龍の頬を撫でる。
嫌な予感がしてしまうのは……、気の所為だと思いたい。もし……───もし、封印が解けてしまっていたら
「…───大丈夫だよ神美ちん!。そんな不安そうな顔しなくても、オレ達がなんとかするってぇ~笑」
「…もう…、お気楽すぎだよ」
でも、少し…───いや、かなり救われている。
黒龍が宮中に響くくらい大きな声で笑っていると、いつの間にか戻ってきていた鈴夜が、黒龍の頭を拳で殴った。




