第二十四章「対面の時」
火龍果国・花街の山巓
「此処が、時の髄……」
火龍果国の花街には、客の好みや欲をより満たす為に
「華の髄」「月の髄」「陽の髄」「風の髄」もう1つは「時の髄」と呼ばれる────五つの区域ならぬ髄域で分けられていた。
何故「髄」が付くのか聞いたところ、「骨の髄まで喰い尽くす……──って、意味やで♪」と、妓女が笑顔で言っていた……──いやはや恐ろしい。
広い花街の奥の方に聳え立つ山巓には、立派な小屋が建てられていたのだ。
そこが、時の髄────
この場所を教えてくれた妓女が、「時の髄は、機嫌を損ねると数千年先に飛ばされてしまうよ」
と、クスクスと冗談を仄めかしていたが……
「ほ、本当に大丈夫かな?」
「私的には……このままで良いと思いますけどね……───特にこの二人は……」
そう言って首根っこ……どころか赤と黒の小さい龍の首を鷲掴みする青龍。
子供の姿でいられるのも時間が限られてしまい、体力が落ちると本来の龍の姿に戻ってしまうらしい。……と、言っても…めちゃくちゃ小さいちび龍なので、迫力0。
じたばたと二匹は暴れるが、力の差は目に見えていた。
そんな様子を見ていた白龍は、神美の腕の中で"きゅうぅ……"と、怯えて小さく丸まっていたのだ。
「シャ、小龍!大丈夫だよ!。あたしが頼んで、絶対に元に戻してみせるから!………って、言っても……本当はあたしが元に戻せたら良いんだけど……──ごめんね」
尻尾をパタパタと力無く動かし、瞳を潤ませていた。案外、繊細な心の持ち主なのかもしれない。
「……」
「黄龍?」
その後ろで黄杏の姿になって、ずっと深刻そうな表情を浮かべている黄龍。
「……黄杏!!」
「!っ……な、何よ?!」
「大丈夫だよ!」
「……ったく、簡単に言ってくれるわね。大丈夫って何よ?───アタシは、許さないわ。女として、"自分に価値が無いと思った"事……──魂を売ってまで……人を死なせてまで……ッ────その苦しみを分かってあげれなかった……。」
「……その言葉を聞いたら、きっと…救われるんじゃないかな」
「……神美」
震える黄龍の手を取り、神美は優しく微笑んだ。
しかし、間髪入れずに青龍が冷酷な視線を神美と黄龍に向けた。
「……酷な事を言うようですが、もし…この"時の髄"にいる女性が───若榴だとしたら……───本人と僵尸ごと始末せねばなりません。───我々、五龍は……世界を護るのが役目ですから」
「先生!!……」
「綺麗事だけじゃ、救われないのが現実です。……我々が五龍と龍仙女様と関係がある事は、公にしない方が良いでしょう…。下手をすれば……、元に戻れない上に、命を奪われるかもしれませんから…。」
確かにそうかもしれない……。
完全に魂を喰われたとしたら、それは若榴ではなくて、僵尸───
(許せない……ッ───関係のない人達を巻き込んで、利用してッ!)
「……そういう事なので、此処からは人間の子供の姿になって頂かないと困ります。」
"なれますよね?"と、赤と黒の龍を脅す青龍。
赤龍と黒龍は慌てて姿を変えて、泣きながら神美の足元に抱きついた。精神まで幼くなってしまったのか……
「あ、あいつ!!らんぼうすぎなんだよ!!泣」
「うえぇぇぇ~んッ!!泣 チーちゃんごわいよぉぉぉ~ッ!!」
「先生!もっと優しくしてあげて!」
「無理です、嫌いなので」
「んな、キッパリと……」
キィ……─────
すると、小屋の戸が勝手に開いた
「……お客様ですか?───」
現れた女性は、白髪を簪でまとめ上げ、赤い衣を身に纏う───痩せ細った身体には白粉が塗られていた。
「あ、貴女は……」
「……私は、この時の髄の妓女……───いえ、時の一族の者でございます。……こんな所ではなんですから、どうぞ中へお入りください───…龍仙女様と、お呼びすればよろしいでしょうか?」
「え…!?───なんで、龍仙女の事を───」
「うふふ…、そちらの方々は…五龍様でございますね?。」
「……私達の事を知っていると?──」
「時の一族では、有名な伝説ですから……」
「……貴女…名前は?」
黄龍が時の一族の者と申した妓女に名を聞くと……
「───若榴と申します」




