第三十六章「希望」
目を覚ました時、手に温かいぬくもりを感じた。
(生きてたの……?あたし────)
白檀の香り───目を開けるとそこには、美しい顔立ちの青年が今にも泣き出してしまいそうな顔をしていた。
コポポ……と注がれる音は、この世界に来た時ばかりの頃に柘榴が茉莉花茶を淹れてくれた時と同じ。
そう……あの時の茉莉花茶と同じ香りだ。
(夢……?────もしかして…何もかもが悪い夢だったの?。あの世界も……おばあちゃんもお母さんも……皆も……何もかもが夢?)
「……良かった…、目を…覚ましたのだな」
握り締められていた手に、力が入ったのが分かる。
「小…龍」
(ずっと、手を握っていてくれたの?……あたしが目覚めるまで?)
整った顔の目元は赤く腫れており、安堵したのか涙を浮かべていた。
そんなに泣いてしまったら、綺麗な顔が台無しになってしまう…。
そっと、白龍の頬に手を添えると、神美は自身の手を見て驚いた。
「うそ………身体が、元に戻った?」
胸や腹部等を触ると、元のふっくらとした体型に戻っている。
「あたし……"痩の実"を食べたのに……どうして」
失う物はあたしの”生命”だった筈なのに、どうして……あたしは今生きてるの?
何の為に────誰の為にこれから生きていけば良いの?
「神美さん、茉莉花茶飲めますか?」
「…神美!!!お前何考えてんの!?。僕達にウソついて……───危うく死ぬところだったんだからね!?」
「良かったぁ~~~!!神美ちん目覚ましたんだねぇ~!!。経を読まずに済んで良かったよ」
「……」
五龍は心配の言葉を述べる者や述べずとも安堵の表情を浮かべる者…。皆、少女の目覚めを嬉しく思っていたのだ。
然し───神美は身体を震わせ
「どう……し……て────どうしてあたしは生きてるの?───なんであたし生きてるのよ!!!」
「神美……」
「あたしは……───あたしは!!、もう生きる意味が無くなっちゃったんだよ!?。一緒に居た家族がウソだったのも……本当のお母さんも……───誰よりも大好きだったおばあちゃんも居なくなって…ッ!!!なんであたしが生きなきゃいけないのよ…ッ…何の為に……あたしは生かされなきゃいけないの……?」
「───神美……本気で言っているのか?」
「……あたしが美豚とか龍仙女じゃなかったら……こんな事にならなかったんだよ……!──あたしなんか死んじゃえば良かったんだッ!!!」
「馬鹿者がッ!!!!本当にそう思っているのかッ!!!!」
「ッ…!」
白龍の咆哮が室内に響いた。
いつも穏やかで、誰に対しても平等に冷静に接する白龍が────まるで、頬を叩くような…そんな一喝を入れた。
そして、優しく……神美を抱き寄せる。
「ッ……私じゃ……お前の生きる意味にはならないのか?───」
「!……小、龍」
「私は……お前が死んでしまったら……───嫌だ……ッ」
神美は、自分が愚かだと気付く。
それは……白龍の腕の中で、赤子のように一頻り泣いた後の事だった。
五龍に見守られながら、一人の幼い仙女は新たな希望を見つけようとしていた…。