第三十七章「後宮戦争1」
「まさか…柘榴様があの事件の犯人だったなんて……」
「信じられませんわ……───いつも、私達にはお優しく接して…指導して下さってたから……」
「でも、これで安心して過ごせますわ」
「次の女官長️は誰なのかしら」
「女官長って……上手く行けば陛下のお手付きになれるって本当なのかしら?」
「やだ……、じゃあ…柘榴様と陛下は……─────」
あれから一週間が経とうとしていた。
麒麟宮の一室を、神美と黄龍で片付けていた。
柘榴が使用していた、女官長の部屋だ。
本来であれば下っ端の侍女の役目であるが、憑依され、利用されていたとはいえ──罪人の部屋を片付けるのには抵抗があるものだろう。
それでも怖いもの見たさでなのか、柘榴の部屋を覗きに来る不届き者が数名───
ひそひそ……と、真実か否かも分からない噂話に翻弄されている中流の妃やそれに仕える侍女達だった。
「チッ……───ちょっと!見せもんじゃないわよッ!!」
黄龍が食ってかかると、妃達は怯えた様子で逃げてしまった。
鼻息を荒くして「バーーーカッ!!」と、声を荒らげる。その姿は少しませた幼い子供のようで、思わず神美は吹き出してしまった。
「アンタ、何笑ってんのよ!?」
「は!しまった……面白い顔してたからつい……」
「一発殴られたいようね?……」
「うそうそうそ!!ごめんなさい!!」
「……ま、妃や侍女達の気持ちも分からなくはないけどさ……───あいつらは、柘榴の何を見てたのかしらね……。そんな…"真実"だった事や…根も葉もない噂だけで切り替われるくらいだけの存在だったのかしら……。」
"人間って、本当に…弱くて勝手な生き物よ"と、悲しそうに呟いた。
そう思っても……そうなっても仕方がなかったのかもしれない。
柘榴に憎しみを抱く者もいれば、同情する者も居る。
帝を本当に愛して、実の父親に復讐する為に起きてしまった哀しい事件。
だけど、どんなに叱りたくても、どんなに慰めたくても、本人はもうこの世には居ない……。
だからこそ、忘れてはいけないと思う。
「あたしは…これからもずっと……柘榴ちゃんを好きでいるよ……。…友達だから」
「……ふん!───ピーピー生きる意味なーい!とかほざいて泣いてた奴が良く言うよ」
「あーー!!もう忘れてよ!!!」
「でも、そんなアンタは……なんだかんだ強いと思う───…痩の実食べてないって嘘つかれたのはマジで腹立ったけど」
「う……それは本当に……なんて言ったらいいか……───ごめんね……」
「……許してあげない───…"友達"だって言ってた癖に……、平気で死のうとするなんて……許してあげないんだから」
「黄龍……」
そっぽを向かれたので表情は見えなかったが、見なくても分かるのは
心配してくれていたという事だろう。
神美は思わず、背後から黄龍に抱き着いた。
「黄龍……ごめんね───ありがとう…。…これからも、友達でいてくれる!?。あたし、めっちゃ生きるから!!」
抱きしめる腕に更に力を込める。
「……約束してちょうだい────アタシの"友達"になる以上は………どんな事があっても死なない事と……諦めない事。隠し事も無し───好きな人が出来たら報告する事…。…弱音を吐く前に……ちゃんと相談する事」
「……なんか、面倒臭いね」
「はあ!?アンタが最初に友達になりたいって言ってきた癖にぃぃッ!!怒」
ぎゅいぃぃぃ~と、神美の両頬を抓る。
「いふぁい!いふぁいよ!ふぁんふぃー!(痛い!痛いよ!黄杏ー!)」
「────やっぱり……許せないわッッ!!白龍と…………アタシの白龍とキスまでしてくれちゃってッッッッッ!!!───アンタは生かしちゃおけないわッッッ!!!怒」
白龍とキス?─────
神美の頭の中には魚のキスが大量発生していた。
(あたしと……小龍が……キス──口付け──接吻…………キスッッッッッ!?)
ぼふんっ!!─────と、顔を紅潮させ
神美は床に倒れるなり、じたばたと暴れ出した。
「いやーーーー!!!?なんであたしと小龍がーーーーーッッッ!!?」
「成敗してくれるわッ!!」
麒麟宮には神美の叫び声が響き渡る。
中央にある麒麟宮からの叫び声は……四方の周囲にある、青竜宮・白虎宮・朱雀宮・玄武宮にも響いていた。
その四方の一つ────白虎宮に不穏な空気が漂っていた。
。
「……あの醜女が、陛下の正妃候補?───」
上級階級の妃・白蘭が、自身に仕えている侍女にそう問う。
「はい……───本来であれば、女官長の柘榴様と…麒麟宮の上級の妃・黄杏様が、あの正妃候補の醜女を仕立て上げると…」
「何故……黄杏が?。あの方が他人に……ましてや陛下の正妃候補に協力するなんて……」
「…これは噂では御座いますが、あの醜女は…美豚と呼ばれる、望みを叶える伝説の食材と言われているらしいです……。」
「望みを…叶える───それが目的で…あの二人は引き受けたと?────……でも、もしその伝説が本当だとしたら……好都合ではなくて?」
「……まさか、白蘭様……」
「うふふ……、鈴夜──貴女が女官長になるのも…そう遠くない話かもしれなくてよ?────……あの醜女を、白虎宮で引き取りたいと……宦官の翠麟に伝えなさい。」
鈴夜と呼ばれた侍女は、白蘭に頭を垂れ、 拱手をする。
「白龍は、この白蘭と、結ばれる運命なのだから……ふふふ。」