第三十章「約束」
目が覚めた後────
皆が居なくなってしまった事に慌てていると、若榴ちゃんが状況を簡潔に説明をしてくれた。
あたしに痩の実を食べさせたくない一心で、青龍先生の力の一つ、幻眠香を使って眠らせたと……
「こうしちゃいられない!!早く行かなきゃ!!」
「此処から戻り方を知っているのですか?」
「……そ、それは……─── 若榴ちゃんの力とかって~……」
「私は時を操れるだけで、移動の術は扱えません。あしからず……」
「ええええええ!?。皆が危ない目にあうかもしれないのにーーー!!どーーーしよーー!??」
「…一つだけ、方法がありますが……───それだと、何の為に白龍様が…仙女様を此処に置いていったか……」
「……それって、痩の実?」
若榴はこくりと頷く
「それと……──貴女様が嵌めているその指輪には、龍仙女様の魂が封印されております……」
「たま…しい?」
「…死───通常の人間ならばそう認識するでしょうが…、龍仙女様は人間の"器"だけが滅ぼされた……───と言えばお分かり頂けますでしょうか?」
「そ、それって…!!……あたしを、庇ったから!?」
「……いえ───最初から、そのつもりだったのでしょう。仙女様を、龍仙女に仕立て上げる為に……」
(じゃあ……おばあちゃんは、その覚悟で……───)
「龍仙女となれば、例え魂でも…貴女様を護れるとお考えだったのだと思います。」
「……っ!!おばあちゃんの馬鹿!!……いつもあたしの事…痩せろとか叱ってた癖に……───自分の事は全然ダメダメじゃん!!」
ぽたり───と、神美の目から涙が零れた。
「あたし……っ……あたしには……、おばあちゃんしかいないのに……!」
「……」
「……お母さんはあたしを庇って…──おばあちゃんも…あたしを護ろうとしたから……!!二人ともあたしのせいで……ッ!……───皆居なくなっちゃったじゃない!!……あたしが…美豚なんかが生まれたから…ッ!!。……護られる価値なんてないよ!!」
「それは、龍仙女様もお母様も……否定なさる事になりますよ。」
「ッ……!!」
「遺された者の事なんて、誰も考えられません。目の前に居る、大切な人物で埋め尽くされるのですから」
「……そんなの…狡いよ」
「では、仙女様が逆の立場でしたら、どうなさっていましたか?」
「……それは……───」
「それに貴女様は、先程…痩の実を食べると仰ってましたね。…貴女様を慕う五龍様の気持ちはどうなるのでしょうか?。」
皆の……気持ち─────
あたしが原因で、おばあちゃんがいなくなったって知ったら……───
それでも皆は、あたしを許して、護ってくれるの?───
あたしが皆の立場だったら?
「……痩の実、ちょうだい」
「……それは───」
「皆があたしの立場だったら……、あたしが皆の立場だったら……──きっと、同じ事考えるよね…───だから、おばあちゃんもお母さんも……助けて、護り抜いてくれたと思うから…!。あたしは繋いでくれた生命を……、皆を助ける為に、今を生きていたい…!」
「……失う部分は、最悪"生命"かもしれません───それでも宜しいですか?……その覚悟……偽りはありませんか?」
「ないよ!」
迷いのない神美の表情を若榴は一瞥し、神美の掌に一つの種を乗せた。その種はみるみる成長し、赤い実が実る。
「これが……痩の実です。」
「ミニトマトみたい…」
そのまま一口で痩の実を食べると、身体が燃えるように熱くなる。
それに反応するかのように、指輪も光り始めた
「熱ッ……!!」
身体が燃えたぎる──────
空気が抜けたようにどんどん軽くなる……
《神美………生きろ……──生き抜いて、幸せになれ……》
おばあちゃんの声がした
身体に力が湧いてくる──────
今だったら、空も飛べてしまいそうな……
「え……」
目を開けると、桃色の羽衣を身に纏い、神秘的で美しい衣装に身を包んだ自分がいた。
身体は健康的に痩せ細り、しかも……
「ボンキュッボン……」
「ぼん…きゅっぼん?」
「てか、これ……あたしーーーー!?」
「……今の仙女様だったら、龍仙女様のお力が使えるはずです。その羽衣は、貴女様が望む場所に運んでくれるでしょう……」
「若榴ちゃん……」
神美は若榴を思い切り抱き締めた。
「ありがとう……。柘榴ちゃんは、絶対に助けるから……───あたしは、柘榴ちゃんを……信じたい。…だって、あんなに優しくて、皆のお姉ちゃんみたいな柘榴ちゃんが、……負けるはずないから。」
「………はい」
その希望が叶わぬものだったとしても……
こんなにも愛されていたのだったら……
(姉様……、若榴は幸せです……)
ずっと、この場所で待っております。
どんな姿でも……
姉様の帰りを




