第三十九.五章「魔鏡」
「白蘭様……───帝から直接の申し出が……」
「陛下が?…一体どうしたと言うの?」
「白蘭様と面会をしたいとの事です」
「ええ!?本当に!?」
円鏡の鏡を見つめながら、白蘭はうっとりとした表情を浮かべた。
「……白蘭様……その鏡は?───」
鈴夜が恐る恐ると尋ねると、白蘭は「素敵でしょ?───気付いたら部屋にあったのよ~」と、黒い円鏡を見つめる。
鈴夜はその鏡に、白蘭でもなく自分でもない"誰か"が映っているのを見てしまったのだ。
《───助かったでぇ……アンタ達のお陰で"イイオトコ"と美豚が喰えるんやからっ…》
その鏡からは──低く野太く渋い声だが、口調は女性であり、赤紫色の爪紅をした、厳つく非常に男らしい青鼠色の肌をした手が現れ、白蘭の頭部を鷲掴みにする。
その光景に「ひっ……!」と、鈴夜は後退るが、頭部を鷲掴みにした手は、見る見ると靱やかな美しい白い手に変わる────それは、白蘭の手だった。白蘭はと言うと、黒い円鏡に吸い込まれてしまい、自分が仕えている主人と同じ顔をした人物が
「あら…何を脅えてるん?。安心しぃや……アンタの主人の姿やで?…怖い事なんてなーんも、あらへんやろぉ?───でも……誰かにこの事をお喋りしてもうたら……───アンタの主人、喰い殺すで?」
鈴夜の顎をクイッと持ち上げ、白蘭の姿をした"魔物"は不気味な笑みを浮べた。
「あの"仙女"が余計な事してくれたお陰でなぁ……、ウチら惡神五凶封印されてんねん。でも……、まさか…ウチの"魔鏡"が白梨国に繋がってるとは思わへんかったわぁ~♪。丁度いい"器"も見つけたしぃ~、これで……"あの方"の心は…ウチのモノやでぇ!!!」
「ど……どうか……生命だけは……ッ!!」と、命乞いをする鈴夜。
「ウチはなぁ───約束を護ってくれる人間には殺生せぇへんよ?。アンタ…饕餮って心優しい美妖怪知らへんの?」
知らない────と言えば、饕餮は目の前の侍女を喰い殺してしまうだろう。
鈴夜は目に涙を浮べ、魔物に取り憑かれた主人を傍観する事しか出来なかった。
惡神五凶の一体・饕餮─────
何でも喰い殺し、人間の魂を吸い付くす───
これは───白龍と白蘭が面会する前夜に起きた、悲劇の兆候であった…─────