第三十四章「赤い菊の花言葉」
「おーい、起きろ~!」
「!?………あれ……───あたし……」
死んだ────……の?。
辺りを見渡すと、沢山の赤い菊が咲いていた。
「全く……───意外とアタシに似て、結構無茶するっつーの?。こんな所来たらダメっしょ!」
杏子色……あたしと同じ髪の色────派手なメイクとネイルは、その子にとても似合っていた。あたしと同い歳くらいか、少し上な気がする。
「あ……あの……此処って──」
「ねぇ、アンタ名前は?」
「へ!?……あ、あたしは…四ノ宮神美です」
「……そっか───神美か──うん、イイ名前じゃん!ちょー可愛いっ!。アタシは杏奈ってゆーんだ~よろしくっ」
「杏奈……ちゃん」
なんだろう……なんか、懐かしく感じる。
でも、あたしの記憶に、この人は居ないのに
どうして─────
こんなにも……胸が苦しくて、泣きたくなるんだろう
「神美は、今いくつ?」
「えっとね、この間17歳になったばかりなんだ~。…色々あったなぁ~…誕生日。…はあ、ケーキとか唐揚げとかさぁ~……皆で仲良く食べたかった──お祝い…して欲しかったな。」
「………───色々、あったよね」
「……うん───でもね、凄く大切な人達が…いつも、あたしを護って…くれてた気がするの。でも、その人達がどんな顔してたのか……忘れちゃった」
「……大切な人……か───アタシにも…たった一人だけ居たなぁ~……。アタシさ~、年上の彼氏二人いたんだよね~笑。最低だけど、二股してたんよ」
「ええ~!!杏奈ちゃん不潔~!!」
「一人の男は同じ学校の先輩───もう一人は…神様だったんだ」
「へ!?神様ぁぁっ!?」
「ま、そーゆう反応になるよねぇ~笑。アタシ、こんなんじゃん?───勿論さ、"男女の関係"もあったし……───んで……子供が出来たの」
「ど、どっちとの!?」
「最初はさ、先輩の子だと思ってたんだよね……───でも……違った」
「じゃ、じゃあ……か、神様との……」
「凄くね?"1回だけ"だよ?まじ有り得ねぇ~!!って、思って、一人で病室で笑ってぇ~笑」
「ポジティブすぎでしょ!!。てゆーか、なんで神様と人間が!?そんなの有り得るのーーー!?」
「…その人はさ、突然アタシの前に現れて…───神様っぽくない神様だった。人間みたいにちゃんと意思も…欲望も希望も…持ってたからさぁ……、素直で……アタシにはない物をいっぱい持ってる人」
杏奈ちゃんは目を閉じて「大好きだった……誰よりも」と呟いた。
「……そっか……──良いなぁ~…そんな素敵な人と結ばれてさ……(あ、二股だけど……)それで、赤ちゃんはどうなったの?」
「アタシ……、最後まで育ててあげれなくてさ……"友達"に任せたの───…酷い母親っしょ?。……でも、あの子を護れるなら自分の生命なんてくれてやるってさぁ~……そう思って死んだのにさ……───こうして顔見たら…後悔すんじゃん…」
杏奈ちゃんは泣いていた。
それにつられてあたしも泣いてしまった。いや────つられたんじゃない……
「お母……さん?」
「ばかだね…アンタ───無茶しすぎっしょ……」
あたしを産んでくれた、母が目の前にいる。
幼い子供のように、あたしは泣きながら「母」に抱き着いた。
「あ……逢いたかった…よぉ…ッ」
でも、お母さんはあたしを抱き締めようとはしなかった。
「…アンタは……どうして此処に来ちゃったの?」
「…っ……どうして…って」
「アンタにはさ、大切な人はいないん?」
「ッ!!あたしの大切な人はお母さんとおばあちゃんと……────」
あれ……後、あたし─────
《神美ッ!!!!!》
「!!……」
誰かが……呼んでる
「神美、アタシ……──アンタが良い子に育ってくれて……安心した───リン子っちと、小龍には感謝しかねーなぁ~……」
「小……龍」
「神美はさ……、沢山生きて、沢山オシャレして、沢山恋をして、沢山……アンタの大好きな人達を…愛してあげて」
「…ッ!……お母さん……」
「アンタのママになれたのはほんの一瞬だったけどさ……幸せだったよ───…だから、ママの分まで────」
赤い菊の花弁が風で舞う。
お母さんはその花弁に包まれて消えてしまった。
「お母さんッ!!!……嫌だ……行かないでぇーーーッ!!!」
ドクンッ……!
心臓が苦しい
そして何故か……唇に温かみを感じる。
。
「ねぇ、神美……赤い菊の花言葉はね……"あなたを愛しています"……って…知ってた?」
杏奈は泣きながら笑みを浮かべ、最愛の娘の幸せを願いながら消えていった




