第二十九章「護る為に」
白梨国の宮廷に一人の仙女が舞い降りた。
杏色の美しく長い髪────桃色の煌めく羽衣に仙女の神秘な美しい衣装。
曲線美な身体付きに誰もが魅了されたであろう。
仙女はお転婆にニッコリと笑ったかと思えば思い出したかの如く忙しなく怒り出す。
僵尸達は怯えていた。
「もおおぉーーーっ!!!怒 あたしを置いていくなんて酷いじゃないのよ!!!」
その言葉は呆気に取られていた五龍にかけられた。
先に我に返ったのは黄龍だ
「ちょ……っと待ちなさい───アンタ……誰?」
「誰って……神美だよっ!?嘘でしょ忘れるとかありえないんですけど!?」
「アタシの知ってる神美は……まん丸で…頬も手もぷっくりしてて……──こんな……こんな痩せてないわよッ!!!」
「あっはっはっは!!その"こんな痩せてない"って響き……たまらない快感っっっ」
「へぇ~痩せても"出る"ところは"出る"んだねぇ」
と、いやらしい手付きで胸の膨らみを表現する黒龍に神美の拳が黒龍の鳩尾に入った。
呻き声を上げながら、ずるずると倒れていく。
「目を覚ました後に、若榴ちゃんから話を聞いて、一時的だけど体重を減らす事が出来るって言われて……───本当に一時的だからアレだけど、今のあたしは美豚に秘められた魔力は完全に失われてる。誰かがあたしを食べても、ただの人肉でしかないって……」
「神美……そなた、どうして龍仙女の力を?───それに、何故そのような身体に負担がかかりそうな事を……ッ!安直すぎではないか!?何故大人しく待てなかったのだ!!」
白龍は神美の肩を思い切り揺さぶり捲し立てる。
普段は温厚で冷静な白龍とは思えないが、神美を心配しているからこその取り乱しである。
「陛下…、落ち着いて下さい。」
青龍が落ち着かせるように、白龍と神美の間に入り、宥めた。
我に返り、「済まない……」と小さく呟いた。
「ご、ごめん……なさい。でも……!!皆だけに辛い思いはさせられないよ!!。元は美豚の呪いのせいでこんな事になったようなものじゃない!!。だからあたしは!!…───あたしは、ちゃんと責任を取りたい…!」
「責任を取る……───それは、この世界では"命をかける"と同じですが……、貴女…死ぬつもりではないですよね?」
青龍の冷たい声音に、一瞬───空気が冷たくなる。
「死んで……全てを終わらせようなんて、虫のいい話は許されませんよ」
「…………───あっははは!、死ぬわけないじゃん!。だって、やりたい事いーーーっぱいあるんだよ?───それに、おばあちゃんが……力を与えてくれたから……。」
神美は左手の薬指に嵌めていた指輪に触れる
「この指輪に……おばあちゃんの魂が眠ってるんだって……。おばあちゃん、あたしをキョンシーから庇う為に……龍仙女の力……使い果たしちゃったんだって」
目に涙を浮かべ、指輪を固く握りしめる。
神美は五龍に頭を下げ
「皆の……大切な人を奪って……ごめんなさいッ!!!」
龍仙女は五龍にとって、主であり、育ての親でもあり、かけがえのない存在であった─────
その主が生命をかけて護った娘は……
「……あんた、勘違いしてねぇか?」
今まで黙り込んでいた赤龍が口を開き、その場で跪いたのだ。
黒龍───黄龍──青龍も赤龍に続く。
その状況に戸惑う神美───
白龍はその手を取った
「龍仙女はそなたに全てを捧げ──そして、託した。神美……お前が、たった今…我等の龍仙女となったのだ。」
「あたし…が?───」
「その力……その身に纏っている衣は龍仙女にしか扱えない。それが証拠だ」
そうか……龍仙女……
"こうする"事で、神美は五龍に護られ、神力はそなた自身の力……
その身が果てようとも、最期まで護る気なのだな。
ならば私も最善を尽くそう──────
そして──白龍も跪き、神美の手の甲に唇を落とす。
「我々五龍は、そなたの物となった」
「そんな……───あたしは……」
龍仙女になった所で、あたしの命は限られている───
皆には口が裂けても言えないけど……
あたしは、痩の実を食べたのだから……
龍仙女の力を手にしたのは───それは青龍の力、幻眠香から目を覚ました直後の事だった───
「貴女様が嵌めているその指輪には、龍仙女様の魂が封印されております……」
「たま…しい?」
それは─────死んだってことなの?




