第二十六章「親友」
白梨国・宮殿にて─────
帝の神聖なる玉座を撫でる女官が居た。
女官の背後には無数の不気味な影……
「柘榴様……準備は整いました。」
「五龍が我等の手中で転がされていた事に気付き……もう時期此方へ戻って来る事でしょう」
「漸く美豚を手に入れられるのですね……」
「御苦労……───影達よ……」
そして"帝"の玉座に座り、妖艶な笑みを浮かべるのは、後宮の女官長であり、全ての"事の発端"を生み出すのに利用された───柘榴だ。
役職は女官長という位が上であり、身なりは上級の妃には劣るが、その出で立ちは高貴に満ちている。
「やっと…………この時が来たのね」
柘榴に跪くのは、百官でもなければ人間でもない────
無数の僵尸の影達だった。
「百官含め、兵士達は既に洗脳済みです。五龍はいつでも殺められる状態でござります」
「そう……。白龍帝…それと……───いいえ、白龍だけは、生かしたまま……私の元へ連れて来なさい。」
「御意」
(陛下が………私だけのものになる)
「ずっと………、お慕い申しておりました……」
あの日からずっと……
胸を抑え、クシャ…ッと、衣を握り締めた。
すると、柘榴は体内から邪悪な気配を察知する。邪悪な気配はクフフ…と、不気味な笑い声を漏らした。
《柘榴……良くぞここまで辿り着きましたね……。
貴女の"望み"は叶えましょう……。
ですが………────その"心の迷い"は……
私の計画には邪魔なので、今直ぐに捨てなさい。》
「も……申し訳ございません…!! 僵尸様……。私は…そんなつもりでは……!!」
《貴女は帝だけ…お傍にいれば良いのでしょう?。父や母から注がれなかった愛は……
彼からだけで十分ではありませんか?
……それなのに……───それ以上何を求めるのです?》
「あ……ぁ……っ…申し訳、ござい…ません」
《少し……長すぎましたかね?人としての心は捨て切れませんでしたか……》
「お許し下さい……ッ!……おゆるし……くださ……い」
《ええ……貴女は可哀想な子ですから……。
だから……貴女の手で、殺して下さい。
黄龍を……
そうすれば、許してあげますよ……クフフ…ッ!》
カランッ…!!と、柘榴石の石で出来た短剣が床に落とされた。
「ッ………」
黄杏……─────
貴方のこと、実は嫌いだったけど
嫌いな分だけ、信頼もしていたし…
私を慕う妃達の中で、媚びない貴方が
初めて人に対して抱く「憎しみ」とか「愛情」とか「友情」なんて……。
ふふ……、何もかもが面倒臭い貴方だけど、私と同じくらい……それ以上の陛下に対する「愛」を、私は感じ取っていたわ。
何故かって?
「"親友"になれそうね、私達!」
本心なのか───無意識に口から零れた言葉は、目の前の不機嫌そうな妃を困惑させていた。
「はあ?なんでアタシが…あんたみたいな、したたかな女と親友になんなくちゃいけないのよ!」
「それは、黄杏と私が似ているからよ。……だから、もし……私が道を踏み外しそうになったら、迷わずに私を殺して頂戴ね」
「お断りよ!勝手に決めないでよね!怒」
「ふふ……───約束よ」
助けてね─────
でないと……私は……
貴方の大切な存在まで殺してしまうかもしれない。
「……僵尸様、私には友等はおりません。必ずやこの手で、黄龍含めた龍を殺してみせましょう。……そして、美豚も……」