第三十八章「後宮戦争2」
「柘榴様を貫いたあの爪…───恐らく…蚩尤なのでは?」
気分転換に宮廷の庭で、お茶菓子でもと────
青龍が桃饅頭と温かい烏龍茶を用意する。
柘榴を無事に見送ってから三日程経った。本来であれば後宮で罪を犯した者の亡骸は、どんな理由があったとしても後宮外に出る事は許されない。然し、白龍の計らいで遺灰の半分は、若榴の元へと渡ったと耳にした。
安堵した神美は、空を見上げながら桃饅頭をはむはむと頬張った。
蒸し返すような話題だとは思ったが、柘榴が身体を貫かれたのは……───いや、自ら貫かれるように誰かを誘き寄せたのか。
青龍はその正体が、亡き母を蘇らせようとしている蚩尤なのではないか?と、桃饅頭をはむはむしながらそう言った。
「柘榴ちゃんは、わざと蚩尤に気付かれるように…────あたし達を助ける為に……終わらせる為に…。でも、やっぱり謎だらけだよね……、何かしらの関係性があるんだったら、お母さんに聞いとけば良かったなぁ~……」
「母上にお逢いしたのですか?」
「そーなの!。…なんか、あの世とこの世の狭間みたいな空間に居て……めちゃくちゃ可愛くて、ちょーギャルって感じの人だった!。…で、あたしのお父さん、どうやら神様らしいよ」
「……はい?」
「あ、なんの神様か聞いとくの忘れてた…」
「貴女の母上は、かなりのお茶目さんですね」
「あー!先生しんじてないでしょ!!」
「いえいえ、信じてますよ───…その神と蚩尤が、何かしらの関係性があるとしたら……───貴女の母上を争奪していた……とか?」
「さ、三角関係……」
「まあでも、その方が本当の神とは限らないでしょう。それに近い人間だったという意味合いかもしれないし」
「そーだよねぇ……。」
「問題なのは…惡神五凶を含め、蚩尤は、貴女を襲おうとするかもしれないでしょうね……」
「そうだよね……早く痩せなきゃ……───みんなには…迷惑かけてばかりだし、あたしはあたしの力でちゃんと痩せなきゃね」
「…それで、一つ提案なのですが……───」
「ん?」
「…陛下と…交尾をする気はありませんか?」
「は─────」
「……女官長様が亡くなられた後宮は、緒が切れたかのように上流階級の妃達が今直ぐにでも自分を正妃にしろと…宦官に申し出てる状態です。…まあ、その宦官というのは…翠麟元い黄龍ですが…。今までは女官長の圧力で抑えられていた後宮も、今では野生の虎を野放しにしている状態でしょうね…」
「そ、それって……下手すれば小龍と妃候補の誰かが結婚しちゃうってこと!?」
「本来であれば、陛下は後宮の中から正妃を選ばなければならない。それは……何れは自分は五龍の使命を果たさなければならないから…。」
五龍達は龍仙女が不在となったばかりに、人間へと生まれ変わらなければいけなくなった。
一人の赤子……神美の為に───────
「あたし……本当に───」
「貴女が罪悪感に押し潰されている暇はありませんよ。…何も、貴女は悪くは無い────貴女の母上も、龍仙女様も……───私は、この姿も……人間の人生も悪くはないと思ってますので。───なので、陛下と交尾をしませんか?神美さんにとっても陛下にとっても悪い話ではないと思うのですが……」
「いやいや先生……そんな清々しい顔で言わないで!!!後、交尾って言うのやめてーーーーーー!!!」
「まあ、交尾すれば、貴女は呪いも解放され…世継ぎも生まれて全てが平和になるんですがね……」
あははと笑いながら、青龍は、烏龍茶を啜った




